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物流改革を任せる「適材」はどう探すべきか/論説

2021年9月29日 (水)

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話題昨今は物流機能の自動化に向けた大規模投資などに関するニュースが多い。かたやで、そのような華々しい動きはごく一部の大手企業に限られている。多くの企業はその規模に関わらず、既存の物流機能の改善やコスト削減に四苦八苦しているのであり、自動化うんぬん以前の段階で迷走しながら、次のステージを目指している。

コロナ不況による運送事業者自らの値崩しや、大規模倉庫の過剰供給を受けた既存倉庫の保管料の値崩れなど、荷主にとってはコストダウンの追い風もある。しかし考えをめぐらせれば、それは地盤沈下する先行きの厳しさを示唆しているのだと知れてくる。「自社においても何らかの物流改革が必要」ということは、容易に分かるのである。(永田利紀)

「とにかくコストを下げろ」と言うが

まともな経営層であればコストダウンの恩恵を享受しつつも、生き残りのための戦略として、今まではほとんど気にしていなかった物流機能の方向性について再検討するのは不思議のない話だ。そして、あれこれとそれらしい能書きを述べながら、要は「無駄があることは明らかなのだから、とにかく物流コストを下げろ」と言い出す。

しかしトップが号令すれば、組織が即座に反応して、目に見える変化が起こる時代は終わったのではないか。少なくとも物流部門については、物流業界に長く身を置いてきた人間としての実体験から、そう断言できる。

例えば、経営者が「自らの分身」と高く評価するようなエース級人材を物流部門に投入しても、かつてのように「効果てきめん」とはならないことが多いと感じる。そもそも物流部門を経験したことも、関心を持ったこともない経営陣たちの定規で測った「適材」が、物流部門を「適所」とできるかどうかは未知数なのである。

他部門の正解が当てはまるとは限らない

それまでの人事ではありえないような、営業部門や仕入部門のエース級を物流部門に投入したのに、望む成果が得られない──。それは不適合の結果なのか、はたまた能力を買いかぶりすぎていたのか、と思うところだろう。しかし実際のところ、物流機能の改善を目的として、他部門での正解を単純に物流にも当てはめることは、不首尾の原因となることが少なくない。

それは物流機能の滞りや不具合の種が、そもそも倉庫や配送以外の場所でまかれたものであり、単に現象化した場所が倉庫内や配送先であったに過ぎない、ということも多いからだ。仕入や販売など、対顧客の最前線とされる場所での創意工夫や気の利いたサービスが、時には最終ラインの物流現場に、複雑な属人性の高い業務を要求することもある。皮肉なハナシではあるが、顧客のための業務が顧客に迷惑をかける結果を招くのである。

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物流業務においてはそのようなことが、数多くの企業で起こりうる。物流現場の混乱や不首尾の種は、現場そのものではなく、営業部門や仕入部門でもまかれているという事実を、正確に把握することが改善の第一だろう。その辺りの事情を理解できる「エース級」こそを、物流部門に投入する必要がある。

では、そのエース級を、うまく物流改善の立役者にするにはどうすればよいのか。それはまず「着任者に期待する正解」を一度リセットし、上席や経営陣たちはその人材が取る選択や行動を見守る忍耐と信念を持つことだ。「お客様本位」や「サービスへのこだわり」といった企業内で絶対的価値を持つ言葉が、実際には自社の物流機能の自主性や合理性を妨げたりしていないか、再検討してみる必要がある。自らの成功体験を物流業務にまで無理強いしていないか、疑ってみるべきだろう。

物流の世界には「地震みち」が存在する

各企業内でこのような議論がなされれば、歴代の現場責任者や物流管理者たちが、改革にてこずってきた経緯も理解できるはずだ。もちろん「お客様本意のサービス」が悪いということではない。しかし運用方法については、それを支える下流にまで視野を広げられなければ、いつまでたっても営業力や販売力や企画力ばかりが肥大して、それを支える物流機能がお粗末な結果しか出せない状態が続く。

物流は営業や販売の仕上げとなることが多く、リレー走ならアンカーにあたる。アンカーにエース級を投入するジャッジ自体は、戦い方の定石だ。しかし、第3走者まで快走しておけば、アンカーは放っておいても無事にフィニッシュするものと思い込んでいるなら、それはあまりにも不明に過ぎる。バトンを受けて走りだそうにも、目の前に障害や曲がり角、迂回せざるを得ない状況があることは珍しくない。

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では、なぜそのようなありさまになってしまうのだろうか。もしあなたが新任の物流管理者や現場責任者であるなら、まずは誤出荷や在庫差異の生まれる場所を探し訪ねることから始めるべきだ。なぜなら、物流現場だけを懸命に分析しても、そこでは「結果」しか得られないからだ。誤出荷や在庫差異の「原因」を突き止め、トラブルの種や芽を摘み取る必要がある。

地震には震源から遠く離れた所で異常に震度が大きくなるケースがあるが、かつては地中に地震が伝わる「地震みち」という特別な経路があると考えられていた。物流の世界には、その地震みちが存在する。「震源は、ついこの間まで自分自身がいた場所だった」ということが、結構な確率で起こるのである。そのような地震みちを見分け、大地震が起こった場合でも冷静に各部門と協力して再構築を進められる人材こそ、コスト削減を含む物流改善には必要なのである。