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北ミサイルで物流にも緊張走る、一時操業中断も

2022年10月4日 (火)

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国内北朝鮮が4日朝に発射した弾道ミサイルが日本の上空を越えて太平洋に落下した事案では、物流関係者にも一時、驚きと緊張が走った。航空・海運各社はミサイルの軌道付近で運航していた航空機や船舶に急きょ連絡を取って安否を確認、陸上でも一時、運行や操業を見合わせる動きが見られた。幸いにも特段の被害はなく、サプライチェーンは保たれた模様だが、有事に対する日頃からの備えが試された。

北朝鮮が7時22分ごろ、東に向けてミサイル1発を発射したことを受け、政府はJアラート(全国瞬時警報システム)などで北海道、青森県、東京都(島しょ部)に避難を呼び掛ける国民保護情報を発した。航空、海運など物流各社や関係団体にも国土交通省などからメールなどで注意喚起があった。

川崎近海汽船ではJアラートをキャッチした後、ただちに八戸港(青森県)と苫小牧港(北海道)を結ぶフェリー4隻に船舶電話で連絡を取り、全船の船長から安全を確認した。平時から決めていた通りの対応ができたという。栗林商船では、北海道のグループ会社が釧路港での荷役業務を一時中断した。

貨物航空では、日本貨物航空(千葉県成田市)、日本航空(JAL)、ANA Cargo(東京都港区)を含むANAホールディングスともミサイルによる大きな影響はなかった。3社とも政府からの連絡を受け、あらかじめ決められた手順で付近を航行中の航空機の安全を確認した。JALでは青森空港(青森県)と新千歳空港(北海道)の従業員たちが一時、屋外作業を中断した。青森発羽田行きの旅客便1便に一時遅れが出たが、30分を超す遅延はなかった。ANAでも青森、新千歳、八丈島(東京都)の各空港でハンドリング業務を一時見合わせ、従業員が建物内に避難した。

日本貨物鉄道(JR貨物)では、Jアラートが出された後、貨物列車の運行を一時見合わせた。青森県では30分、北海道では16分止め、安全を確認後、運行を再開した。

日本の上空を通過した北朝鮮の弾道ミサイル、物流業界の「有事対応」促す契機と受け止めよう

4日朝に北朝鮮から発射された弾道ミサイルは、5年ぶりに日本の上空を通過。被害はなかったものの、国内に大きな衝撃が走った。物流業界も貨物列車が一時運行を停止したほか、空港や港湾でも荷役業務を中断して作業員が避難するなどの事態となった。

物流業界は現場従事者の安全を最優先に、貨物輸送への影響を最小限とする冷静な対応を見せた。今回の弾道ミサイルは太平洋の排他的経済水域(EEZ)外に落下したと推定され、国内での被害は確認されていない。社会のインフラを担う物流業界は、「結果オーライ」で胸をなで下ろすばかりに終始することなく、危機管理意識を再認識する契機と捉えるべきだろう。

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物流事業者における危機管理体制は、もはや企業レベルを超えた発想での対応が求められるようになった。そもそも物流という事業は、社会活動を支えるあらゆる機能をスムーズに動かす働きをしており、人体に例えれば「血液」の役割を果たす。貨物の発送から到着まで、さまざまな事業者がリレーすることによって、サプライチェーンを構成している。どこか1か所でも断絶すれば、物流網はマヒを起こしてしまうのだ。

物流業界における危機管理の対象も、急速に広がりを見せている。従業員の安全確保は言うまでもないが、倉庫や道路、車両といった貨物の入出荷や輸送に欠かせない資産への被災だけでなく、あらゆる有事への対応が指摘されるようになったためだ。今回の弾道ミサイルは、その際たるものであると言えるだろう。

とはいえ、弾頭ミサイルなど国家レベルでの有事が現実化した際に、事業者単位で対応策を迫るのはあまりにも非現実的であり、有効な策であるはずもない。物流業界を統括した国家レベルでの有事に対応した対応ガイドラインの策定が必要な時期に来ているのではないだろうか。

政府と業界団体が主導する形で、大項目での指針をまとめる。さらに機能別に中項目・小項目でより具体的に現場に即した行動計画を定める。危機管理の専門的な機関・企業のアドバイスも受けながら、最悪の有事に備えるのだ。物流の確保策を事前に講じることは、被災時における迅速な復旧・復興を果たす上で不可欠だからだ。

今朝、突然もたらされたJアラートによる国民保護情報は、物流のすべての担い手に向けた「警鐘」であると受け止めたい。(編集部・清水直樹)