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「2024年問題」でさらに進めるべきこと、見つめ直すこと

物流改革の挑戦止めることなく、さらに意識改革へ

2023年9月19日 (火)

話題「物流革新に向けた政策パッケージ」が発表されたことで、「2024年問題」をはじめとした物流危機対応は、それを基盤にした具体的な対策を検討する局面に移行した。とはいえ、ことし7月の日本商工会議所LOBO(早期景気観測)調査結果では、「2024年問題を認識しているが、何をすればいいのか分からない」中小企業が46.5%という現状、まだまだ道程は長い。

物流危機への対応は多岐に渡り、これからもさまざまな手法による挑戦と失敗を繰り返していく必要がある。LOGISTICS TODAY編集部では今後、物流クライシスに関わる多様なテーマごとに、その現状を伝えることから、「次の一手」を考える材料を提供していきたいと思う。

総論賛成でも各論では異論噴出、改革への長い道程

政策パッケージで示された具体的な施策では「商慣行の見直し」「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」の大きな3つのテーマに、それぞれの領域でのさまざまな取り組み事項が紐づく。各項目の中には、すでに施策の具体的な検証、実行へと移行しているものもあるが、そこでもさまざまな議論が噴出し、どのような形でまとまるのか、予断を許さない状況だ。

例えば「トラックGメン」。現状の業界では、適正な商取引のため、荷主・元請を監視する仕組みは間違いなく必要であり、7月21日に国土交通省が「トラック荷主特別対策室」(トラックGメン)を設置して、早くも具体的な取り組みをスタートしたことにかかる期待は大きい。その一方で、トラックGメンの構成員162名で、全国6万社以上のトラック運送業者の動向を見守るというのは、どう考えても無理があるのではないかとの意見もあり、「所詮、トラックGメンなど形だけ」と揶揄するブラックな荷主・元請を助長させることのない「成果」、あるいは状況に応じたチームの強化策、通報の仕組みなどを情報発信していくことも大切となりそうだ。

また、「高速道路のトラック速度規制(80キロ)の引上げ」に関して7月に警察庁が検討会を設置したことも議論を呼んだ。幹線輸送の時間短縮は長距離ドライバーの労働時間短縮に結びつく事項であり、運送事業者からの要望も大きい施策である一方、ドライバーにとって肉体的・精神的な負担増を強いるのではないか、他の車両を巻き込んだ事故の深刻化など、慎重論にもまた説得力がある。いざ、速度規制の上限を上げた途端に大きな事故でも起こってしまえば、また一からの議論になることは避けられず、トラック自体の安全性能向上やエリア別での部分解禁など、まだまだ慎重な議論が必要となるだろう。

このように、政策パッケージの取り組みに関して、総論としては賛成ながら、いざ各論での実行にあたっては異論が出ることも、「慣習」や「経緯」に縛られた物流業界の実情、固定化された業界構造を反映しており、どれも現場のリアルな意見であるだけに、その集約も一筋縄とはいきそうにもない。それでもまず一歩、踏み出したことは間違いない。

物流DX、業界構造改革目指す「荷主改革」へ、それぞれの役割

ITや運搬技術領域からの改革は、今までにない技術を既存の制度や環境とどう擦り合わせるかがテーマとなり、ドローン運用、自動運転、ダブル連結トラック、中継輸送などでは各段階ごとに規制緩和が進められるなど、実証が進めらている。設備投資への支援、インフラ拡充、各種規制の見直しなど、物流改革に向けたアイデアと技術開発に対して、政府も主導的な立場で支援する意思を来年度の概算要求に反映させるなど、官民が一緒になって変革を進める格好のチャンスとして、新しい産業の創出と成長も期待できる。フィジカルインターネットのロードマップ上で「準備期」と設定された現在、「物流EDI(電子データ交換)標準化」「パレット標準化」「パレチゼーション」「データシェアリング」など、次なる「離陸期」へ向けた標準化システム実装への連携も急がれ、荷役現場のさまざまなDX化の動向にも注目しておく必要がある。

とりわけ、ソリューション導入だけでは解決できない根本の部分、多重下請など物流業界の構造的問題への取り組みは、変革における最重要事項に位置付けられよう。各種標準化も実車率の向上も、荷主の関与なくしては進まないだけに、改革において荷主が果たすべき責任は大きい。

「荷主の行動変容」に向けて、「荷主の経営者層の意識改革と行動変容を促す規制的措置の導入」「荷主・物流事業者の物流改善を評価・公表する仕組みの創設」も掲げられた。企業によっては物流適正化の対策責任者を設置し、その具体的な成果を明示する責任が課されることも想定し、さらにその進度を早めて対策を進める必要がある。

ことし2月に、下請け企業への価格転嫁への協力に関して最低評価(中小企業庁調べ)を受けてしまった日本郵便がその後、改善の経過報告を公表し、6月になってゆうパックなどの値上げを発表したことをどう評価すべきか。事実関係の認識に細かい差はあれ、一度の「最低評価」イメージは多くの人に強く刷り込まれ、その後の活動の見方さえも変わってしまう。


企業としての「取り組み」をいかに適切なタイミングで「広報」して、社会的な理解を得るかも、企業側物流責任者の重要なミッションである。サプライチェーン全般に関する知識、DXにおける最新知識はもちろん、物流ベースでのKPIや環境貢献、業界内外への調整力や、グローバル対応、その広報のあり方まで主導しなければならない「物流担当責任者」たりえる人材をどう育成していくのか、荷主企業にとっては頭の痛い問題ではないか。

まだまだ見直せる、前例の脱却、足下からの改革

「総論賛成」でもすぐには変えられない事柄については、こびりついた業界の垢のような部分もあるだろう。「商慣行」の見直しにおいて「わからない」「面倒くさい」といった低いレベルで改革が進まない状況もあるのではないかと危惧する。

戦略的なロジスティクスを構築できる企業は、すでに独自の「共同配送」「中継輸送」などに取り組むほか、自動化や効率化ソリューションを積極的に導入している事例を編集部でも紹介しているが、運送事業者の大部分が、その「模範例」を真似することなどは到底出来ないのも事実。それらの取り組みにたどり着けない企業や、川上の変革を川下で待つ事業者がたくさんあることも理解するが、それでも、そんな川下の運送事業者においても、ただ手をこまねくだけではなく、まだまだやるべきことは残されている。

初歩的な部分ではあるが、原価率の把握に基づく運賃是正交渉が出来ているのか。運賃交渉の基本となるデータの把握・分析を「苦手」という理由で逃げてはいないか。適正とは思えない運送を請け負うブラック物流で糊口をしのいで変革の足を引っ張ってはいないか。多重構造の見える化と適正化は改革の目標ではあるが、多重構造の末端をくまなく救済すること自体が目標ではない。業界の変革の中で、それ相応の意識的な取り組み無くしては生き残れるはずもなく、ドライバーの立場を代弁できない事業者は、今後淘汰されても仕方あるまい。

▲ライフサポート・エガワの物流倉庫でフォークリフトを操縦する女性オペレーター

慣習や思い込みによって今まで当然とされてきた部分でも、まだまだアイデアはあるのではないだろうか。例えば、フォークリフトオペレーターに大卒女性を安定採用している物流事業、ライフサポート・エガワ(東京都足立区)の取り組み。大卒の女性がフォークリフトオペレーターになど応募するはずがないという既成概念を打ち破り、21年度に入社した新卒社員14人、23年度は21人と安定した人材を確保し、このうち大卒女性社員がそれぞれ8人と7人を占めているという。改革の旗を振って共同配送網や新規ソリューションを作り上げるといった大きな改革ではなくても、足元の就労環境改善や細かい就労ニーズを拾い上げるといったことから、物流危機への対応(政策パッケージでは「女性や若者等の多様な人材の活用・育成」として言及されている)はできるという一例である。

物流危機は、業界全体の、あるいは業界さえも超えた産業界一丸での取り組みが必要であることは、誰もが実感していることだろう。いやいや、そんな大それたレベルの取り組みは無理だという事業者でも、政策パッケージの各細目に照らし合わせて検証すれば、個々の事業者レベル、あるいは経営者レベルでも、まだまだ出来ること、変えるべきことは見つかるはずである。

意識改革求められる、内なる貧困と職業差別としての2024年問題

粛々と進めるべきこれらの変革とは別に、日本の物流危機にはさらに根深い障害が横たわっているように思う。

日本企業、労働者の勤勉さは多くの人が認めるところであろう。特に社会インフラを支える中枢としての運送業は、ジャストインタイムを標準とし、厳しい競争の中で切磋琢磨することで産業に貢献してきたというのに、なぜその地位は低いままなのだろうか。

▲日本ロジスティクスシステム協会(JILS)総合研究所長の北條英氏

物流業界の危機的状況の根底には、業界全体のステータスの低さを甘受し、卑下する様な私たち自身の意識も影響しているように思えて歯がゆくなる。エッセンシャルワーカーである業界の大切な構成員、トラックドライバーが「底辺」と見下されて良しとするのか。日本ロジスティクスシステム協会(JILS)総合研究所長の北條英氏は、2024年問題を「内なる貧困と、職業差別が顕在化したもの」と表現している。(国際物流総合展2023 第3回 INNOVATION EXPO特集の同氏インタビューより引用)

政策パッケージでは荷主の意識改革が提言されたが、意識改革すべきはドライバーを守るべき運送事業に関わる関係者全員ではないのか。物流危機が、トラックドライバーの労働環境とからめて語られることは事実だが、それを根拠にますます「底辺」とのレッテルを貼られることには、業界全体で改革をアピールすることで戦わなくてはいけないし、「2024年問題」は、そのきっかけともなる。

「ロジスティクス」後進国、その格下意識が生む物流危機

さらに根深いのは、日本の社会全体がロジスティクスを理解できず、物流を軽視しがちであるということ。現場労働、コストセンターとしての「物流」認識が、業界全体のステータスを下げる大きな要因になっていることである。

上述の荷主の役割における「物流責任担当者」の話に戻すと、そもそも日本の教育の中で「高度物流人材育成」が重視されず、「ロジスティクス専門職」を目指して製造業に就職する学生がいないのだから、企業としても「生産管理」「営業管理」の延長線上で「物流担当」を登用するしかないのが実情ではないか。海外の高等教育機関ではロジスティクス、サプライチェーンマネージメント(SCM)関連分野のコースが多く設置されているというのに、日本ではその間口は極めて狭い。海外ロジスティクス教育先進国におけるCLO(最高ロジスティクス管理責任者)を、そのままこの日本で取り入れたとしても、名ばかりのCLOになりはしないかと余計な心配をしてしまう。22年度のJILS会員アンケート調査では、ロジスティクスやSCMを推進する上での自社の課題について、54.9%の企業が「物流コスト削減」を掲げるが、「ロジスティクスやSCMを経営戦略にすること」を目標とする企業は10%に満たないことからも、物流をコストセンターとしか見ていない日本の企業風土が、コスト削減を「運賃圧縮」につなげることで、物流軽視につながっているのではないか。

日本でもロジスティクスを体系的に学ぶ基盤が出来上がり、各企業においても実践を通してロジスティクスのリーダーが成長していけば、そんな風土も変わるのだろうか。所属企業への貢献に加え、業界全体への貢献、社会的責任の視点を併せ持ったロジスティクス専門職の誕生が、物流危機解決のカギとなれば良いのだが。

新しいサービスを、ただそのまま取り入れるのではなく、それぞれに工夫し、カスタマイズしていくことで、発注者の要望により高いレベルで応えようとする日本企業の真面目さや勤勉さが、物流業界においては、標準化・効率化などへの改革に向けて大きな障害となっている一面もあるように思う。「送料無料」の表現是正では、運送業界と通販業界がぶつかることになるのだろうが、間違ったイメージを定着させてしてしまった運送業界側の責任も振り返りつつ、それでも今は、毅然と言うべき事を言う姿勢から、消費者の意識変容を訴えることも重要であり、それもまた私たちに課せられた改革となろう。

物流業界のステータスの低さを甘受せず、物流に携わるすべての構成員が、誇りを持って働ける意識改革こそが、まず第一歩。そこから始まる物流人材の育成、国全体でのロジスティクスへの理解促進など、道程は長い取り組みとなるが、それでも「今」、政策パッケージの中身の検討と合わせて始めておかなくてはならない。

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