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LOGISTICS TODAY Special Reports「物流施設特集/東京都心編」<上>

都心で期待集める「城東」エリア、低温機能にも注目

2022年12月21日 (水)

話題LOGISTICS TODAYは、全国各地の物流施設にかかる荷主や物流事業者の問題認識とその解決策、注目する物件などについて分析・解説する「物流施設特集」を展開している。今回は東京都心に焦点を当てて、物流施設を取り巻くニーズを探る。

物流関連ビジネスを展開する企業を対象とした独自調査で、東京とその近郊で物流拠点の新設・集約・移転を検討する企業のうち、半数超が東京都心エリアを候補としていることが判明。特に江東区や江戸川区など東京23区東部の「城東エリア」を重視する傾向が浮かんだ。さらに、冷凍・冷蔵倉庫の整備を想定する企業も4割に達するなど、関心の高さが改めて浮き彫りになった。

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今回の調査は、5月17日から6月10日まで実施。有効回答数212件、回答率11.7%。回答者の主な内訳は、倉庫業(倉庫中心)37.3%▽3PL・総合物流業28.3%▽物流業(運送中心)14.2%▽卸・商社7.5%▽食品3.8%--など。

主力拠点として利用中の物流拠点の平均規模は、全体の37.3%が「1001坪から3000坪まで」、30.2%が「3001坪から5000坪まで」、16.0%が「501坪から1000坪まで」。非主力拠点として見ると、19.8%が「500坪以下」、14.2%が「501坪から1000坪まで」で、主力と非主力の拠点を区別する企業の7割が1000坪以内だった。

東京近郊の物流施設プロジェクト地図、内陸から都心への回帰も

首都圏における物流施設開発のトレンドと言えば、内陸の環状道路沿線における急速なプロジェクトの進行だ。首都圏中央連絡自動車道(圏央道)と東京外環自動車道(外環道)、それに国道16号を含めた東京近郊の環状道路は、東京都心から放射状に広がる既存の主要道路網を補完するとともに、新たな道路アクセスの恩恵を受けた地域における物流施設の開発需要を呼び起こした。

一方で、港湾における荷扱い拠点として発展してきた倉庫街をルーツとする東京湾岸の物流拠点は、東京都心に至近で貨物の輸出入拠点へのアクセスも良好である点で地の利がある。とはいえ、既に大規模な用地選定が困難であるなど開発余力への懸念も生まれていた。

ところが、直近になって新たな潮流が生まれている。湾岸を中心とした東京都心の物流施設における根強い需要を背景とした改築や改装、さらには撤退した敷地を活用した新規開発プロジェクトが生まれ始めたのだ。東京都大田区平和島の東京流通センター「新A棟」プロジェクトはその象徴だ。

「東京都心回帰」とも言うべきトレンドが胎動するなかで、物流施設の新しい姿を提示する動きも加速している。アライプロバンスが東京都江戸川区で計画中の開発案件が好例だが、物流施設のフロアをオフィスやスタジオなど幅広い用途で提案する開発事業者のアイデアは、あらゆる産業の集積する東京都心ならではの発想と言えるだろう。物流施設のあるべき姿に新たな着眼点を示す契機にもなりそうだ。

東京都心での施設開発に対する高い意欲

こうした背景も踏まえながら、東京都心における物流拠点の新設計画について、その動向を探っていく。

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物流施設の新設・集約・移転計画については、全体の62.3%が「ある」と回答。そのうち53.1%が東京都心エリア(東京23区とその周辺部)を候補地と位置付けている。物流施設の立地選定における東京都心への関心は底堅く、都心回帰の動きも反映していると考えてよいだろう。

東京都心エリアを候補地とする企業のうち、新設を検討しているのは59.8%に達した。23.0%が移転、17.2%が集約を考えていると回答した。「新設」の回答比率は東京都心エリア以外を候補地とする企業で54.8%であり、5ポイントの差が出た。東京都心エリアにおける新設需要の高さを示唆する結果となった。

物流業界の熱い視線が注がれる「城東」

高まりを見せ始めている、東京都心の物流施設を求める声。それでは、こうした企業が具体的に候補地として検討しているエリアはどこなのか。

東京都心における物流施設の集積地と言えば、やはり東京国際(羽田)空港やいわゆる「東京港」地区に近い大田区や港区、品川区などの「城南エリア」が思い浮かぶ向きが多いのではないだろうか。

こうした予感を抱きながら今回の調査を進めてみると、新たな傾向も見えてきた。トップの回答率を示したのは、江東区や江戸川区などをはじめとする「城東エリア」。57.5%と半数を超える回答が集まり、「城南エリア」(42.5%)を大きく上回った。

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城東エリアには大きく2つの「顔」がある。都心部から千葉県に続く臨海部と、主要河川に挟まれた下町の内陸部だ。首都高速道路湾岸線や国道357号の沿線から海側にかけては、1980年代以降に急速に開発が進んだ。東京港だけでなく羽田空港や成田国際空港への道路アクセスを意識した物流施設の進出も急速に進んでいる。

内陸に足を向けてみると、一転して中小規模の企業の事務所や工場が点在する下町の雰囲気になる。働き手だけでなく水の確保も容易な下町への工場進出も活発化したが、近年は老朽化や住環境への配慮から郊外への移転が加速。その跡地に着目したのが、物流施設の開発事業者だった。

城東と城南に続いて検討対象として重視しているのが、足立区や板橋区などの「城北エリア」だ。板橋区を除いた城北エリアについては28.8%、板橋区に限定してみれば21.9%が回答した。

足立区や豊島区は、埼玉県へつながる首都高速道路のランプ周辺を中心に重要な輸配送拠点として認識されている。板橋区には「板橋トラックターミナル」の立地する高島平地区に象徴されるように物流関連施設が集まり、首都高速道路も活用できることから荷主企業も注視するエリアであると言えるだろう。

物流サービス動向踏まえた「冷凍・冷蔵」への期待、東京都心でも

ここまで、東京都心における物流施設の立地面におけるニーズについて分析した。続いては、このエリアで想定している施設の種類や規模、賃料について検証する。

まず、東京都心で想定する物流施設の種類について尋ねたところ、「常温(ドライ)倉庫」が95.6%と大多数を占めた。とはいえ、こうした回答率はいわば「想定の範囲内」だ。むしろ特筆すべきは、「冷凍・冷蔵倉庫」が39.7%と高い数字を叩き出したことだ。ちなみに、冷凍・冷蔵と並んで近年の物流施設を巡るトピックである「危険物倉庫」も7.4%が回答している。

EC(電子商取引)サービスの普及に加えて、医薬品や精密機器など輸送過程での細かい温度管理を求められるなかで、冷凍・冷蔵倉庫の活用ニーズが急速に高まっている。かつては冷凍・冷蔵倉庫を扱う専業メーカーの独壇場だったが、常温倉庫の開発事業者が冷凍・冷蔵機能を設けた物件を貸し出す動きも広がり始めている。

ここで、東京都心における候補地検討エリアに関する質問の回答と重ねて集計したところ、ある傾向が浮かんだ。冷凍・冷蔵倉庫を想定する回答率が常温倉庫よりも高かったのは、「城南」(冷凍・冷蔵59.3%、常温40.0%)と「城北(板橋を除く4区)」(冷凍・冷蔵33.3%、常温30.8%)、「城北(板橋区のみ)」(冷凍・冷蔵33.3%、常温23.1%)だった。候補地検討地として最も人気の高かった「城東」は常温60.0%に対して冷凍・冷蔵は48.1%だった。

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こうした結果が示唆する傾向については、そのエリアで取り扱う商材の違いが反映されている可能性が高い。城南や城北は食品関連を中心とした冷凍・冷蔵倉庫への期待が大きいのに対して、城東は湾岸部を中心とした重量物や素材などドライ貨物のニーズが卓越していると考えられる。

東京都心ならではの「価値」に釣り合えば高賃料も受容か

続いて、想定する規模と賃料について。「501坪から1000坪まで」(41.2%)▽「1001坪から3000坪まで」(38.2%)▽「3001坪から5000坪まで」(32.4%)▽「500坪以下」(17.6%)--と、東京都心の立地条件からも小規模の物件を望んでいる印象だ。

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許容できる坪単価については、「5001円から6000円まで」(38.2%)▽「6001円から7000円まで」(32.4%)▽「4001円から5000円まで」(26.5%)--と、東京近郊の内陸部と比べてもやや高水準の賃料を受け入れる傾向にある。「7001円から8000円まで」と高額な賃料を想定する企業も7.4%あるなど、高い賃料に見合った立地や機能であれば入居物件の候補と位置付ける動きもみられる。

さらに、東京都心での物流拠点の開設を希望する時期について聞いたところ、「3年以内」(20.5%)▽「1年以内」(12.3%)▽「6か月以内」(4.1%)--と回答。「すぐにでも」も8.2%と高い回答率を示し、全体の4分の1が1年以内の開設を望んでいることが分かった。

東京都心での賃貸倉庫の利用にあたって重視するポイントについては、「賃料」が88.2%でトップ。「交通アクセス」(63.2%)▽「周辺環境」(48.5%)▽「前面道路の幅員」(39.7%)▽「接車可能台数」(35.3%)--と続いた。

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物流ビジネスの展開にあたって、利便性の高さで優位性の高い東京都心だが、それゆえに賃料水準には神経質にならざるを得ないのが実情といったところか。湾岸エリアを中心に公共交通機関が充実していない場所も少なくないことから、従業員確保に向けた交通アクセスも重視すべき点だ。

むしろ、「施設規模」(27.9%)や「建物設備」(27.9%)を重視するのであれば、新規物件の開発が急ピッチで進む内陸に軍配が上がる場合もあるだろう。「物流拠点網の構築は経営戦略そのもの」との認識が広がるなかで、東京都心の倉庫物件の活用は効率的な事業展開を進めるカギになりそうだ。

次回は、東京都心の各エリアにおける既存・新設予定の物流施設に対する関心度をランキングでまとめる。

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