ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

物流現場を支える「気合わせ」の効用/論説

2021年9月22日 (水)

話題私的な造語ながら「気合わせ」という言葉を、仕事の節目節目で使うことが多い。スポーツや武道の試合が始まる際に、自身の属するチーム内で円陣を組んで掛け声や合言葉を唱和したり、手を突き上げたり、ポーズを取りながら全員が一斉に声を上げたりすることを、私は気合わせと呼んでいる。(永田利紀)

「気」を合わせることは、礼節にも不可欠な作法として、多くの場面で行われている。今やすっかり減ってしまったようだが、企業内での朝礼時の挨拶や社是の復唱は、基本的な行動規範の確認に加えて、瞬間的な気合わせの効用があると考えている。それは多くの物流現場でも行われているし、他業種でも同じだと思う。

会話よりも「価値観の共有」が重要

物流現場での気合わせが活きているか否かは、日常の出来事や言動によって明らかとなる。その効能を説明するには、俗にいう「共感」や「共鳴」や「共振」という表現がふさわしい。

(イメージ)

17日掲載の論説「強い物流現場は『多様性』の最先端を行く」でも語ったが、物流現場に限って言えば、言葉が通じなくても、カタコトでも、ジェスチャーでも、意思の疎通は何とかなるものだ。肝心なのは、もっと深いところで意識や感覚が合っているか否かである。

難しい、高度なレベルを求めている話ではなく、日々の基本的なことを言っている。例えば誰かが、通路に落ちているゴミや資材の断片を見過ごしたり、拾ってゴミ箱に捨てなかったりしていれば、そのことの方が、現場にとっては会話の不便さなどよりも問題があるといえる。

誤出荷をしてしまったことについて落胆しなかったり、ピッキングミスをしてしまった原因について追求しようとしなかったりするのであれば、そのような現場は「気合わせができていない現場」で、業務の根本となる価値観の共有がなされていないということになる。火急の意識改革が必要だ。

逆に、それらの事象が面前で起こった際に、同じように感じ、次の行動を共にできるのであれば、それ以外の細かな属性などの違いについては、こだわらずともよいのではないかと考えている。各人が気合わせにより気持ちと気持ちを合わせ、自分が担う実務に注力し、エネルギーを注いで一つ一つのギアのごとくうまく噛み合う現場であれば、「健常に運営されている」と評価していいと思う。それが、優れた管理者のいる現場の特徴だと考えている。

気持ちを合わせて、根の部分を一致させる

17日掲載の論説では「物流現場は多様性の最先端を行ける」と主張したが、「多様性」に関する曲解や誤解は打ち消しておく必要がある。多様性は大事だが、まずは現場というものは、厳粛な規律の上に成り立っていて、その順守は基本的な約束事だ。

(イメージ)

たとえば挨拶ができなかったり、前述したように倉庫や車庫の美装規則を違えたり、業務フローや作業手順を自分勝手に変えたりすれば注意される。同じ違反やミスが重なれば警告を受け、それでも改めなければ処分される。これはあくまでも規律の徹底であり、個性や権利の出しゃばるところではない。全員が同じルールに従って行動しているだけだ。

しかしながら全部が全部、理想通りに運ばないのは、どの現場でも同じだろう。ゆえに手順や作業内容の見直し・改変を常に施す柔軟さを失わず、意見や提案を吸い上げて検討するシステムの維持が、規律管理者の責務として必要となる。それでこそ多様性も活きてくる。

上席者は、表面的には不平や不満と聞こえてしまう内容であっても、まずは受け止めて、掘り下げて想像してみるべきだ。「実は不備や不安の訴求方法が、言葉足らずなだけかもしれない」と、まずは自らを疑ってみる習慣を身につければ、スタッフとのコミュニケーションや信頼関係の質も変わってくるだろう。

その際に、相手のハナシを聞くために必要となるのが、業務規範に関する基本的な共通認識だ。日頃の「気合わせ」によって各人の気持ちと気持ちを合わせ、根の部分が一致していれば、その他の些細な違いについては、問題とはならないだろう。

「精神論」と切り捨てないで欲しい

(イメージ)

今後、AI(人工知能)による知的先進技術の台頭と、普及の世が到来しようとも、気合わせを「前時代的精神論」と切り捨てないで欲しい。挨拶や美装など、基本的な部分のルールや意識の統一は、時代を超えて、仕事人たちの基本に据えられるべきだと思っている。

同じ気持ちで、同じ時に、同じ場所で、同じ目的に向かう者たちなら、見つめる先や足並みは自然と揃うだろう。日々の気合わせによって、気持ちや価値観を共有し、礼節を守ることで、業務を円滑に進める土台としてみてほしい。毎日の営みの積み重ねが、未来への歩みとなる。