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日野「トヨタ色」濃い体制、未来どう描く【提言】

2022年10月11日 (火)
LOGISTICS TODAYがニュース記事の深層に迫りながら解説・提言する「Editor’s Eye」(エディターズ・アイ)。今回は、「日野自取締役ら4人が辞任、不正問題で引責」(10月7日掲載)を取り上げました。気になるニュースや話題などについて、編集部独自の「視点」をお届けします。

荷主一連のエンジン認証不正問題を受けて日野自動車が7日に発表した4役員の辞任と暫定的な経営体制は、今後の再生に向けて親会社、トヨタ自動車の関与が強まることを印象付けるものとなった。トヨタは日野を支援することで責任を果たそうという姿勢だが、これだけの不祥事を生んでしまったことをグループとして改めて真摯(しんし)に受け止める必要があろう。世界の商用車市場の激変を踏まえ、未来志向に立った、より抜本的な体制変革が求められる。

「トヨタとしても、日野の取り組みが実効力を伴うものになるよう、協力を継続してまいります」「小型トラック用エンジンの認証業務など、我々の支援が可能な領域や業務を通じ、協力を行ってまいります」――。日野の小木曽聡社長が東京都内での記者会見で役員処分や再発防止策を発表した同じ夜、トヨタはこのようなコメントを発表し、日野の再生に伴走していく姿勢を示した。

親会社の責任とは

日野の不正が広がりを見せた8月以降、トヨタはしばしば豊田章男社長のコメントを発表してきた。「親会社としても株主としても極めて残念」「(商用車技術の共同開発事業に)日野がいることで迷惑を掛けてしまう」といった、見方によっては子会社を突き放すとも受け取れる一連の談話に対しては、メディアからも「親会社の責任も問われている」などという疑問の声が出ていた。少なくとも2003年ごろから続いていた不正行為が、トヨタによる日野の子会社化(01年)とトヨタ出身社長が続く時期と重なることから、記者会見でも小木曽氏に対して不正とトヨタとの関係を問う質問が相次いだ。

▲記者会見で頭を下げる小木曽聡社長(10月7日、東京都内で)

7日に日野が発表した「当面の体制」では、結果的に「トヨタ色」の比重が増すこととなった。引責辞任した3人の取締役はいずれも日野の生え抜きだった。ことし6月には日野出身の下義生氏も会長を退任しており、一時的にせよ取締役会から生え抜きは姿を消した。取締役会はトヨタ出身の小木曽社長と近健太氏(トヨタ副社長と兼務)、3人の社外取締役の計5人で運営する。

小木曽社長は7日の会見で、トヨタ出身者を含む03年以降の代表取締役ら元役員11人に対し、当時の報酬の一部の自主返納を求めることを明らかにした。生え抜きだけに「詰め腹を切らせた」ことにはならないわけだが、今後の本格的な新体制構築では社内の自浄能力を信じ、有為な若手を引き上げるなど、社員の士気への配慮も必要となろう。

市場激変、ライバル追撃へ

7日に発表した組織変更と人事異動は、国土交通省からの是正命令に対する再発防止報告書の提出に合わせたもので、日野自身が言う通り暫定的な措置だ。小木曽社長が技術開発本部長を兼ね、コーポレート本部と生産本部を廃止しただけでそれに対する特段の手当もない。8人から5人に減った取締役の人数は、法令や定款の要件を満たしているとは言え、大打撃を受けた国内販売を立て直して業績を回復させるにも、迷惑を被っているユーザーや部品メーカーに対処するにも、陣容の非力さは否めない。役員の補充と本格的な執行体制づくりが急務だ。そこには過去との決別だけでなく、未来を先取りする切り替えが必要となろう。

自動車業界はいま、100年に一度とされる時代の変化の最中にある。ディーゼルやガソリンという内燃機関から脱却し、世界的な気候変動問題に対処できる電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)の開発・普及などのエネルギー転換に迫られている。商用車市場では、ライバルの三菱ふそうトラック・バスが小型EVトラックを5年前に発売して大きくリードしている。日野もことし6月に発売したが、一連の不正問題に足を取られたのか追撃に本腰が入っているようには見えない。加えて次世代商用車技術の共同開発事業からも除名されたままだ。欧州メーカーは長距離用の大型車市場に照準を当て、燃料電池トラックの開発・販売を加速している。思い切った外部人材の登用など、未来志向の布陣で対抗する必要があろう。

「日野には安心・安全なトラックを早く出して欲しい。この願いに尽きる」。運送業界の声だ。日野製トラックを愛する多くのユーザーも抜本的な変革と再生を待望している。現・旧役員の処分と報酬返納要請、再発防止策の策定で過去との決別を図った日野自動車。未来を勝ち取る新体制構築へ、リードタイムはそう長くない。(編集部・東直人)

「顧客迷惑の最小化で責任果たす」日野社長が会見