
▲「DPL大阪舞洲」外観予定図
拠点・施設2024年7月末、大阪は舞洲エリアに、大和ハウス工業による新たなマルチテナント型物流施設「DPL大阪舞洲」が完成する。賃貸面積8万1712平方メートル、8階建て7層のこの物流施設は、あらかじめ冷凍冷蔵設備が敷設され、ドライ、チルド、フローズンの3温度帯に対応する賃貸型施設としては、国内最大規模となる見通しだ。
5月に開催された2日間の完成前内覧会に、151社・380人もの物流関係者が訪れたというDPL大阪舞洲の建設意図と強みについて、大和ハウス工業本店建築事業部の石田龍哉主任に話を聞いた。
10年の経験を活かした3温度帯対応
大和ハウス工業がこうした賃貸型冷凍冷蔵倉庫の開発を手がけるのは初めてではない。13年から120棟以上のマルチテナント型物流施設ブランド「DPL」を整備してきたが、実はこれまでも、第1号の「DPL三郷」(埼玉県三郷市)以来、常に1階は冷凍冷蔵温度帯に対応できる仕様にしてきた。18年に完成した「DPL新習志野」(千葉県習志野市)は、4層全館を冷凍冷蔵対応とし、現在も満床稼働を続けている。

▲大和ハウス工業本店建築事業部主任の石田龍哉氏
BTS型(オーダーメイド型)の冷凍冷蔵倉庫開発の経験もあり、設備に関するノウハウは十分だ。それでもこれまでのDPLシリーズでは低層階だけの低温対応が多かった理由を石田氏は、「マルチテナント型では建設時点でお客様の顔が見えないので、冷凍冷蔵設備を最初から導入しない『標準装備』になってしまうことが多い」と語る。
では、なぜDPL大阪舞洲は、マルチテナント型でありながら、あらかじめ冷凍冷蔵設備を設けた3温度帯対応としたのか。大きな理由は、立地から需要が見込まれたことだ。低温物流では医薬品や工業製品なども扱うが、需要の大部分は食品が占める。その点、大阪舞洲は「阪神地域の台所」として低温物流の確実な需要が見込まれるエリアと判断された。またDPL大阪舞洲は湾岸部でありながら大阪市中心部から10キロ圏内にあり、阪神高速道路も利用しやすい。
周辺には既存の冷凍冷蔵物流施設が集積し、フロン規制強化を踏まえた老朽化対応が今後の課題となる地域でもある。さらにEC(電子商取引)をはじめとする流通の多様化や、物流2024年問題などの社会的背景まで勘案した結果、今回の決定に至ったわけである。
DPL大阪舞洲は、大和ハウスが今後冷凍冷蔵倉庫開発に特化していく前提で計画されたわけではない。DPL新習志野がそうであったように、「ここならという場所では、冷凍冷蔵設備を当社が負担してでも、3温度帯対応倉庫を提供していく」(石田氏)。大阪舞洲は「ここならという場所」であるということだ。
地域のニーズに対応する、小区画制と複数温度帯対応
同社のマルチテナント型物流施設ではこれまで、3000坪以上のテナントを主力ターゲットとしてきた。しかし、DPL大阪舞洲では1000坪からのテナントに対応する方針を固めている。これは建設前の調査で、賃貸型の冷凍冷蔵倉庫を利用したいというニーズが中小企業に多いことが分かったからだ。実際に現地で事業者を訪問するなかで、1000~2000坪規模に魅力を感じる事業者が多いことに気づき、「地場のニーズに合わせたい」(石田氏)と、今回の計画にこぎつけたという。内覧会の盛況が、1000坪から入居できる冷凍冷蔵倉庫の高い需要を証明してくれた。
「冷凍冷蔵倉庫の潜在的なニーズはあるが、建設費用や地代が高騰するなかで、新たな低温物流拠点の新設や建て替えを『やりたいけどやれない』という会社が世の中にたくさんある。利用者のすそ野を広げるために最小1000坪から提供することで、世の中に役立つことができると考えている」と、石田氏は振り返る。
しかも、DPL大阪舞洲は冷凍冷蔵温度帯だけの施設ではない。1階から4階が冷凍冷蔵、5階から7階がドライ対応となっている(図1)。1つの建物で3つの温度帯に対応するのも、現地のニーズに合わせたものだ。冷凍冷蔵温度帯の貨物を扱う事業者は、同時に常温帯の貨物も扱っている場合が多いことが分かっている。同社が過去に扱ったBTS型の倉庫でも、ドライと冷凍冷蔵貨物を同一敷地内・建物内に共存させる依頼が多かったという。マルチテナント型のDPL大阪舞洲でも、各テナントが扱う貨物に合わせ、冷凍冷蔵温度帯と同時にドライの階層も使用することが想定されているのだ。
2系統の冷凍機と災害に強い立地、事業継続性も抜かりなし
多機能施設では低温保持の性能が気になるところだが、DPL大阪舞洲は流通系事業者を想定した冷凍機を備えている。メンテナンスやもしもの故障の場合に備えて、冷凍機は2系統を用意。1系統だけでも十分な調温性能を発揮できる。シャッターの開け閉めが非常に多いテナントが使っても庫内温度を保てるよう、性能には余裕を持たせているという。
リスクといえば近年では自然災害も多発しているが、その面でも対策が打たれている。そもそも舞洲は湾岸エリアでありながら、大阪市が公表する水害ハザードマップ上でも被害が出にくいエリアに区分されている。DPL大阪舞洲ではさらなる災害対策のため、盛土と高床を加え、1階床面でも海抜5メートル以上の高さを確保した。万が一の際には高さ60メートル超の建物の高層階や屋上への避難が可能で、屋上ヘリポートも設置される。
▲高潮時(左)と内水氾濫時(右)のハザードマップ(クリックして拡大、出所:大阪市)
設備面ではほかにも、8階に従業者向けラウンジ(150人収容)を備え、働きやすい庫内環境づくりに貢献することとした。また、一方通行の車路を施設の中央に通すことで、雨風の吹き込みを防ぐと同時に、多頻度の入出庫に対応しやすいつくりとした。

▲8階従業者向けラウンジ予定図
まだまだピンは置ける
DPL大阪舞洲は、着工当初には2024年5月に竣工の予定だったが、資材繰りや、作業と建物の安全確保を重視して7月末に延長した。冬季も含んだ年度内での満床を目指したい構えだ。最低契約期間は5年とし、「満床まで時間をかけても、将来を見据えて長く定着するテナントに入ってもらいたい」と石田氏は語る。完成翌年には大阪・関西万博も開催予定だが、道路の改修工事などもあり、万博後の夢洲の発展にも期待が持てる。
石田氏は、「将来的には、冷蔵冷凍倉庫においてもドライ倉庫と同様、物流の自動化を推進する機器のあっせんやプリインストールなどに対応していきたい」と話す。また同社は、EC需要が伸びるなか、湾岸に限らず内陸でも、需要や適地があれば冷凍冷蔵倉庫の建設を進めていく方向だという。
「ドライのセンターがすでにある地域でも、冷凍冷蔵の設備を求めるお客様からの声が上がってきている。特に関西地方はエリアを問わず都市圏内の輸送の利便性が高いので、あとはお客様のニーズ集積次第で、どこに輸送拠点のピンを打つかという問題。ドライも冷凍冷蔵も、まだまだピンは置けると思う」(石田氏)。全国展開する物流不動産デベロッパーだからこその、心強い見通しだ。
所在地:大阪市此花区北港緑地1-1-18
敷地面積:2万4731平方メートル
延床面積:11万5989平方メートル
賃貸面積:8万1712平方メートル
構造:8階建て、RC+S造
取引態様:仲介
完成:2024年7月末
アクセス:阪神高速道路湾岸線・湾岸舞洲インターチェンジから1.5キロ、JR桜島線、ゆめ咲線・桜島駅から3.5キロ