ロジスティクス幹線輸送の富士運輸グループ(奈良市)が、大型車両の緊急時代車手配サービス事業に参入する。レッカーロードサービス事業を展開するJHRネットワークサービス(JNS、東京都港区)と共同で、代車手配サービス「イザトラ」の提供をことし8月に始める。運輸会社が自社車両を代車として提供する取り組みは、業界でも珍しく、所有するトラックの有効活用による運輸企業の新しい収益ビジネスモデルとして注目を集めそうだ。
富士運輸は、大型トラックのさらなる有効活用による新ビジネスの創出を検討。事業展開の幅を広げたいJNSの意向と合致し、今回の代車手配サービスが実現した。富士運輸は、全国の協力会社20社と連携し、トラックが故障しても輸送業務を継続できる「支援策」として、24時間対応で大型車両の台車手配サービス事業を引き受けることとした。富士運輸の運転手の、同業者のトラックが深夜に故障して荷物の積み替えもできずに困っている場面を目にした経験が、今回の取り組みを検討するきっかけになった。
代車手配サービスのイメージはこうだ。車両トラブルを起こした運転手から要請を受けたJNSは、富士運輸に代車の手配を依頼する。富士運輸は、積荷の種類や積み替え場所の確認、危険物の有無や納品場所への入構ルールなど、代車手配に必要な事項を確認したのち、同社の運転手がトラックで荷物を運ぶ。必要に応じて、積み替えのためのフォークリフトの貸し出しも行う。車両トラブルで自走が困難な場合は、JNSがレッカー移動などのロードサービスに別途対応する。
運輸業界の「輸送品質」改善にも貢献するか
高速道路などで、故障した大型トラックが路肩で停止しているシーンをしばしば見かける。こうしたトラブルは運輸業者にとって、納期遅れだけでなく輸送品質の悪化や、その企業の展開する運輸サービスそのものへの信頼低下など、企業価値へのダメージは計り知れない。消費スタイルの多様化に加えて、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う宅配サービスのニーズが高まるにつれて、納期を含めた輸送品質の確保を求める荷主や顧客が急増している現実がある。
運輸業者も、労働環境の厳しさから若年層の採用が難しく、運転手の高齢化が進む一方で、業務効率化という名のもとに車齢の長いトラックを走らせざるを得ないところも少なくない。こうした複合的な要因が重なり、車両故障による輸送品質の悪化を招いている事実は、もっと注目されてよいのではないか。
富士運輸とJNSが今回スタートする代車手配サービスは、こうした「悲鳴」を上げる運輸業者の救世主になるかも知れない。両社が発案したビジネスモデルの斬新さもさることながら、業界全体の利益や信頼感の確保のためにも、この取り組みの推移を追跡していきたい。(編集部・清水直樹)