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荷扱い作業現場で「人」と「車両」を分離して労働安全につなげる新しい発想

A-SAFEのポリマー製バリアがもたらす「倉庫革命」

2022年10月31日 (月)

話題滋賀県南部の湖南市。中京圏と関西圏を結ぶ大動脈である名神高速道路と新名神高速道路に挟まれた、住友電気工業グループの住電商事「滋賀物流センター」の倉庫に入ると目に飛び込んでくるのが、明るい黄色の柵や柱だ。

柔らかいゴム製のカバーに見えるが、手で触れてみると思ったよりも硬い。「現場で作業する『人』とフォークリフトの動線を明確に分けることによる接触事故の未然防止、さらには設備や建物の保護に向けた取り組みです」(現場担当者)

▲住電商事「滋賀物流センター」内に設置されているポリマー製バリア

ポリマー(樹脂)製バリア。衝撃の吸収力と復原力で、物流現場における安全な就労環境の創出を支援する機能を持つ役割を果たす優れものだ。英国生まれのこの防護バリアが、国内の物流倉庫現場に劇的な変革をもたらそうとしているのだ。

偶然の着想で生まれた「ポリマー製バリア」

この防護バリアを開発・販売するのは、英A-SAFE(エーセーフ)の日本法人だ。プラスチック加工業で創業したA-SAFE。当時の主力製品のひとつが産業用パレットだった。

ある日、いつもの平積みではなく壁にもたれさせた状態で置かれたプラスチック製のパレットを目にした創業者の息子が、ふとひらめいた。「これを改良すれば、防護ガードとして活用できるのではないか」。この着想が、A-SAFEにおけるポリマー製バリアの製品化の第一歩となり、2001年に製品化された。

▲A-SAFE日本法人社長の中尾正氏

「世界で初めてとなる産業施設向けポリマー製バリアとして、より高機能な製品の提供に向けて研究を重ねてきました。英国に続いてドイツをはじめとする欧米各国で展開を加速。そして18年に日本法人を設立し、アジア初進出を果たしました」(A-SAFE日本法人の中尾正社長)。製品の質に対する要求の強い日本市場で支持を得ることが、中国などアジア諸国での市場展開の成否を握る重要な判断基準になったという。

国内ではまず、大手の自動車や機械といったメーカーの主力工場を対象に販路を広げる戦略で市場開拓を進めた。「安全投資への予算化を産業界で先んじて推進するなど、現場における従業員の安全確保に注力している領域であれば、ポリマー製バリアの機能を理解していただけると考えたのです」(中尾氏)

工場に続く訴求対象に選んだ、社会インフラとしての「物流」

こうした大手製造業の主力工場とともに着目したのが、全国各地で大型物件の開発が進み始めていた物流領域だった。「大手製造業の物流倉庫とともに、不動産会社が開発する大型物流施設への浸透を狙ったのです」(中尾氏)

ところが、製造業とは勝手が違った。現場における安全意識が徹底していた工場と比べて、物流現場では「限られたスペースは荷のために使うもので、防護バリアのためにあるのではない」とストレートに言われることもあった。

「とはいえ、社会に欠かせないインフラとしての役割がさらに求められる物流。だからこそ安全対策への投資が必要であることを、訴え続けているのです」(中尾氏)。A-SAFEが物流業界への訴求を強める取り組みとして、特に大型の物流施設への浸透を図る方針を掲げている。物流業界におけるポリマー製バリアの認知を広げるとともに、現場における安全意識の機運を高める契機にしたいと考えているからだ。

ポリマー製バリアの強み「衝撃の吸収性」「復原性」が倉庫の就労環境を変える

「物流現場における就労環境に変革をもたらす」(中尾氏)ための”急先鋒”として、ポリマー製バリアの物流現場への訴求をさらに強めていくA-SAFE。それでは、ポリマー製バリアの強みとは何なのか。

ポリマー製バリアの差別化ポイントについて考える前に、既存のバリアとはどのようなものが主流だったのか。まずはそこから検証してみる。

▲シャッターをガードする門型のポリマー製バリア(他社事例)

物流倉庫の現場では、多くの従業員の間を縫うように、フォークリフトが荷物を搬送している。台車やかご車も含めて、あらゆる車両が従業員とともにそれぞれの役割を担っているのだ。「こうした従業員とフォークリフトの接触事故は、物流現場における就労管理の課題になっています。そこで、人と車両の動線を分ける『人車分離』(歩車分離)の発想が生まれているのです」(中尾氏)

現場における明確な分離を示すには、人をフォークリフトのような車両から防護するための柵など物理的な障壁を設ける必要がある。こうした意味合いから、物流現場ではスチール(鉄)製のバリアが導入されてきた。

スチールであれば、硬くて衝撃にも強い印象がある。防護策としては有効なようにも思えるが、「決してそうではない」(中尾氏)という。なぜか。

▲出入口やコーナーをガードするポリマー製ボラード(他社事例)

そこで、ポリマー製バリアの持つ「衝撃の吸収性」「復原性」の強みが重要な意味を持つことになる。「スチール製のバリアは、フォークリフトなどが衝突するとすぐに損傷するだけでなく、決して元の状態には戻りません。防護柵としての機能も失われてしまい、修理する費用負担も発生します」(中尾氏)

A-SAFEが独自開発した特殊なポリマー素材「Memaplex」(メマプレックス)を用いたバリアであれば、衝撃を受けた瞬間に変形しても、衝撃を吸収するとともにすぐに復原することから、防護バリアとしての機能を維持することができ、修理の必要もない。さらには、衝撃がそのまま伝わるスチール製と異なり倉庫の床を傷めることもない。

サプライチェーンの中枢である倉庫機能の確保に欠かせない「設備の損傷防止」にも貢献するポリマー製バリア

ポリマー製バリアの効果はそれだけにとどまらない。樹脂ならではの強みを発揮する「設備の損傷防止」機能も、導入を促すうえでの強い訴求力となる。

▲歩車分離が実現された住電商事の構内

荷物の入出庫や保管、仕分け、検品など、あらゆる荷扱いの拠点となる物流倉庫。まさにサプライチェーンの中枢を担う役割を果たしている所以(ゆえん)だ。倉庫がこうした機能を担うためには、マテリアルハンドリング機器やシャッターなど、あらゆる設備が欠かせない。こうした設備が円滑に作動してはじめて、倉庫での業務が最適化されるのだ。

「こうした設備が、フォークリフトなどの車両との接触で損傷を受けることになれば、倉庫における荷扱い業務に支障をきたすことになります。こうした事態を未然に防ぐためにも、ポリマー製バリアの機能は貢献できると考えているのです」(中尾氏)

例えば、シャッターのフレームにポリマー製バリアを装備する。そうすれば、フォークリフトが衝突しても損傷を最小限に食い止めることで、外部と遮断するシャッターの機能を維持することができる。結果として、倉庫内の作業を遮断せずに進めることができるというわけだ。

A-SAFEがポリマー製バリアを施設の損傷防止策として訴求する背景には、物流施設の賃借が主流となり、原状回復を求められる事情もある。

A-SAFEがポリマー製バリアの訴求でもたらす「労働安全の新たな選択肢」

こうした「人車分離(歩車分離)」の発想に基づくポリマー製バリアの機能。欧米の物流現場では主流の考え方なのだというが、国内では未だ普及に向けた途上にある印象だ。

▲柱をガードするポリマー製コラムガード(他社事例)

中尾氏はその違いを生んでいるひとつの要因として、作業現場における労働安全を確保するプロセスがあると指摘する。「日本では、倉庫現場で従業員にフォークリフトとの接触事故をなくすためにどんな取り組みをするでしょう。まずは、従業員への教育を徹底しようとするのではないでしょうか」。まずはルールを定めて、それを踏まえて従業員に遵守させるための教育を施すだろう。つまり、それぞれの現場従事者の心理に重点が置かれているのだ。

一方で、欧米では危険因子そのものを現場から物理的に排除することを最初に考えるのだという。「個人頼みではなく建屋自体を安全なものにするというアプローチです」(中尾氏)

ポリマー製バリアの基本的な発想は、現場から危険因子を遠ざける、つまり欧米スタイルだ。ポリマー製バリアが最初に英国で開発されたことからも、こうした土壌があるのは当然であると言える。とはいえ、こうした発想は国内の物流拠点でも適応できる余地は十分にあるのではないだろうか。

▲フロアレベルでフォークリフトの爪から守るポリマー製フォークガード(他社事例)

「従業員への教育が就業環境の改善に必要であることは、言うまでもありません。より効果的な労働安全を実現するためには、こうした教育とともに危険因子を排除する取り組みも必要ではないかということです」(中尾氏)

社会インフラを担うはずの物流現場で、今日も作業従事者とフォークリフトの接触事故が発生しているかも知れない。倉庫における労働安全の確保は、サプライチェーンの途絶を回避するために避けて通れない概念であるはずだ。A-SAFEによるポリマー製バリアの訴求は、こうした物流現場における意識改革を促す絶好の機会になるのではないか。なぜなら、現場での安全確保に向けた具体的で実効的な方策における、有効な選択肢を明確に提示しているからだ。

A-SAFEウェブサイト