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LOGISTICS TODAY「危険物倉庫特集」

「危険物倉庫はそういうもの」という無関心(中)

2022年5月9日 (月)

話題企画編集委員・永田利紀による連載企画「『危険物倉庫はそういうもの』という無関心」。前回は、「特殊で無縁が生む無関心」「我々は危険物に無縁、は本当なのか」のテーマで、危険物倉庫に対する業界の現状認識や課題について考えた。第2回は、「基材と製品」「需給バランスの実態」を題材に、行政の危険物倉庫に対する取り組みについて、法令の取り扱いを含めた「あり方」を提言していく。

「危険物倉庫はそういうもの」という無関心(上)

第3章「基材と製品」

以下は危険物取扱倉庫の運営者への質問である。

(イメージ)

永田:「危険物の分類や各類に応じた保管等の取扱規制はわかるが、数種の基材については容器類の強化や素材変更で、規制緩和できないものなのだろうか」

倉庫運営者:「実務をこなしていて、容器類の強度や素材に不安不足を感じることはないというのが実感だ。細心の注意を心がけていても、荷役作業で倒したり落としたりはゼロに出来ないが、それで内容物が漏れ出したりするような破損事故に至ったことはない。容器については一定以上の安全性と品質保持の水準にあると感じている」

即答ともいえる反応なので、「質問のとおりで、パッケージ強化で規制緩和ができるかもしれないと思っている」という言葉を期待しつつ問いかけた身としては、肩透かしを食らった感だった。

ご存じの読者も多いかと思うが、国際連合(UN)による危険物輸送に関する勧告、いわゆる「オレンジブック」にある「UN検査証」表示の国際規格認証物ならば、その容器の仕様には一定以上の安全性が担保されているので、船舶輸送やその前後の陸地保管に際しても特段の強化や付加は無用というのが一般的な解釈となっている。

「建前はそうでも実務面での不安や不満があるのではないか」という私の密かな猜疑心は、前述のとおり即答で否定されてしまった。国土交通省も危険物の船舶輸送については、容器及び包装について技術基準に適合していることを規約としており、その基準の根拠は国際規格に準じている。つまり容器類からのアプローチは今のところ一部危険物の取扱規制緩和に繋がる要素としては弱いというのが現状なのだ。

(イメージ)

改めて書くまでもないが、物流世界の地図上では船舶輸送市場という大陸が圧倒的大勢を占めている。その大陸は最も古く巨大であり、ゆっくりと改善や改変を重ねて熟した大人の思考と適当な妥協によるルールを設け、数多い世界中の関与者が粛々とそれを順守している。

「護送船団」という物資運搬保護の軍事戦術から今や一般転用されて慣用句となった専門用語にしても、ルールの決め方とその運用については一定の幅や余裕をもたせて時間をかけて無理無きように全体調和・定着させてゆくことのあらわれだろうし、今回取り上げた危険物取扱についても、基準となっているのは海上輸送時の国際的な安全確保に他ならない。

成熟したルールや取決めは大いに尊重すべきであり順守は当然とも思うが、輸送から陸揚げ後の流通に切り替わる関節機能を担う危険物保管については、いくばくかであっても規制対象や運用の改変を今一度考察してもよいはずだと思う。おそらくは私が知らぬだけで、消防庁や国土交通省内では荷主や物流事業者を交えた規制緩和の動きがあるという気がしてならない。だとすれば朗報を待ちたいと思うが、先駆けて「このようになればいいのに」も書いておきたい。

第4章「需給バランスの実態」

危険物倉庫を論じる時、総務省消防庁と国土交通省というふたつの監督官庁の白書や担当部局の該当文書を閲覧する必要がある。今回の拙文にしても、対象は物流関係者もしくは荷主企業向けであるが、主たる法令や情報の源は消防庁にあり、物流業界を監督する国土交通省には建屋と種別区分に関する数値情報などに限られた統計しかない。

(イメージ)

倉庫業法や貨物自動車運送事業法では危険物取扱要件にまったく足りず、他業界の法令と感じて止まぬ消防法が建屋の仕様と内部規格の詳細まで網羅している。それは医薬品や医薬部外品および化粧品の保管や外装加工等を倉庫内で行う際には、保健所への届出と許可、つまり厚生労働省が薬事法に則って管轄する業務種別にあたるので、いわゆる多重行政管轄状態になることと同様となる。

言い換えれば許認可等の手続きに手間と時間を要するうえに、順法仕様が要求する設えのために安からぬコストが生じる。その因果がもたらすのは「内製ではなく委託の方が無難」であり、許認可取得済みの専門事業者への依存が招く委託集中だ。なのでいつまで経っても危険物取扱に関する情報の終始は需給当事者間の相対完結のままで、広く詳らかに共有される機会を得ない。

他業種や隣接業界はもとより、同じ物流業界内でもイメージばかりが歪曲肥大したまま特殊案件として自分事として議論されたり、一般荷主や物流事業者向けの研究テーマとして取り上げられることが極めて少ないのは、ひとえに「危険物分野は法規制が厳重で、その内容は特殊かつ専門性が高いので、一般事業者には難解すぎて敬遠対象の最たるもの」という思い込みが強いからだ。

(イメージ)

事実「思い込み」ばかりとも言えない。一から始めようとする事業者や営業倉庫運営者にとっては、幾重にも廻らされた高く厚い壁とも思える要件を満たす過程はには難渋以外の表現が浮かばない。そして同時に生まれるのは、異物感とそこからの逃避欲求がもたらす無関心への意識置き換えに他ならない。

法令の厳密な運用だけでなく、荷主や物流事業者側にも根付いた先入観や悪意なき偏見が危険物取扱の垣根を高層化しているように思える。ならば「安全運用のための厳格さ=基準難度の高水準」を全面的に呑んだうえでの、弾力的な緩和措置や基準数値の再検証を膨大な累積データから何点かのキーワードを軸に検索して抽出し、それらが指し示す過剰警戒部分や緩和可能項目を再検証する動きはあってもいいのではないだろうか。

業界内の既存陣容では抜本的な改変に必要な熱量や角度の異なる切り口や多様性が足らぬなら、外部に意見や加勢を求めるべきだ。経験的に「議題を広く報せるほど、反応の数は増える」と確信している。発信側が受信相手を関与者のみに絞り込まず、情報開示の囲み枠を拡げれば、思わぬ返信者が現れる。今まで門外漢とされてきた異分子とも言える第三者の発言が呼び水となり、畑違いや隣接地の住人の意見や疑問が続出するに違いないと期待するのは私だけなのか。

もちろん中には奇天烈すぎたり、飛躍しすぎな点も多々あるかもしれないが、頭から否定せずにまずは聴くことを第一に据えて欲しい。しっかりと聴取できたら、次に発言者の言葉の元となった根拠や理由を掘り下げて質問する必要がある。おそらく、そのやり取りの過程に業界人や専門家が気付いていない捻じれや歪みがある可能性は高く、うすうす感じてはいたものの、言葉にしていなかっただけの「本当はそうなのだ」が、検討議題として論じられる契機となる。

需要の潜在化は法令違反の芽が育つ畑となりかねない。すなわち安心安全の無担保状態が潜在化するのと同義でもある。ゆえに実需の踏み込んだ試算と供給状況の実態ギャップは運用改善や規制緩和への起点となるはずだし、そこにビジネスチャンスも生まれるだろう。その理屈を危険物倉庫の需給バランスに照らしてみてはいかがかと提案したい。

行政の現状努力はまったく否定しないし、専門業者や荷主の改善行動を知らぬわけでもないが、いかんせん内向きに視野が拡がるばかりで、外部への助言や評価を積極的に求める動きが少ないと感じて止まぬ。

最終となる次回は、危険物倉庫の運営にかかる「実態に即した規制緩和」を訴える。

■「危険物倉庫はそういうもの」という無関心(下) へ続く

■危険物倉庫特集