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国交省、高速通行料金の変動制への移行案を検討へ

2021年8月10日 (火)

話題国土交通省が、高速道路の通行料金体系を変動制に移行する方向で検討を始めた。「公平性」「分かりやすさ」「定期的な評価」を柱とする、利用実態や政策課題により適応した内容にする。物流をはじめとする社会インフラの円滑な運用に不可欠な高速道路。割引適用の時間帯や曜日などによる激しい渋滞の常態化などの課題から、物流事業者の間には、料金体系の見直しを求める声も上がる。物流インフラの維持につながる料金体系の策定に向けた議論を期待したい。

国交省社会資本整備審議会の国土幹線道路部会が7月26日にまとめた、今後の高速道路料金に関する中間答申案で、地方部の休日割引については繁忙期の適用を外すほか、深夜割引の見直しも提示。渋滞が慢性化している大都市圏は時間帯や曜日に応じた変動料金を導入する。大口・多頻度割引についても、現在の経済状況や公平な負担の観点から検討を続ける。

(イメージ)

物流事業者にとって関心が高いのが、深夜割引の議論の行方だ。現行の深夜割引制度は、ETC無線通信を使って、午前0時から4時までの間に対象となる道路を走行した際に適用される。注目なのは、適用条件となる日時の判定方法だ。東・中・西日本の各高速道路会社(NEXCO)によると、「入口または出口料金所の通過時刻で判定する」としている。

深夜0時に差し掛かる時間帯になると、深夜割引の恩恵にあずかろうとする大型トラックや乗用車が料金所の直前で列を作る風景は、もはや珍しくない。物流事業者にとっては、現行で通行料が30%程度安くなる深夜割引制度の適用を受けるかどうかは、輸送コストに大きく響くからだ。

今回の中間答申案では、現行の深夜割引制度の課題について「割引適用待ち車両の滞留」「運転者労働環境の悪化」と指摘。割引適用時間帯を拡大する
方向で検討するとした。休日割引については繁忙期の適用除外とする方針も盛り込んだことを合わせると、割引原資のより適切な活用方法を模索するようだ。

休日割引については、繁忙期を除外する一方で、観光周遊などを対象とした割引拡充案も打ち出している。具体的な制度設計はこれからだが、休日割引の本来の趣旨が観光振興にあると考えれば、いわば原点に回帰した議論が進むと言えるだろう。物流事業者にとって頭の痛い、年末年始やお盆シーズンの幹線輸送のスケジュール設定が緩和される可能性もある。

料金策定の議論には、国民生活を支える「物流インフラ」維持の発想を

国交省の国土幹線道路部会がまとめた中間答申案は、2014年に移行した現行の高速道路料金体系が実態にそぐわなくなっている実態を浮き彫りにしている。産業界を支える物流インフラ機能と観光活性化の両立を果たすには、もはや限界に達している。

現行の料金体系は、利用重視の発想で策定された。導入から7年が経過し、例えば物流業界では、EC(電子商取引)ビジネスの拡大による高速道路を使った適時輸送の頻度が高まった。輸送料金の競争も激化し、損益分岐点ギリギリのところで収益を捻出する必要性から、高速料金などの輸送コストを極限まで削らざるを得ないのが現場の実情だ。

(イメージ)

一方で、ドライバーの高齢化がさらに加速するなかで、安全確保だけでなく若い世代を呼び込むためにも労働環境の改善は欠かせない。こうした矛盾した実情を象徴するのが、午前0時の寸前に料金所前で待機するトラックの列だ。

高速道路は、物流インフラの維持を支える社会資本だ。もちろん物流のためだけのものではないが、国民生活を守る物流を強くするには、高速道路の的確な運用は欠かせない。全体最適を主眼とする料金体系の策定はもちろん大切だが、物流インフラに軸を置いた方策についても、ぜひ議論の柱に掲げてほしい。(編集部・清水直樹)