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親会社の主力事業と親和性のある案件に投資

固定観念“壊す”新鋭に期待感、MLCベンチャーズ

2024年10月8日 (火)

話題MLCベンチャーズ(東京都中央区)は、三菱倉庫を母体に持つコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)だ。2023年4月の発足以来、急ピッチで物流会社などに出資してきた。同社の清水康史社長と、投資部長の関本峻治氏に、日本の物流スタートアップ市場への期待などについて話を聞いた。

▲(左から)MLCベンチャーズの清水康史社長、投資部長の関本峻治氏


スタートアップに期待するのは“予想外”の出会い

規模の大きい会社では、投資の可否を決めるのに最低でも半年、案件によっては1年以上を要することも少なくない。これに対して、MLCベンチャーズは発足してから1年半足らずで物流企業など5社に出資した。関本氏は「当社は(出資を決めるまでにかかる時間が)平均で3か月ほど。早ければ1か月で決まることもある」と説明する。時勢に合わせて迅速に投資を判断する機動力こそが、MLCベンチャーズの強みの1つだという。

対象を絞り込んできたわけではないものの、これまでに投資した5社は「親会社である三菱倉庫が主力とする物流業や不動産業との親和性が高い」(清水氏)。今回、同社がLOGISTICS TODAYの特集「LOGISTICS新時代」に注目するのは、自社では発掘が難しいスタートアップとの“予想外の出会い”を求めてのこと。思いがけない組み合わせや新たな着眼点が、物事を加速度的に前進させる例は珍しくない。

CVCとしてのカラーをどう打ち出していく戦略なのか。「物流関連の主要なCVCのなかで、倉庫会社を基盤とするのは当社だけ。その特長をうまく生かしていく」(関本氏)方針だ。今まさに芽吹きつつあるスタートアップが、同社の今後の方向性を決定づける重要な役割を担う可能性もある。

まずは親和性の高い案件に投資

▲リニア駆動型ロボット倉庫「CUEBUS」(出所:MLCベンチャーズ)

これまでの出資先のうち、CUEBUS(キューバス、台東区)は同社の投資スタンスを端的に示す好例と言えるだろう。

CUEBUSは立体自動倉庫の一種で、機動力としてリニアモーターを活用している点が特長。100ボルトの小さな電力でも稼働する。リニアモーターは動いている間しか電力を消費しないため、従来の仕組みに比べ省エネを実現できる構造になっている。また、基本的に「パネル」と呼ばれる床板を組み合わせるだけで設置できるため、柔軟なレイアウトが可能。大規模倉庫はもちろん、小規模での導入も容易だ。すでにJR東京駅の手荷物預かり所のバックヤードを使った、限られたスペースでの実証実験も展開している。

庫内物流業務の最適化につながる、このようなソリューションは、倉庫業に注力してきた三菱倉庫との親和性が高い。棚卸しの自動化を企図するロボットや軽貨物輸送、EV(電気自動車)による輸配送など、ほか4社も物流に関連する事業を展開したり、ソリューションを提供したりするスタートアップだ。

そもそもMLCベンチャーズが発足したのは「自社単独でのソリューション開発や事業創出には限界があると感じていた」(清水氏)からだ。同社としては、まず本業である物流業や倉庫業の成長を促す新たな事業の支援で、足元を固める必要を感じているのだろう。

過剰なリスペクトが課題解決を妨げる

関本氏は「24年問題を筆頭に、物流業界には課題が山積み状態だ。固定観念や先入観、これまで築いてきたプロセスに対する過剰なリスペクトが課題解決を妨げている」と分析する。実は、関本氏は物流業務の改善ツールを扱うスタートアップに籍を置いた経験もある。物流業界の革新に向ける視線は鋭い。「これまでのものを壊していくプレーヤーに出てきてもらいたい」(関本氏)と期待を寄せる。

清水氏も「いままでの物流企業は目の前の貨物や顧客にどう対応するか、そういった“真っ直ぐ”しか見てこなかった。1社だけでは解決できなかったからこそ、今に残された課題がある。既存の枠組みを壊して一緒に新しいものを組み上げられる。そんな企業と出会いたい」という。

両氏の口からはそれぞれ、“壊す”という少々過激な言葉が飛び出した。こうした言葉の端々からもMLCベンチャーズがさらに先鋭的なプレーヤーを探している様子がうかがえる。

コラボマインドの浸透を

同社では今後の新たなスタートアップ出現を期待するとともに、スタートアップを業界全体で支援していく枠組みの必要性を感じているという。清水氏は、日本で物流系スタートアップが少ない理由を「新しい企業と一緒に何かをやろうというマインドが浸透していない。現状ではスタートアップから魅力ある業界、市場だと感じてもらえていない気がする」と分析し、旧態依然とした業界体質を改善すべきだと指摘する。

関本氏も「海外に目を向けると、日本ではまったく手をつけられていない領域に着目したプレーヤーが大勢いる。彼らが日本に入ってきたら、あっという間にシェアを取られてしまうかもしれない」と危機感を募らせる。

日本企業が世界の市場で第一線を走り続けるにはどうすればいいのか。そのヒントは新しいアイデアや技術を持つスタートアップのなかに存在するのかもしれない。

今回の本誌企画は、物流スタートアップ投資に意欲的な事業者と、新しいジャンルのベンチャーを発掘するメディアの力で、これまでの常識を壊すような事業アイデアが世に出ていくことをバックアップするのが目的だ。関本氏は「物流という産業を未来につなげるためのコラボレーションの場になればいい。あらゆる組み合わせが“あり得るんだ”ということを次の世代に示したい」と意気込んでいる。