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日本市場戦略とは/久保田圭・フェデックス日本代表【TOP VISION vol.7】

新市場深耕へ、企業の海外進出促す越境EC物流支援

2022年11月16日 (水)

話題米国を拠点に全世界で物流サービスを展開するフェデックスコーポレーション。「ハブ・アンド・スポーク」の発想を採り入れた輸配送システムの構築による全米での翌朝配送を実現するなど、斬新なサービスを打ち出して世界の経済活動を支えている。日本には傘下のフェデックスエクスプレスが1984年に進出して以来、国際航空貨物を中心とした取り扱いで存在感を着実に高めている。

そのフェデックスが、日本を重要な戦略市場と位置付けてサービス展開の拡充を進めている。日本代表を務める久保田圭・マネージングディレクタージャパンオペレーションズに、フェデックスの目指す日本市場におけるビジネス展開と将来像について聞いた。(編集部・清水直樹)

越境EC物流支援で海外ビジネス促進、ターゲットは日本の「地方の事業者」

物流を巡る世界的な潮流、それは何と言ってもEC(電子商取引)の急速な普及だ。国際間での商品取引においては、越境ECの市場が日本を含む全世界で拡大。フェデックスは近年、中小企業によるこうした越境ECにかかる物流支援サービスを開始するなど、EC関連ビジネスの強化に乗り出している。

--日本におけるECビジネスへの対応策について。

▲フェデックスエクスプレス日本代表の久保田圭氏

久保田氏 越境EC向けの新たな海外商品配送サービスを21年9月に開始した。指定日配送ができる国際輸送サービス「FedEx(フェデックス) インターナショナル・コネクト・プラス」(FICP)は、日本をはじめ豪州や香港、インド、中国、シンガポール、韓国、台湾などの14カ国・地域で展開する新サービス。最短で翌日、最長でも3営業日以内に商品を届けることが可能だ。小型荷物を手ごろな価格で送れるのが特徴で、配達日の指定サービスにも対応している。

--配送時間へのこだわりは、フェデックスの企業文化でもある。

久保田氏 日本などアジア太平洋をはじめ、中東やアフリカ地域のお客様を対象とした定時配送サービスは、こうしたフェデックスの取り組みを象徴している。香港、タイ、シンガポール、豪州といったアジア地域と米国、カナダ、欧州各地へ、最も早い輸送では現地時間で朝10時30分から正午までにお客様に送り届けるサービスもある。

--日本国内における独自の配送サービスも強化している。

久保田氏 ことし1月には、神奈川県藤沢市への輸入貨物の配送サービスを強化し、月曜日から金曜日までに日本に到着する輸入貨物の輸送時間を1日短縮した。輸出については、埼玉県羽生市などでも同様のサービスを開始。また、沖縄県を除く全域で輸出貨物に対する特別取扱料金(地域外集荷料)を撤廃した。地方の市町村や都市部から離れた地域のお客様がフェデックスをより利用しやすくなるほか、地域外集荷料を撤廃することにより価格競争力をさらに高めていく。

国際貨物輸送を主軸に日本市場を開拓へ

世界の市場を席巻し始めたECを意識したビジネス展開に注力するフェデックスだが、あくまでも最大の強みは国際貨物輸送における高水準なサービスだ。注力市場と位置付ける日本でも、事業者に対するこうしたサービスの訴求を強めることにより、新たな市場の開拓・深耕を加速していく考えを鮮明にする。

--日本における国際貨物輸送サービス展開の方向性は。

久保田氏 「中小企業や地方部に拠点を置く企業への越境EC支援」と「大企業の国際物流業務サポート」の2点だ。ECは立地条件に左右されることのないビジネスモデルを構築できるのが利点であり、地方を地盤とする企業にもハンディはないと考えている。フェデックスがグローバルでの事業展開の過程で蓄積してきたノウハウも活用しながら、幅広い企業を対象とした物流支援サービスに注力していきたい。

--フェデックスが取り組む日本での国際貨物輸送ビジネスの考え方は。

久保田氏 少しずつ需要と供給のバランスは改善しつつあるものの、まだまだ変化する需要に注視しながら、お客様のことを考えフェデックスでは自社のネットワークを最適化していく。

(イメージ)

--関西国際空港と欧州を結ぶ国際貨物直行便の増強は、フェデックスの日本事業の強化を印象付ける取り組みとして注目された。

久保田氏 フェデックスは関西国際空港を北太平洋地区ハブと位置付け、海外とのネットワーク構築を強化している。特に注力するのが欧州路線で、パリへの路線を増強した。自社機材を活用した欧米を中心としたグローバルネットワークを張り巡らせているフェデックスならではの強みを日本の物流業界にも訴求することで、さらなるビジネス機会を獲得していきたい。

「スマートロジスティクス」提唱で差別化を訴求

業務効率化の推進と持続的なビジネスモデルの構築。物流ビジネスの持続的な成長に不可欠なテーマだ。フェデックスは「スマートロジスティクス」の概念を提唱。安全で高効率な職場環境を前提としたサービスを追求していく企業姿勢を明確化した。さらに、世界の物流事業者でもいち早く、カーボンニュートラルの実現にかかる数値目標を設定するなど、SDGsを意識した事業運営も重視している。

--日本におけるスマートロジスティクス戦略について。

(イメージ)

久保田氏 海外で実用化している取り組みを導入する可能性も視野に入れている。中国で導入しているAI(人工知能)搭載の仕分けロボットは、小型貨物の仕分け業務効率を最適化することで急成長するEC業界をサポートしている。フェデックスの輸送サービスの利用者が、オンラインで貨物の位置や状態に関する情報を確認できるシステムも、ヘルスケア事業者から預かる検体や研究・開発段階の薬品など、温度に敏感で代替品がない貴重な物品の輸送モニタリングに最適だ。

--効率的なビジネスの追求とともに、日本の物流業界でも注目されているのが、持続可能な社会の実現に向けた取り組みだ。

久保田氏 フェデックスは、2040年までにカーボンニュートラルを満たした事業運営を実現する目標を掲げている。具体的には、配送用車両のEV(電気自動車)化や航空機・車両の温室効果ガス排出削減に向けた代替燃料の導入、倉庫など施設における再生可能エネルギーの導入などの取り組みを進めている。日本でもこうした取り組みを順次、導入していく計画だ。

<取材を終えて>

米国での生活経験が長い久保田氏。技術者としてのキャリアをグローバルの舞台で積み上げた。2018年にフェデックスの一員となってからは、エンジニアチームを統括して輸送業務やネットワークの計画、物流施設などの設計などを担当。21年10月に日本におけるフェデックスの代表者に就任した。

「日本語よりも英語の方が自然に話せる」と語るものの、丁寧で柔らかい語り口はむしろ日本語にこそふさわしく感じるほどだ。2000人の従業員を統率する立場に身を置いているとは、最初は思えなかったくらいだ。

しかし、輸送ビジネスの将来像についてやりとりを重ねるうちに、その印象は変わった。「フェデックスの強みを日本のお客様にも伝えていきたい」。柔和な目に鋭い光が差した瞬間だった。