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オープンロジ伊藤社長に聞く

ECフルフィルメントの成否のカギは現場運営力だ

2022年1月5日 (水)

話題EC(電子商取引)で商品が注文されてから顧客に届くまでの必要な業務全般を指す「ECフルフィルメント」。入荷から検品、商品保管、受注処理、ピッキング、梱包、発送まで。店員の手を介さずに購入した商品であるがゆえに、安心して手元に届くのを待てるサービス構築が求められる。

消費スタイルの多様化に加えて、新型コロナウイルス感染拡大に伴う宅配ニーズの高まりは、確実にECサービスの普及を後押しした。リアル店舗での商品購入が当たり前だった時代は、すでに過去の話になった。

そんな時代だからこそ、ECフルフィルメントビジネスに期待される業務品質はこれまでになく高まっている。ECを取り巻く物流ビジネスはどこへ向かおうとしているのか。従量課金制のECフルフィルメントサービスを初めて提供し話題を呼んだ、オープンロジ(東京都豊島区)の伊藤秀嗣社長に聞いた。(編集部・清水直樹)

EC普及には倉庫のシステム化が不可欠

ECが普及しはじめた2010年代半ば。EC関連事業への新規参入が相次ぐなかで、オープンロジは固定費ゼロで従量課金制、柔軟に拡張できるフルフィルメントサービスを世に出した。当時の商習慣の常識からすれば極めて特異なビジネスモデルは、物流業界に大きな衝撃を与えた。オープンロジはEC特化型の物流サービスの嚆矢(こうし)となった。

――EC専用の物流サービスに着眼した狙いは。

伊藤 ECビジネスを展開するためにまず必要なのは、商品を保管する倉庫機能だ。しかし、ITシステムでバックヤードを管理する必要があるECビジネスに対応するには、当時の倉庫会社はあまりにもシステム構築が苦手だった。そこに、オープンロジが参入する余地があったと言える。

――急速に新しいプレーヤーが参入してきた。

伊藤 市場でのECサービスの浸透に合わせて、物流企業もECフルフィルメントビジネスに注目し始めた。EC事業者が自ら倉庫事業を手がけたり、大手宅配企業がECに特化したサービスを新たに創出したりと、動きが活発になってきた。業界全体が、ECにビジネスチャンスを見出したからだろう。その傾向は、現在に至るまで変わらない。

あるべき姿は「荷主が物流業務をゼロにすること」

ECフルフィルメントの最大のメリットは、バックヤードを一括で管理することにより、商品を顧客に届けるまでの一連の業務をスムーズに進められる点だ。とはいえ、それを実現するのは決して容易なことではない。先進的な技術を導入すれば解決するものではないのだ。

――多くのプレーヤーの参入に対するオープンロジの差別化戦略は。

伊藤 差別化は今も明確に図れている。オープンロジの強みは、倉庫のネットワーク化による高精度なフルフィルメント業務の実現だ。オープンロジの展開するサービス水準に肩を並べている企業はまだ存在しないと考えている。

――確固たる差別化を維持できている理由は何か。

伊藤 ECフルフィルメントは、システムだけが整備されても機能しない。大切なのはオペレーション能力だ。荷主企業が求める商品や求める作業内容に適合したソリューションを提供することにこそ、フルフィルメントビジネスの本質がある。荷主企業の求めるサービス水準と同等以上の提案をして実行するためには、先進機器を導入したとしてもそれを的確に運用する必要がある。倉庫現場をいかに円滑で的確にオペレーションできるか。そこにフルフィルメント事業の成否がかかっている。

――設立から8年、顧客へのサービス提供に手応えはつかんでいるか。

伊藤 いわゆる「あるべき姿」には全く到達していない。オープンロジが顧客の物流業務に介在する「価値」を示さなければならない。その価値とは、荷主企業が物流業務に携わる「時間」「人」などのリソースを極限まで減らすことだ。究極は、荷主の物流に関連する業務は全てオープンロジが担うこと。その水準に到達しない限り、満足なサービス提供はあり得ない。「オープンロジに頼めば、通常の物流業務だけでなくコスト分析に基づく最適化提案までしてくれる」と言われることが、フルフィルメントサービスの「あるべき姿」だ。

荷主の「物流にかかわる業務」をなくすことがフルフィルメントの使命

ECフルフィルメントは、顧客の細かな要望に対応することで、企業のブランディングにもつなげられるのが特徴だ。ただの介在業者にとどまらす、荷主企業との信頼関係に裏打ちされたタッグを組めるか。それを実現するオペレーションこそがフルフィルメントの効果を最大化する分かれ目だ。オープンロジが目指す到達点もそこにある。

――フルフィルメントサービスのさらなる品質向上に取り組むことは。

伊藤 荷主が担う物流関連業務を分析し、それを減らすことで負荷低減につなげていく。それを実現するためのプロダクト開発が喫緊のテーマだ。通常の運用業務が自動化されている状態がベストであり、そのためにはコストや配送の最適化を図る必要がある。

――それを実現するには、オープンロジの体制も強化する必要がある。

伊藤 システム開発者だけでなく、顧客に提案できる人材の強化も必要だ。それがプロダクト開発力にも直結する。今後、EC市場は拡大を続けていく。荷主に提供できるソリューションの精度をさらに高めていく必要があるのは言うまでもない。それに対応した組織運営にしないと、フルフィルメントの根幹であるオペレーションを高められない。

――将来、オープンロジが自社拠点を持つ構想はあるか。

伊藤 現時点ではない。ただし、自社の拠点をオペレーションや実際の運用を試すRD(研究開発)の場と位置付ける考え方はある。あくまでオープンロジはプラットフォームを開発する企業でありたいと考えている。自らが物流会社になる意思は全くない。

フルフィルメントにおける生産性改善の秘けつは「オペレーション力」

将来のEC市場拡大を見据えて、さらなるフルフィルメントサービスの提案力を高めていくオープンロジ。ECフルフィルメントに求められる役割は、さらに広がっていくだろう。物流現場の課題解決策として注目が集まるDX(デジタルトランスフォーメーション)化の取り組みは、ECフルフィルメントの「あるべき姿」とどう重なるのだろうか。

――今後のフルフィルメントサービス展開でこだわりたいことは。

伊藤 1社ではなく複数社の物流業務を介在できるようになりたい。1社のみを対象にしていると、その会社のためだけの物流支援になってしまうからだ。複数の会社の物流業務をフルフィルメントという形で支援する方が、より幅広い価値の提供が可能になる。「倉庫企業の代わりに荷主を連れてくる」役割を果たしたいと考えている。

――フルフィルメントという仕事を考えるうえで、物流DXという概念をどう位置付けるか。

伊藤 課題解決のための物流DX化は、それを先んじて取り組むことではないと考えている。まずはオペレーションによる生産性改善だ。24時間365日自動で稼働する倉庫であっても、ロボットや先進機器だけで荷主のニーズを完全に満たすことはできない。その意味では、オープンロジが手がけるフルフィルメントサービスにおいては、ロボットの導入はアプローチが難しいというのが率直な印象だ。EC向け倉庫ではDX化が進行しているように見えるが、あくまでこうした革新技術は手段でしかないということを忘れてはならない。

■物流DX特集