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モーダルシフトに乗り地方港活性化、福井県敦賀港

2022年10月6日 (木)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「敦賀、博多両港が合同ポートセールス/国際物流展」(9月16日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

環境・CSRまだ暑さが残る9月中旬の東京ビッグサイト(東京都江東区)。同展示場では4年ぶりの開催となった国際物流総合展の一角で、福井県や同県敦賀市の職員たちが、行き交う大勢の物流関係者らに敦賀港の利用を懸命に呼び掛けていた。内航海運会社の近海郵船(東京都港区)の社員や第3セクター、敦賀港国際ターミナル(同市)の職員も一緒だ。

いま敦賀港は、トラック運送のモーダルシフト需要に乗った定期航路を足掛かりに、新たな飛躍の時期を迎えようとしている。そこにはCO2排出削減やドライバーの長時間勤務解消とはまた違う、「地方港の利用促進」「地域経済の活性化」というモーダルシフトの新たな側面が色濃く表れている。

官民挙げたPR、視線は西に

職員たちがポートセールスのなかで前面に押し出したのは、近海郵船が2019年に開設した敦賀・博多間のRORO船定期航路だ。RORO船は貨物を積んだトラックやトレーラーのシャシー(荷台)の運搬船。ドライバーは発着港で降りて到着港で別のドライバーに引き継ぐか、または同じドライバーが乗船して到着まで船内で休む。こうした陸運から海運へのモーダルシフトは「航送」と呼ばれ、運送会社はドライバーの勤務時間短縮とCO2排出の削減が図れる。内航海運各社には新たな需要となっている。

(出所:近海郵船)

同社の敦賀-博多航路は週6便の運航で、北陸地方や名古屋市などからのトラックを九州方面に運ぶルートとして徐々に定着してきた。同社によると、航路開設以来、新型コロナウイルス禍や半導体不足による自動車減産といった厳しい環境の中でも、雑貨や日用品、飲食料品などが下支えし、輸送量は波はありながらも、おおむね右肩上がりで伸びているという。

航路開設とモーダルシフト需要の盛り上がりは、福井県内の経済関係者や行政マンたちの目を、西に向けさせた。それまでは同じ近海郵船の苫小牧航路で結ばれた北海道を志向していたが、今ではライバルの瀬戸内海ルートに負けない動脈に育てようと、官民協力してのPR活動を展開している。

ことし5月には佐賀県鳥栖市で九州の荷主らを集めて航路の利用促進セミナーを開催した。敦賀市長もトップセールスを行った。博多港のある福岡市関係者との連携も深まり、ビッグサイトでの合同展示へと発展した。博多港経由で沖縄県に福井産米を売り込む作戦も実施した。

倉庫誘致に成功、国もインフラ整備を強化

敦賀港の活性化を背景に、同市は21年、市の第2産業団地に横浜市の物流企業「楠原輸送」の倉庫を誘致することに成功した。国も慢性的なキャパシティー不足を考慮して港のインフラ整備に力を入れるようになり、17年から進めている鞠山南国際ターミナルの岸壁整備を当初予定の2バースから3バースへと拡大した。工事は年内に一区切りがつく予定で、供用が開始されれば近海郵船のRORO船が発着する。

(イメージ)

同社によると、07年に別のフェリー会社の経営破たんで直江津(新潟県)-博多航路が廃止となって以降、北陸と九州の間は内航海運業界の「ミッシングリンク」となっていた。それを解消するのが敦賀-博多航路開設の第一の目的だった。モーダルシフトはそれに重なる形で高まってきた新たな需要だ。そして今、地方港の活性化と地元経済の期待が加わってきた。同社関係者も少なからぬ驚きを抱きながら、航路の先行きに自信を深めている。(編集部・東直人)