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自民党トラック議連・赤澤幹事長、24年問題を政治はどう迎え撃つ

2024年1月9日 (火)

話題3か月後に迫った2024年問題。荷主、元請け、運送業者はそれぞれの立場で対応を進めている。なぜ今、国は物流の変革を迫るのか。改善基準告示の改正の狙いと、来るべき物流の姿を政治家はどのように見据えているのか。自民党トラック輸送振興議員連盟幹事長の赤澤亮正衆議院議員を招き、24年問題を迎え撃つ心意気について聞いた。

A:赤澤亮正氏(右:自民党トラック輸送振興議員連盟幹事長、財務副大臣)
M:赤澤祐介(左:LOGISTICS TODAY編集長、モデレーター)

なぜ今「改善基準告示の改正」をするのか

M:今日のこの収録は2023年の12月に行っているのですが、配信される24年1月には4月1日からの改善基準告示の改正が目前に迫り、カウントダウンが始まっている時期になります。物流企業の関係者の多くは、非常にピリピリした雰囲気の中で仕事をされているかと思います。そういうなかで、政府は実はさまざまな物流業界支援策を打ち出しています。24年問題、なぜ政府はやろうとしているのでしょうか?

物流二法が規制緩和された結果、国内には現在6万2000という非常に多くの物流事業者がいます。こういう状況のなかで24年問題というのはどういう意味を持つのでしょうか。

A:改善基準告示の改正はいわばドライバーの働き方改革です。2024年問題が発生してしまうのに、なぜあえてやるのかといえば、突き詰めていえば、国民の皆さんに少しでも豊かで安全、安心な暮らしをして、幸福度を少しでも多く感じてほしいからです。なにより大事なのは、「今日よりも明日の方が良くなる」と、国民に信じてもらえる国を作らなければいけないということです。そのためにできることの一つとして、ブラックな職場を是正していかなければなりません。

今回の改善基準告示の改正では、ドライバーの超過労働時間を960時間に収めようということになっています。他の業界が720時間以内となっているのに比べるとだいぶ規制は緩めと言えますが、物流業界の特殊性を鑑みて、960時間という数字になっています。緩めの規制とはいえ、この改正によってトラックドライバーの不足が加速するのは必至です。もちろんそれにより混乱が生じる部分はあるとしても、こうした働き方改革を確実に進めていくことで、国民の幸福度を上げていくことは避けては通れない道だと言えます。

トラック業界の平均労働時間は全産業平均よりも2割長い。また一方で、平均収入は全産業平均よりも1割少ないと言われています。これから人口が減少して人手不足になっていく状況では、ますます働き手が来てくれなくなってしまうのは明らかです。他業界ではどんどん働き方改革進んでいくのに手をこまねいていれば、いつまで経っても業界の人手不足が解消しないばかりか、業界自体が立ちゆかなくなってしまいます。

物流というのは社会にとって本当に大事な機能で、ロジスティクスを大事にしない国には未来はありません。あらゆる産業の基礎となる物流が確実に機能していくためには、労働者が働きに来てくれるための環境整備は避けては通れません。

これからの物流に求められる荷主の責任

 M:物流は社会を動かしていくために必要なものではありますが、直接的には、自社の製品や商品を運んでほしい荷主が、物流・運送を必要しているともいえます。なので、物流において荷主企業の存在というのはとても大きいと言えます。この荷主企業の協力なくしては、今おっしゃったような問題というのは、中途半端な結果にしかたどり着けないのではないでしょうか。

そうすると、政府が荷主企業に対してどういうふうなアプローチをしているのかというのが非常に重要なポイントになってきそうです。

政策パッケージの中でも、発荷主と着荷主は現場の担当者に任せているだけではダメで、担当の役員を配置して、経営問題として取り組むことが求められています。

A:まさにその通り。物流は非常に重要な事柄でもあるので、政府としても24年問題については極めて深刻に受け止めています。政府を挙げて行動に移し、関係閣僚が参加する会議を立ち上げ、物流の問題が少しでも解決できるようにパッケージを作ったりもしています。さらにその中から緊急性の高いものをピックアップして、補正予算をつけて改革を進めるというような取り組みを全力でやっているところです。

そのなかで、法律改正なども進めています。燃油が上がってコストがどんどん増えていることに全く理解を示さず、価格転嫁に応じないような荷主企業があってはいけません。対応が悪い企業については、社名、氏名の公表を行うことなども含めて検討しています。企業側としては、ブラック企業として名前が挙がる前からしっかりと物流の状況を把握し、状況の改善を進めていってもらいたい。経営者の姿勢としても、物流を現場任せにしておくのではなく、トップ自身がロジスティクス、物流について責任を持ってほしい。発荷主にも着荷主にも、物流の労働環境を改革をするのだという意識を持つ方向に、社会全体を変えていく必要があります。

M:今の物流業界の問題の一部は、荷主企業が物流会社に業務を丸投げしていることによって起こっている部分もあるように見えます。今おっしゃっられたのは、荷主企業は経営層がしっかりと物流に関与して向き合っていくことを求めるということかと思います。また、そのために法制化などを進め、法律に組み込んでいく可能性も検討されているということでしょうか。

A:その通りです。次期通常国会では法案を提出して、そうした動きを本格化していくつもりです。元請けから末端の下請けまで、運送に関わる方々がどういう構造で仕事が進んでおり、コストを誰が払うべきなのか。全体としてより良い形のサプライチェーンを作ってもらう方向に向けて、法整備の準備を進めています。コストの価格転嫁をスムーズに行うことができ、ロジスティクスを担っているすべての関係者が相互理解のもとにベストな形を作っていきます。

M:元請け事業者にも、荷主と同様の責任意識を求めてられていますね。

A:下請けの企業からの価格転嫁の要請がある時に、元請けが無視してするというのはフェアとは言えません。例えば原油価格が上がったととき、下請けが価格転嫁できるように荷主に対して価格交渉をしっかりやるのが元請けの責任です。荷主もそうした元請けの立場を理解して、要請に応じていくべきでしょう。業界全体でそれぞれの関係者の立ち位置と責任を理解し、アンフェアなところがあれば国がそこを指摘して改善していくような流れを作っていきたいと思っています。

日本の運送業は6万2000社も必要なのか?


M:現在、全国に6万2000の運送事業者があります。一方で、トラックドライバーのなり手、倉庫での働き手はどんどん減っていきます。この状況のなかで、本当にこの6万2000社という数の運送業者は本当に必要なのかどうかという議論もありえると思います。

お立場的に非常に答えにくいかもしれませんが、運送業界には本当に6万2000社も運送業者が必要なんでしょうか?

A:これまで我が国は人口が増え続けていましたが、今、1000年ぶりに人口が減り始めています。そうなると、社会もいろいろとルールを変える必要が出てきます。

例えば定年制度。なぜ定年制度ができたのかというと、人口がどんどん増えている時には、いつまでも上の世代が働いていると、若い人に仕事が回っていきません。どんどん若い労働者が出てくるから、申し訳ないけどある程度の年齢になったら悠々自適の老後生活に入ってくださいね、というのが定年制度です。これはつまり、人口に対して仕事が足りない時代に作られた制度、失業率を上げないための制度と言えます。

中小企業政策もこれに似たやり方をしていました。言葉を選ばずに言えば、中小企業は従業員のクビさえ切らなければブラックでも許容するという側面があった。長時間労働でも低賃金でもいいから、とにかくクビを切らないで従業員を雇ってくれという方向性の政策だった。失業率が上がらないことが国にとっても政治にとっても一番良い、という時代があったのです。なのでこれまでは、中小企業はできる限り潰さないよう、政治も法整備も行われてきました。イノベーションの原動力になることもありますし、日本の労働者の99%は中小企業で働いていることもありますので、中小企業はとても重要な存在なのは確かです。しかし、人口減少時代に、これまでと同じことはできません。

2100年になると、我が国の人口は6000万人、今の半分以下になってると言われてます。人口が半分になった時に、中小企業は一社も潰さないという方針を続けていたら、2100年には日本の人口当たりの社長の数が倍の国になるということになります。働いている人の賃金は、企業の規模に優位に比例することがわかっています。社長の数が倍になったときには、企業の規模は今の半分になります。そうなってしまったら、働いている人たちはどんどん貧しくなっていってしまう。そういう状況は我々としても受け入れられません。もちろん、今ある中小企業をあえて減らすことまではしませんが、人口が減るのであれば、中小企業の数の維持が絶対の正義だという政策は続けられないし、続けるべきではないといえます。

人口が減少を始め、人口増加時代とまったく違う社会が登場した時に、どういう中小企業政策が良いのかについては、我々自民党も考え抜いて答えを出していかないと明るい未来は開けてきません。

岸田政権では、新しい資本主義へのモデルチェンジを提唱しています。私は、その中核となるのは、人口増加から減少に転じた時代の中小企業政策のモデルチェンジではないかと思っています。人口が増加から減少に劇的に転じることにどう対処するかは、これからの日本を考える上で本当に鍵だと思っていますし、そこの議論を避けて通れないと考えています。また、中小企業政策進める上でも、国民に理解してもらうことが大事です。

物流の構造と責任を見える化する法整備


A:物流の改革については、流通業務総合効率化法案を、次期通常国会に提出したいと考えています。

まず1つ目は、荷主物流事業者における物流負荷軽減向けた規制的措置など。これは荷主と物流事業者に対して取り組むべき措置について、努力義務を課すものです。主務大臣が判断基準を作り、その判断基準に基づいて指導、助言を行います。また、一定以上の規模の事業者は特定事業者として指定をして中長期計画を作ったり、定期報告、物流責任者の設置を義務付けるということをやろうと思っています。中長期計画に基づく取り組みの実施が不十分という場合は、勧告、命令の対象になります。

M:それぞれの事業者に、改善に向けた目標設定と、達成度を示させるということですね。

A:それから2つ目として、多重下請け構造の是正に向けた改善措置。これは貨物自動車運送事業法に関するものです。元請け事業者に対して下請け事業者名称などを記載した実運送体制管理簿の作成を義務付けるというものになります。

M:荷主や元請け業者に多重下請け構造を見える化させるということですね。これは非常に大きい変革ですね。

A:荷主の皆さんも、物流・運送業者に丸投げせず、下請け構造がどうなっているか、ちゃんと把握していただきます。その上で、なおかつほかの事業者の運送の利用下請けに出す行為の適正にかかる努力義務を課すとともに、一定規模以上の事業者に対して、当該適正化に関する管理規定の作成責任者の選任を義務付けるようなことも考えたいと思っています。つまり、下請けに出す仕事の運賃、荷役、荷待ちなど、業務の内容を適正に把握し、場合によっては改正することを義務付け、責任者がちゃんと管理してくださいということです。

それから、運送契約の締結などに関して、提供する役務の内容やその対価などについて記載した電子書面などによる交付も義務付けられないかなども検討しています。物流の構造を変えていくために、まず発荷主・着荷主にも現状を理解をしていただき、経営部門でも物流の構造になっているのかを認識をしてもらいます。その上で、業界全体として持続的に発展できるよう、責任を持ってもらえるような法整備を進めていきたいと考えています。

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