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大阪港の中心で語る/松岡眞・櫻島埠頭社長【TOP VISION vol.6】

港湾事業の意義は「大阪の産業発展への貢献」だ

2022年6月29日 (水)

話題大阪港を拠点に石炭などの「ばら貨物」を中心とした港湾運送・荷役事業を展開してきた櫻島埠頭。関西最大の港湾地区の中心に位置する利点を生かしながら、港湾事業で戦後の関西経済の発展を支えてきたのは、その堅実で地に足の着いた経営戦略だ。

その櫻島埠頭が、物流ビジネスへのニーズの多様化に対応するため、ばら貨物ビジネスにおける付加価値向上を推進している。堅実ながらも事業環境を冷静に分析して持続的な成長を図ろうとする戦略の背景は。大阪港に広がる20万平方メートルの敷地の一角にある櫻島埠頭本社に、松岡眞社長を訪ねた。(編集部・清水直樹)

ばら貨物事業の「付加価値向上」は成長戦略の柱だ

櫻島埠頭の事業は、「ばら貨物」「液体貨物」「物流倉庫」の3部門からなる。個体や液体の状態で包装されない状態で大量に運ばれるばら貨物は、岸壁に横付けされた貨物船から降ろされると、野積みまたは倉庫で保管された後、全国各地に届けられる。火力発電用の石炭をはじめ、コークスや工業塩、ソーダ灰など、産業に欠かせない様々な貨物を取り扱っている。櫻島埠頭の主力事業とも言えるばら貨物部門の成長戦略として、松岡社長が掲げるのが「付加価値の向上」だ。

――2024年度を最終年度とする3か年の中期経営計画では、ばら貨物部門における「付加価値」の創出を盛り込んでいる。

松岡 新型コロナウイルス禍で落ち込んだ経済の回復をとらえて、ばら貨物部門におけるより付加価値の高い仕事の取り扱いを推進していく必要があると判断した。従来より顧客に求められている仕事を堅実に遂行していくことはもちろん大切であり、今後も変わらない。とはいえ、持続的な成長を推進していくには、さらに価値を生み出せるビジネスに注力していく必要があるのも事実だ。

――ばら貨物部門における付加価値を高める取り組みとは。

松岡 ばら貨物を野積みで保管しているスペースの一部に倉庫を建設する。ばら貨物は野積みで保管する場合もあれば、雨風を避けるため倉庫内に置かなければならない場合もある。ここでは倉庫で保管するばら貨物の取り扱いを推進することで、業務における付加価値を高めるとともに、さらなるばら貨物の保管ニーズを呼び込む契機とする狙いがある。こうした取り組みを実現するための設備投資として、食用塩の保管倉庫の整備を進めている。

フル稼働もタンク新設には懸念材料が

ばら積み部門における付加価値向上策は、櫻島埠頭にとって持続的成長に欠かせない取り組みとなる。液体貨物部門と物流倉庫部門においても、それぞれ抱える問題解決に向けた投資や業務効率化を推進。継続的な事業ポートフォリオの改善によりさらなる収益基盤の確立・拡大を図っていく考えだ。

――液体貨物部門も経済回復の恩恵を受けているのでは。

松岡 タンク群は、確かに現状はフル稼働状態にある。課題は、今後の事業強化策をどう描くかだ。関西地区の化学産業を中心とした構造変化に対応できる新たな投資をどう計画して実行につなげるか。需給状況だけをみれば、タンクの新設など新たな投資に踏み切る判断もある。しかし、不安材料なのは資材の高騰が続いていることだ。ウクライナ情勢の緊迫化が長引くことなれば、こうした原材料価格の高騰だけでなく経済回復にも冷や水となる可能性もあり、投資に踏み切るのは難しいのが正直なところだ。

――物流倉庫部門は、新型コロナ禍でマイナスの影響を受けている。

松岡 新型コロナ禍による業務用冷凍食品の需要減が響いており、採算改善を進めているところだ。中期経営計画でも、物流倉庫部門は冷蔵倉庫の立て直しをセグメント方針に盛り込んでいる。とはいえ、隣接するユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市此花区)向けのセントラルキッチン事業が来場者数の回復で好調に推移するとも予想されることから、倉庫部門内における効率的な事業運営を推進する取り組みを通して収益力を高めていく。

港湾という「公共性」を担う使命感が事業成長のエンジンだ

各事業部門のさらなる成長を図るとともに問題解決を着実に進めることで、港湾ビジネスを継続していく戦略を掲げる櫻島埠頭。こうした取り組みに注力する背景にあるのは、港湾という「公共性」の高い機能を持続し発展させていく使命感だ。

古くから金属や化学など様々な産業が集積する大阪湾岸の桜島地区で存在感を示してきた櫻島埠頭は、大阪港における外貿コンテナや国内長距離フェリーなどターミナル機能の整備も進むなかで、今後も求められる役割は大きい。「大阪の産業の発展や雇用の確保に貢献していく」。それこそが存在意義であると松岡社長は言い切る。

――産業を支える「港湾」を舞台にビジネスを展開する事業者として、念頭に置いていることがあるとか。

松岡 経営を進める上で「株主」「地域社会」「お客様」「従業員」を常に意識すべき対象と位置付けている。株主には安定した配当金を出すとともに、株価を維持することも大切だ。地域社会に対しては、公共性のある事業を展開する企業として地元である大阪の産業の発展とともに雇用確保に取り組む必要がある。お客様には、荷主を含めてニーズの変化に柔軟に対応できるサービスの創出・提供が欠かせない。さらに、従業員には働きがいのある職場づくりを進めていかなければならない。

――大阪港を拠点とした「地の利」を生かした経営は、大阪の産業の発展にも大きく貢献してきた。

松岡 櫻島埠頭は大阪港の中心に拠点を置き、原材料ばら貨物をはじめ多品種の貨物を取り扱う総合的な海陸中継業務を営む企業として、1948年の設立から70年以上にわたって事業を展開してきた。事業の性格から堅実で着実な姿勢を忘れてはならない一方で、産業の方向性をつかんで時代の要請にあったサービスを提供することも必要だ。事業環境の変化を見据えながら、むしろ社会のニーズを先取りする気持ちで、事業における付加価値の向上や新たな展開の可能性を追求していく。それが櫻島埠頭の成長モデルだと考えている。

取材を終えて

大阪市此花区の「梅町岸壁」「梅町西岸壁」に野積み場や倉庫、タンク群、荷役設備などを展開する櫻島埠頭。桜島はまさに大阪港の「主」(あるじ)としての風格すら感じさせるが、住友商事から18年に転じた松岡社長はあくまで謙虚な出立ちを崩さない。

櫻島埠頭でマーケティングという概念を明確に位置付け、2020年に社長に就任してちょうど2年。新型コロナ禍やウクライナ情勢の緊迫化など先行きの不透明な経営環境のなかで、成長軌道の維持に注力する根底にある思いは、やはり「地域への貢献」というフレーズに収れんされるようだ。

東日本大震災など自然災害の多発を契機に、首都圏経済のバックアップ機能として注目され始めた関西圏。しかし、かつては「天下の台所」として全国経済の中心地として進取の気概を見せつけた土地なのだ。こうした底力を今に伝える原動力は、櫻島埠頭のような産業を堅実に支える存在ではないのか。松岡社長の表情には、そんな「自負」が浮かんでいるように見えた。(編集部・清水直樹)