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荷主のニーズ満たせぬ実態

ECフルフィル、読者調査の結果明らかに

2022年1月13日 (木)

話題LOGISTICS TODAY編集部は、2021年12月17日から24日にかけて物流企業や荷主企業を中心とする読者に対して実施した、EC(電子商取引)フルフィルメントに関する実態ニーズ調査(有効回答数480件、回答率15.2%)で、決済やコールセンターといった専門性の高い業務の提供に高い壁がある実態が浮かんだ。製造業や小売業など荷主企業もこうした業務の外注には及び腰になっているようだ。

ECで商品が注文されてからエンドユーザーに商品が届くまでに必要な業務であるフルフィルメント。ECサービスがさらに広がりを見せるであろう今後、物流業界でフルフィルメントのさらなる最適化を図るには、こうした領域の受託にビジネス機会を見出せる企業の参入や、物流事業者内でのノウハウの養成などの取り組みが不可欠だ。

回答者の主な内訳(複数選択)は、物流業72.7%▽製造業11.3%▽小売業4.8%。EC関連事業を展開している企業は全体の43.3%だった。(編集部特別取材班)

物流事業者は「物流」を強みとしてECフルフィルメントに参入している

消費スタイルの多様化を促しているECサービス。インターネットで注文した商品が、店頭を介さずに手元に届くためには、注文を受けた商品が適切に検品を経て輸送されることが必須条件だ。その役割を担うのが、ECフルフィルメントだ。

業務内容は、入荷から検品、保管、梱包・発送などのいわゆる物流業務に加えて、コールセンターや受注管理、クレーム対応などの顧客対応業務も含まれる。こうした業務の全般または一部を代行するサービスとして、ECフルフィルメントは認知されているのが実情だ。ECフルフィルメントを手がける事業者ごとに独自の強みがあり、そこが差別化ポイントになっている。ヤマト運輸など物流事業者だけでなく通販事業者が参入する事例もあり、今後のECビジネス拡大を見据えたプレーヤーが事業化のチャンスをうかがっている。

今回の調査では、まず物流業に携わる企業を対象に、EC事業者からの物流業務受託の有無について聞いた。59.9%が「受託したことがある」と回答。全体の6割で受託実績があり、物流事業におけるECの存在感の高さをうかがわせる結果となった。

続いて、ECフルフィルメントの対象となる業務のなかで自社で受託できる分野について回答を求めた。トップは「発送」で全体の81.7%、次いで「検品」(80.8%)▽「入荷」(80.2%)▽「梱包」(78.8%)▽「ピッキング」(76.5%)▽「棚入れ・商品保管」(73.9%)――となった。

物流事業者がECフルフィルメント関連業務を受託する場合、生業である物流関連業務で差別化を図るのは当然だ。そこには言うまでもなくノウハウが集積しており、むしろその強みをECフルフィルメントサービスに展開することで、成長分野へのビジネス拡大を図りたいのが本音だ。ここでの調査結果も、こうした事情を如実に反映していると言えるだろう。

物流事業者はEC顧客対応に課題が

さらに物流事業者に質問を重ねると、物流事業者ならではの弱点も見えてきた。ECフルフィルメントに関して提供の難易度が高い業務を聞いたところ、「決済代行」が77.7%、「コールセンター」が65.3%と、抜きん出て高い回答率を示した。「受注処理」(43.3%)▽「返品対応」(41.0%)――など、いわゆる物流事業者が本来は担うことのない業務が上位に並んだことに注目すべきだろう。

当然と考える向きもあるだろう。しかし、ここで考察する必要があるのは、ECフルフィルメントの本来の趣旨だ。

ECフィルフィルメントの存在意義は「高い物流品質」と「顧客満足度の向上」であり、いずれもECサービスの最適化には欠かせない要素だ。しかし、フルフィルメントにおける一連の業務をノウハウが蓄積された専門の業者に委託することで、自社で対応するよりも、コストの削減や品質の向上をすることが可能になる。それを実現する取り組みがECフルフィルメントサービスだ。物流業務のみを外部委託する3PLとの決定的な違いはここにある。

決済代行やコールセンターなどの顧客対応は、店頭で商売をしないEC事業だからこそ、避けて通れない命題であると言える。物流事業者は、ECフルフィルメントサービスを本格的に事業化するにあたって、こうしたノウハウを自社で蓄積していく必要があるだろう。顧客対応を生業とする企業との連携やこうした分野に強い人材の外部登用など、手法はあるはずだ。ECフルフィルメントサービスに参入する企業には、新興企業の名前も見られるようになってきている。物流事業者のECフルフィルメントサービスに支持が得られなくなれば、せっかくの物流品質の高さをECで発揮する機会が薄れ、結果としてECサービスのさらなる発展に水を差すことにもなりかねない。

荷主企業の外注も同様に「決済」「コールセンター」でハードルが

ここまで、物流事業者の立場でECフルフィルメントサービスに対する考え方をみてきた。それでは、対する荷主企業の意向はどうか。製造業や小売業など荷主企業に、ECフルフィルメントの外注先を探すうえで難易度の高い業務を尋ねた。その結果で上位を占めた「返品対応」(74.8%)▽「決済代行」(70.6%)▽「コールセンター」(61.3%)に注目してほしい。いずれも前問で、物流事業者が提供しにくいと選択した業務がランクインしていることに気付くだろう。

こうした業務を委託したくても、それを頼める企業を見つけられない。それがECフルフィルメントサービスの現状だ。フルフィルメントのノウハウが蓄積しているプロフェッショナルに業務を委託し、スピードと品質を大幅に改善することで、顧客満足度の向上につなげる。万が一クレームがあった場合でも、カスタマーサポートや返品対応のフローが整えられていれば、安心して活用できる。それがECフルフィルメントサービスの成立する要件だろう。決済やコールセンターといった顧客対応のプロフェッショナルが不足している状況は、荷主企業にも暗い影を落としている。

物流事業者は「一気通貫」の体制構築を

物流事業者の手がけるECフルフィルメントサービスが、AmazonやZOZOなどECビジネス発祥の企業と発想が異なるのは当然のことだ。その意味では、さまざまな出自の企業がECフルフィルメントサービス業界を構成することで、それぞれ強みの領域を選択すればよいのかもしれない。

それでは、なぜECフルフィルメントという概念は存在しているのだろうか。ECビジネスを始めるにあたって、商品開発やトレンド探求などに時間を割けるように、物流やカスタマーサポートなどの業務を外部の専門家に委託する。それが本来の存在意義ではないか。それならば、物流や顧客対応など各分野の事業者に個別に委託するよりも、一気通貫で仕事を頼めるサービス事業者を探すのは必然だ。

今回の調査では、こうした荷主企業の要請に対して、物流事業者は必ずしも満足に対応できる体制にないことが浮かび上がった。ECフルフィルメントサービスは物流業界でも成長余地の大きな領域だ。消費行動の「主役」になる可能性が現実味を帯びるなかで、物流事業者にはECフルフィルメントサービスのさらなる注力に期待したいと考える。

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