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論説/物流機能は経営の下半身

2021年3月19日 (金)

話題現場の人員配置は、現状は及第であってもそこに安住せず追求し続けなければならないテーマの一つ。そしてそれは物流業務だけにとどまらない。製造業の生産性や現場改善については、ここで述べるまでもないことであり、そのノウハウの数々は世界標準となって、教科書的な扱いとなって久しい。それも技術の一つと評してよいのだろうと思う次第だ。

物流の場合には、入荷出荷の週月年の波動分析と日計総工数、延べ時間、作業者の多能工化の進捗度によって必要総時間が算出でき、必要人員数が決まる。
しかし、書けば容易いこれらの要素が、組み合わさったり数値変動したりすると、難解で出口不明の暗いトンネルと化す。くれぐれも入口に見定めを損じないようにと、老婆心ながら申し上げる。(企画編集委員・永田利紀)

迷路の入口

(イメージ画像)

よくあるのは、現状の仕入れや受注の実態は検証なしで、いきなり物流現場の分析に取り掛かるパターンだが、すでに迷路をさまよい始めている。帳票類や業務フローを引っ張り出して、机の上に広げて、あれやこれやと検証や議論を繰り返す光景は、たびたび見かける「物流部あるある」の典型事例だ。

結論から言うと、現場をいじくり回しても大して変わらない。いじくり回した事実だけが努力として残るが、報われることはあまりない。にもかかわらず、懲りることなく寄り合っては、解析を繰り返すのだ。

現場改善に着手してから相当月数が経過しているが、一向に成果らしいものは得られていないし、先の光明もまったく視えないままだ。そして、これまたありがちな「物流は物理的要素が大きい。抜本的な改変を乱暴に急ぐと、お客様に迷惑がかかるので、じっくりと取組まねばならない」といった言葉が、常套句として締めの言葉になる。

会して、決めて、行う

内部者の誰かが指摘しないのであれば、不肖ワタクシが断言してもよい――間違いなく本末転倒である、と。そもそも物流現場の改善は顧客へのサービス向上とコスト転嫁の極小化のためにやるのだ。それを競争力と解している。

「会して、決めて、行う」ことを旨とし、会議に時間をかけず、可及的速やかに、そして現場を数日止めてでもやり抜く覚悟がなければ、真の改善は不可能と考えていただきたい。その間、顧客には不便をかけることになるが、余裕のある事前告知と丁寧な趣旨説明、再開後の顧客メリットを約束できれば理解は得られる。

休止期間の欠品防止策と緊急対応が備わった内容であれば、顧客へのしわ寄せは最小限に抑えられるはずだし、その按配は営業担当が心得ている。「ウチにとって何が得になるのか不明だし、いきなり来月下旬予定と言われても困る」など、顧客の反発を招きかねない段取りは絶対避けるべきだ。

「上」の汗は効果抜群

併せて、仕入先とのルール改変にも絶好の機会なので、これは偉い方々の出番となる。顧客相手ならいそいそ出向く経営層、管理層ではあるが、仕入先にはそうそう足を向けない。ここは是非訪問して、腰を低くし頭を高くしながら、仕入先には発注から納品までの流れを全社共通事項として周知徹底するよう、依頼するべきだと進言させていただく。

「相談や伺い」ではなく「決定事項への理解と協力願い」でなければならない。もちろん不退転の決意が誰の目にも明らかな文体と開始の日付入りで。

上が汗をかけば下は楽になる。上が汗をかけば下はキリット締まる──そりゃそうだろう。でも、単に現場に楽をさせるのではない。不要な戸惑いや猜疑がなくなり、課された仕事に没頭するのみの現場ができあがる。そのうえミスや勘違いの言い訳は激減する。

過去の経験から記せば、業務効率が向上すればするほど退職者数が減る。その理由は、忙しくなっているにもかかわらず働きやすくなっているから、なのだろうと分析している。これは、実際に数多い現場スタッフにヒアリングした集計結果でもある。

速く走り、高く跳ぶために

(イメージ画像)

庫内作業現場の各所で、業務スケジュールや設定消化数量は以前よりタイトで厳密になったのに、楽になる。切り替えや資材補充の待ち時間がほぼなくなって、まさに息つく暇もないのに――という事例は多い。

同一作業現場での同一業務であるにもかかわらず、リズム悪く、緩急のまだらな出現が続くより、ひたすらに目の前の作業に没頭するほうが、身体に疲れを感じにくく、時間の経過も速い。そこまでできて初めて一人前、と呼ばれるのが現場責任者の基本であるし、居並ぶ物流現場には必ず存在している。

もしそうでなければ、その事業会社や営業倉庫は早晩に事故やトラブルまみれになって、最終的には顧客の信頼を失うはずだ。事業経営において、攻守に優れた強い会社には、強靭な下半身が備わっている。その一つが物流機能である。

企業が勝負の時を迎え、より速く走り、より高く跳ぶことを欲する時が必ず来る。そんな場面で差がつくとしたら、理由は事業の下半身の違いであるかもしれない。

上半身に偏らないバランスよい体躯を作ることは経営陣の受け持つべきところ。明晰な頭脳に屈強な腕力。それを支える強靭な下半身。それはまさに優良企業たるバランスの良い体躯で、誰もがそう認めるに違いない。