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「2024年問題」に重点、国交省の機構改革【解説】

2022年10月6日 (木)
LOGISTICS TODAYがニュース記事の深層に迫りながら解説・提言する「Editor’s Eye」(エディターズ・アイ)。今回は、「国交省に『自動車・物流局』、新たな司令塔に」(10月5日掲載)を取り上げました。気になるニュースや話題などについて、編集部独自の「視点」をお届けします。

行政・団体国土交通省が2023年度の機構改革で自動車局を「自動車・物流局」(仮称)にリニューアルし、総合政策局から物流政策の司令塔機能を移す目的は、自動車局が所管するトラック運送分野が「2024年問題」などによって危機的状況にあり、それに省として最優先に取り組むことにある。長い目で見れば、国土交通行政の中で運輸の1領域だった物流の比重が年々高まる傾向にあり、より本格的な政策立案と執行を行える体制整備が待たれていたと見ることもできよう。

国交省の現組織体制では、物流関連では自動車局がトラック運送を受け持ち、同じ旧運輸省系の鉄道、海事、航空の各局がそれぞれの輸送モードの法整備や行政を行っている。各モードを横串で刺すような政策の企画・立案は、旧運輸省系の局ではなく全庁横断的な総合政策局が担っている。

そうしたなか、総合政策局が旧4省庁(運輸、建設、国土、北海道開発)から承継した基本政策のうち、近年、運輸分野の中でも物流関係の政策が増加していた。物流政策課が扱う低炭素化関連事業やパレットに代表されるさまざまな標準化・規格化、貨物自動車ターミナルや倉庫関連の施策などだ。総合政策局の負担は増し、移管先として旧運輸省系の局の中から自動車局が選ばれた。

トラック運送を起点に各モードの政策展開へ

新型コロナウイルス禍による巣ごもり需要とEC(電子商取引)の急拡大で、いま宅配各社はフル操業が続いている。以前からトラックドライバーの人材不足や高齢化が深刻化していたところに、働き方改革法によるドライバーの時間外労働規制が2024年に強化され、荷物を運べない「物流クライシス」が叫ばれている。ラストワンマイルを担うトラック運送の危機は、そのまま貨物鉄道にも国際海運・内航海運にも貨物航空にも直結する。他の輸送モードもDX(デジタルトランスフォーメーション)や環境対応、人手不足対策など、それぞれの課題に直面しているが、同省はまずは国内物流の「主役」とも言えるトラック輸送の課題である「2024年問題」への対応に最重点を置き、それを起点に各物流分野の政策を展開する体制が妥当と判断した模様だ。

(イメージ)

振り返ればコロナ禍以前の日本経済は、インバウンド需要の取り込みが最重視され、「観光立国」の号令の下、中央も地方も官民挙げて外国人観光客の誘致ともてなしにまい進していた。その道がコロナ禍でいったん遠のいたとき、外需の穴を埋める形で、長く低迷していた内需を再活性化させたのがECだった。ただ、その成長があまりに急だったため、供給側の対応が追い付かず、宅配を含むトラック運送にしわ寄せが及んでしまった。そしてドライバーの長時間労働や、時代に合わない不効率な業務運営、デジタル化の遅れ、荷主との不平等な力関係、CO2排出抑制など、後回しになっていた課題が一気に顕在化した。

トラック運送を通して内需に向き合う自動車局が、海事局や航空局などどちらかと言えば外需獲得の環境整備をしてきた部局に代わって物流の司令塔業務を担う新体制は、日本経済の構造変化の一つの表れと見ることもできる。来年度の機構改革に向け、省内だけでなく業界側の準備もこれから加速するだろう。官民の意思疎通が緊密にでき、直面する諸課題に迅速・的確に対処できる物流行政の新たな体制構築が待ち望まれる。(編集部・東直人)