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委託は悪ではない、依存が悪なのだ/論説

2021年10月5日 (火)

話題物流コンサルタントを務める私が、物流の改善や現状の評価を依頼する企業を初訪問する際に、必ずする質問がある。それは「自社の物流機能の問題や課題は何か」「自社の物流機能がどうなってほしいのか」の2つだ。しかし私の経験によれば、このことについて具体的に語れる経営者や経営層は極めて少ない。

かたや、現場の社員やパート従業員などは、断片的で対処療法的ながら、実に明瞭簡潔に即答することが多い。現場での問題意識が明確で、改善後の適切な絵図が頭に描けているのだろう。(永田利紀)

経営層ほど気づかない

(イメージ)

そこだけを比べてあげつらうわけではないが、経営層はもちろん、物流以外の各事業部門の責任者諸氏も、普段から物流業務の現状の聴取や検証に割く時間を、短くてもよいから確保して欲しい。単なるミスや軽微なトラブルとして報告されてくる出来事の中に、見過ごせない違和や引っ掛かりを気付くことができるのは、往々にして経営層ではなく、それよりも下の役席者だ。

現象としてのミスやトラブルの原因は、報告書にある事象のさらに奥深くにあったり、別の場所での原因が結果として物流現場に出現しただけのことだったりする。そのようなハナシは物流に限ったことではなく、他部門にも当てはまることだろう。あらゆる事業部門の、すぐれた役職者が聞いてうなずくはずだと思う。

さて、企業の経営層は、それに先駆けて自社の理想と未来を語る必要がある。最上位の方針として経営理念を明文化し、告知することが職責だ。そして上位方針にひもづく戦略が練られ、さらには方策や計画に落とし込まれてゆく。

一連の理想や未来を具現化するための手法として多く採用されているのが、中長期の経営計画の策定である。最近では個性あふれる書式や斬新な構成のモノも増え、従来の有価証券報告書の加工版さながらの堅苦しい読みものではなくなってきている。

そしてその中身は、「営業とは」「開発とは」「管理とは」「広報とは」と各社きちんと定義されていて、それぞれに信念を感じる言葉が並ぶ。納得したり感心したりしつつ、熟読してしまう。

物流は戦略上要らんのか

(イメージ)

しかし「物流とは」とは、どこも企業の計画書にも書いてないではないか…。これはいったい、どういうことなのか。事業戦略まで読み下りても、まだ出てこない。

戦略上要らんのか? いや、絶対に要るだろう。当たり前ではないか。

こういう時に、物流業務を外部委託していると、計画を策定する側は都合がよい。

「物流につきましては、委託会社様とより緊密に連携し、顧客満足の価値を共有することによって、単なる協力会社という位置づけではなく、さらに一歩踏み込んだパートナーとして、ともに一層の業務品質の向上に努めて参る所存であります」

といった主旨の説明が多いだろうか。まさにその通りであるし、ケチのつけようはない。しかしながら私が知りたいのは、その企業が物流について、どう考えているかだ。

経営層が物流を語れるか

(イメージ)

委託せずに自社で行うとしたら、経営層はどうしたいのか。そもそも自社の物流機能は、顧客に対して何を約束するのか。その約束が結ぶ果実は、顧客や取引先などのステークホルダーにいかなる利益と利便をもたらすのか──。

そのためにどのような策を講じているのか。建屋の建築や協力会社との連携以前に、自社に必要な物流業務とその設計をどのように考えているのか。戦略や計画に必要な組織編成と人材育成は可視化され、共有されているのか。そもそも物流の最終責任者が経営者であるなら、その直下の次席は誰なのか──。

自社が顧客に提供するサービスの最終段階を担う物流機能について、自ら語れない経営者などいるはずがない、と信じている。たとえ現状が3PL企業などへの丸投げ型や、外部委託型であっても、庫内作業は全て下請けが動かしている自社物流であっても。

しかし実際によくあるのは「物流方針の肝は委託先企業の最適な選定と、相互理解による強固なパートナーシップです」というコメントである。物流業務の中身やその出来は丸投げする相手次第、というわけだろうか。

委託することが悪なのではない。依存することが悪なのだ。多くの企業がその違いに気づいていない。日本中の経営層は自社の物流業務について、週に10分間だけでもよいからしっかりと考えてみていただきたい。それが私の切なる願いだ。