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荷役近代化のDNAが、伝票電子化に取り組む理由

2023年2月21日 (火)

話題突然だが、「物流」とは、なんの略語かご存知だろうか?答えは、「物的流通」の略語である。

流通(Distribution)における、リアルな貨物の動きを表す「Physical Distribution」という英語に対し、「物的流通」という日本語訳を与えたのが、荷役近代化の父と呼ばれ、日本パレットレンタル(以下、JPR)の初代会長を務めた平原直氏である。

平原氏が約60年前に指摘した、輸送以外のコストの課題

平原氏が、近代荷役の父と称されるのは、当時はまだ日本国内では知られていなかったパレットに注目し、一貫パレチゼーションの実現に尽力したからである。

標準化されたJPRレンタルパレット_日本パレットレンタル

▲標準化されたJPRレンタルパレット(出所:JPR)

平原氏は、1949年(昭和24年)に、日本で初めてパレットとフォークリフトによる荷役の実地研究を開始、1966年(昭和41年)に始まったパレット・プール推進会議の立役者となった。その平原氏が、興味深い指摘を1964年に行っている。「JPR10年史 わが国パレットプール推進へのあゆみ」から、その部分を抜粋しよう。

「アメリカにおける商品価格の構成は、(中略)生産コスト:流通コスト=41:59といわれ、流通コストが生産コストを上まわることが指摘されている(中略)。その最も大きな原因は、line haul(線路上の輸送 ※筆者注:本文中では鉄道輸送について論じている)の費用よりも、terminal(終端)での荷役と照合に費やされる費用が大であるということに帰せられた。駅頭、港湾、トラック・ターミナル毎に幾度も積卸、積替、仮置き、照合の手数をかけることは、いたずらに費用と時間と労力をかけるだけで、馬鹿げた浪費と指摘された」

平原氏は、貨物と、貨物の輸送にかかって付帯する情報の照合に、莫大な手間と無駄があることを、今からおよそ60年も前に既に指摘しているのだ。

紙伝票の「手間」に苦しむ現場

紙伝票の存在というのは、とても罪深い。扱いが直感的で分かりやすく、特別な機器を必要としないという点で、紙伝票の優位性は圧倒的である。そもそも、電子伝票という概念がなかった頃から、紙伝票は物流現場にとっては欠かせないものであり、その歴史も紙伝票の罪深さを補強している。

「とにかく時間に追われていますよ。紙の伝票を使っていると、商品だけではなく、紙伝票も仕分けしなければならないことに、意外と皆さん気がついていないんですよね…」――このように嘆くのは、共同配送を行っているA物流センターの担当者である。

(イメージ)

限られた時間の中で複数の荷主から送信されてくる出荷データを処理し、配車や荷揃えを行う。そして荷主ごとに異なる仕様の納品伝票を印刷し、車両ごとに仕分けたのちにドライバーへ手渡さなければならない。

同様に着拠点では、納品伝票に記載された内容と、自社の検品データを目視で付け合わせる作業に追われている。

「伝票がデータ化されていれば、こんなに労力を費やすこともないのでしょうが…」とは、着拠点を運営するB社担当者の声。B社では、毎日6時間も検品データと紙伝票の照合に費やしているそうだ。

紙伝票の罪深さは、導入や取り扱いの容易さに反比例し、その後の処理に膨大な手間が掛かる点にある。また伝票から得られる情報をもとに、トラック運行分析や売上分析などを行うためにはデータ化を必要とする。さらに、荷主によって伝票の書式や形式(複写式の有無など)が異なるため、汎用性がない。

今でもドットプリンターを5台も6台も並べている物流センターや運送会社の事務所があるが、これも複写伝票の形式が、荷主毎に異なるために生じるムダのひとつである。多くの保管スペースを必要としたり、事後に修正や確認が必要となった場合の検索性が低いといった課題も紙の伝票であるがゆえの課題と言えるだろう。

残念ながら、平原氏がおよそ60年も前に指摘した「照合の手数をかけることは、いたずらに費用と時間と労力をかけるだけで、馬鹿げた浪費」という現状は、未だに健在なのだ。

JPRが伝票情報の標準化に取り組む理由

「日本パレットレンタルは創業以来、標準化と共同化の推進に取り組んできた会社です」、同社 事業開発部 渉外部 広報部 執行役員 新井健文氏がこのように説明する通り、平原直氏のDNAは、現在も脈々とJPRに引き継がれている。

一貫パレチゼーションの社会実装を実現すべく、1971年の創業以来、JPRが物流の効率化に取り組んできたことは、皆さまもご存知の通りである。

紙伝票という非効率を解消するべく、サプライチェーンプレイヤーが一堂に会して、標準化に取り組んだ。

メーカー、卸事業者、物流事業者など21社3団体(2022年9月9日現在)が参加するデジタルロジスティクス推進協議会(2019年7月29日設立、以下DL協議会)は、物流情報の標準規格化に取り組んでおり、JPRは事務局としてこの活動に参画している。

そして、2022年1月DL協議会は、納品伝票電子化の標準データフォーマットとして、DLフォーマットを公開した。このDLフォーマットは一般社団法人日本加工食品卸協会により、標準メッセージとして承認され、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム第2期スマート物流サービス(SIP スマート物流サービス)の物流情報標準メッセージとの互換性を確保している。このDLフォーマット、物流情報標準メッセージに準拠した納品伝票電子化・共有ソリューションが、「epalDD Plus」(イーパルディーディープラス)である。

納品伝票の電子化を進めようとする企業にとって心配なのが、データフォーマットの乱立だ。将来、取引先ごとに異なるデータフォーマットを使用したソリューションが採用されてしまうと、データの変換やマスタの管理という新たな負荷が生じてしまう。「epalDD Plus」はこうした利用者の不安を先取りし、標準化を意識している。

「epalDD Plus」が目指す世界

「最初にお断りしておきたいのは、『物流情報の標準規格が、物流ビジネスで広く使われるようになって欲しい』という想いが先だということです」と新井氏は語る。

▲JPR執行役員の新井健文氏

「大切なのは、排他的にならないことです。ですから互換性のある物流情報標準規格が登場し、『epalDD Plus』を含む伝票電子化ソリューションがそれぞれ対応でき、相互にデータ連携できること。そんな世界観を目指しています。仮に伝票の電子化ができたとしても、それぞれ連結する業務システムが変換マスタを持ち、変換作業を行わなければデータ連携ができないような世界は終わりにしたい」(新井氏)

補足しよう。「epalDD Plus」が採用したDLフォーマットは、データ項目は広く網羅しているが、必須項目は最低限にしている。これは、業界、あるいは貨物によって、必要とされるデータ項目が異なるからである。

例えば、賞味期限・消費期限は、食品物流において検品作業の省力化にもつながる重要な情報だが、機械部品などの物流においてはほぼ不要である。最低限の必須項目を定めた上で、ありとあらゆる物流において、柔軟な対応を可能としたところに、DLフォーマットの優位性があり、JPRが目指す物流情報標準化の世界がある。

(クリックで拡大)

平原氏が指摘した「照合」に限らず、紙に記載されていたデータをデジタル化することで、物流の工程自体が大きく効率化できるようになるだろう。

「epalDD Plus」の利用方法

「epalDD Plus」と、JPRが先行して提供するパレット伝票電子化サービス「epalDD」との関係についても説明しよう。

パレット伝票を電子化する「epalDD」と、納品伝票電子化の「epalDD Plus」は連携を実現している。このためJPRレンタルパレットを利用している企業は、「epalDD Plus」によって商品とパレットの伝票を一元的に取り扱うことができるようになり、業務効率が向上する。その一方で「epalDD Plus」の利用は、レンタルパレットの利用を前提とはしていない。JPRのレンタルパレットサービスユーザーを囲い込むようなものではないのだ。

「epalDD Plus」はクラウドサービスであり、そのアプリケーションはWebベースとなっているから、荷受け先がスマートフォンやタブレットなどにアプリをインストールする必要はない。「epalDD Plus」では、1つの配達先に対して、一枚の補助帳票(納品レポート。一枚紙)を出力する。荷受け先では、納品レポートに記されたQRコードを読み取り、貨物の詳細情報を確認し、受領処理を行うことができる。これが受領の証(判取り)となり、荷主、運送会社の双方に共有される。

伝票電子化ソリューションと言えど、完全なペーパーレスではなく、ユーザビリティを考慮して紙の補助帳票を採用した仕様設計は、さすがである。実は、補助帳票については、DL協議会で議論されて推奨されたものであり、DL協議会のガイドラインに記載されている。現場の事情をよく分かっている企業で構成されたDL協議会だからこそ、補助帳票のような現場でのストレスを最小限に抑える知恵を生み出せたのであろう。

物流は大きな転換期を迎えている。物流DXやフィジカルインターネットなどは、その最たる例であろう。

ただ一方で、最近の物流DXやフィジカルインターネットなどを取り巻く論調を見ていると、「まず変革ありき」で、現場の痛みが置き去りにされているケースも散見される。

その点、紙伝票という痛みの解決にフォーカスし、現実的な解として「epalDD Plus」という伝票電子化ソリューションを創り上げたJPRはさすがだ。

近代荷役の父、平原直氏のDNAを受け継ぐJPRが生み出した「epalDD Plus」は、紙伝票という現場の痛みに対する有効な処方箋となり、物流効率化をさらに推し進めるだろう。

▲JPRの新井氏と広報部広報グループ長の那須正志氏(右)

「epalDD Plus」のサービス詳細