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クリエイト運送会社買収が示すもの【解説】

2022年9月22日 (木)

M&A手段と目的。活動の成果を最大化するためには、目的を明確化するとともにその実現に向けた最適な手段を選択しなければならない。企業における事業戦略を構築するための基本である。それでは、これまで手段と位置付けて誰も疑わなかった事柄に、成果をより高める効果があると気付いたとしたら、どうだろう――。

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ある大学が経営学の講義で学生に課した口頭試問だ。その答えの一案になりそうな取り組みが9月20日に発表された。継手・管製品販売のクリエイトによる運送会社・ハネイシ(神奈川県厚木市)の子会社化だ。

大阪市を拠点に、パイプや継手といった管工機材の卸業者として1世紀以上の歴史を持つクリエイトが、遠く離れた運送会社のグループ化を決断したのはなぜか。もちろん、製品供給を担う輸送網の再構築による物流の効率化を図るのも理由の一つだ。しかし、それはあくまでも「手段の最適化」の域を出ていない。

(イメージ)

クリエイトが見据えるのは、さらに先だ。物流という機能そのものに価値を見出そうとしているからだ。クリエイトにとって物流はもはや事業の円滑化を促す手段ではなく、最適な経営戦略を構築して収益の最大化という成果を生み出すために不可欠な機能と位置付けている。いわば「経営戦略そのもの」なのだ。

振り返れば、物流という仕事は長い間、「なくては困るものであるにもかかわらず、それ自体は利益を生むどころか経費(コスト)でしかない」との認識が産業界でも一般的だった。こうしたコストセンターとしての物流に新たな着眼点を与えたのは、東日本大震災をはじめとする自然災害の経験と、EC(電子商取引)をはじめとする宅配サービスの普及拡大だ。

被災地の生活確保と早期復旧を促したのは、間違いなく物流の担い手による使命感だった。さらに店舗から宅配へと消費者の購買シフトが進み始めているなかで、物流は商品を輸送する以上の機能を果たすことになった。こうした動きに励起されるように、企業の商品輸送における「品質」の確保は、他者との相対的な差別化、さらには絶対的な付加価値の創出にまで昇華した概念となっている。

とはいえ、その現場を担う物流現場は、人材不足や効率化の遅れで疲弊しているのが実情だ。道端の石ころのように「存在しているにもかかわらず意識されない」ものだった物流は、もはや社会に不可欠なインフラとしての存在感を発揮している。しかしながらその内情は厳しく、運送会社は荷主への価格転嫁もままならない。

クリエイトによる今回のハネイシの子会社化は、いわば荷主側が物流に付加価値を見出したことで実現した構図だ。冒頭の口頭試問の出題意図は、手段と目的を混同し取り違えたことで事業展開に失敗した要因を考察するのが狙いだったという。クリエイトは、手段に付加価値を見出すという新たな「解」を示した意味で、物流の将来のあり方を占う興味深い取り組みであると言えるだろう。(編集部・清水直樹)