話題工場や倉庫から製品や商品を出荷し、さまざまな人の手を介して、最終的に消費者の手元に無事届く。これは当たり前のことのようで、実は簡単なことではない。長い道のりのなかで破損したり紛失したりすることもある。荷物を偽物とすり替える不届き者もいるかもしれない。最近は、環境対策で共同輸送も増え、輸送に関わる業務が複雑化している面もあり、ミスを防ぐために作業の省力化、効率化も欠かせない。

▲LOZIのマーティン・ロバーツCEO
こうした物流の課題を解決したいというニーズに応えるのが、LOZI(ロジ、名古屋市中区)が開発した「SmartBarcode」(スマートバーコード)だ。バーコードやQRコードとスマートフォンだけで、人や物の動きを可視化でき、物流を加速、効率化する。同社のマーティン・ロバーツCEO(最高経営責任者)にサービス開発の狙いや将来展望などについて聞いた。
バーコードとスマホで物流を管理
SmartBarcodeはバーコードやQRコード、スマホさえあれば、商品や製品に関する情報を簡単に取得したり共有したりできるソリューションだ。ウェブアプリのためダウンロードの必要がなく、専用スキャナーも不要。スマホさえあれば利用できる手軽さが強みだ。
まずは専用アプリでコードを生成、コードと紐付けたいモノに貼り付ける。あとはスマホでコードを読み取れば、アプリ上で情報を入力したり、入力された情報を取得したりすることができる。また独自の発行コード以外にも、既に商品に付与されているQRコードやバーコードをスキャンして、情報をひも付けることが可能。情報の項目はユーザーごとに設定できるため、多種多様な活用方法が想定される。
ではSmartBarcodeには具体的にどのような活用方法が見出されているのか。その具体例をいくつか紹介する。
まずは「複雑化するサプライチェーンの可視化」。昨今、共同配送や中継輸送などによる物流の効率化が進んでいるが、その分、一つの荷物に関わる人は増えている。従来のように紙を使った管理方法では、関わる人が多くなるほど伝票や確認作業も増え、フロー全体が煩雑になる。しかし、SmartBarcodeは一つのコードで確実に荷物を追跡しつつ、スムーズな受け渡しを実現する。コードは再利用できるので、通い箱や通いパレットなどはいつまでも同じコードで管理可能だ。
次に「商品の高度なトレーサビリティー」。事業者から事業者へと、リレー方式で荷物が手渡されていくなか、荷物の現在地を把握するのは容易ではない。しかし、SmartBarcodeに拠点の情報がひも付けられていれば、各事業者がコードを読み込むだけで現在地を共有できる。大まかではあるが、荷物が紛失したポイントなども割り出すことが可能だ。写真をアップすることもできるので、破損が生じた原因を特定する際にも役立つ。
同サービスは誤配防止にも応用できる。例えばパレットなどにコードを貼り付け、アプリ上でそこに載せる荷物をひも付ければ、誤って別のパレットに荷物を積み込んだり、出荷しようとしたりすると、アラート音で間違いを作業者に知らせる。
また、貨物の重量や輸送手段、走行距離などをアプリに入力すれば、輸送中に生じたCO2排出量の概算も簡単に計算できる。多くの企業が環境に対するアプローチを重視するなか、同社も脱炭素化に貢献できる機能を充実させていく予定だ。
次に挙げるのは「ブロック連携チェーンによる真贋(しんがん)管理」だ。コードと商品に情報をひも付けるという性質上、SmartBarcodeは商品の出所や輸送ルートを明確にすることができる。そのため非正規品が多く出回る市場において、その商品が信頼できるものかどうかを判断する際にも役に立つ。実際にスポーツ用品のゼビオは、中古品の真贋を見極めるために同システムを利用している。コードから情報にアクセスできるのは、あらかじめ登録された事業者だけな上、事業者ごとに閲覧可能な情報を設定することもできるため、情報改ざんが起こるリスクは非常に低い。
SmartBarcodeは「作業者の安全管理」にも応用できる。総合物流企業の山九などは、作業スタッフのヘルメットなどにQRコードを貼り、SmartBarcodeと連携。現場でヒヤリハットが起きたとき、アプリを通じてすぐに報告ができるようした。そうすることで即座に状況を把握できる上、ほかの作業員にもスムーズに情報が行き渡る。これによって安全対策が強化されるとともに、報告書作成の手間も省くことができ、従業員の負担軽減にもつながったという。
国際EC配送での課題解決のため起業
ロバーツ氏は、もともと広告代理店の仕事をしており、物流とはほとんど接点がなかった。主な仕事はメディアとタイアップして新しいビジネスをつくることで、クラウドファンディングを手掛けたこともある。そうしたなか、インフルエンサーマーケティングを手掛けている会社から、日本の若い女性に人気の韓国コスメを、本国から直接購入できる仕組みを作りたいという相談を受けた。

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そこで、まずEC(電子商取引)プラットフォームを作ってみたが、商品が届かなかったり、遅れたりとトラブルが続出。その上、問い合わせても商品が今どこにあるかが分からない。日本にあるのか、まだ韓国を出ていないのかすら把握できなかった。そこで思い付いたのがバーコードによる管理で、コードに各種情報を乗せられれば、追跡が容易になり、輸送もスムーズになるのではないかと考えた。
しかし、ロバーツ氏は物流に関しては全くの門外漢で、何から始めればよいのかわからなかった。しかし「この仕組みが完成すれば、さまざまな課題を解決できるはずだと、確信めいたものはあった」とロバーツ氏は振り返る。
そして2018年にLOZIを設立し、システムの開発に着手。中国サプライヤーの代行販売で運転資金を捻出しながら試行錯誤を重ね、20年春にようやく完成にこぎ着けた。その年に山九がアフリカ向けの貨物を追跡するために導入してくれたことが実績となり、事業も軌道に乗り始めた。その後も機能の改善に努め、導入企業が増えるにつれて、使い方も広がってきた。もともとは国際物流を想定していたが、現在の導入企業は物流企業ではなく、メーカーが圧倒的に多い。
これまで30回以上機能を追加してきたが、モットーは現場に必ず足を運ぶこと。現場に行けば、さまざまな意見や相談事を聞くことができ、それが新たな機能のヒントになる。業種によって課題は異なるが、数多くの話に耳を傾けていれば、共通の課題が見えてくることがある。「そうした課題の解決に取り組むことが汎用的な機能につながる」(ロバーツ氏)
中小企業へと裾野を広げ、いずれは海外に
SmartBarcodeのリリースから4年が経つが、ロバーツ氏は「事業が本格的に軌道に乗ったのは昨年の夏くらいから」だという。大手企業とパートナー契約を結ぶようになってから、パートナー企業から顧客を紹介されるようになり、導入企業も増えてきた。
今はさまざまな企業と手を組んで物流の実証実験に取り組んだり、経済産業省のプロジェクトに参加したりしている。物流の24年問題が取りざたされるなか、物流の課題解決に貢献するサービスとして注目を浴びていることを肌で感じることが多い。
一方で、ロバーツ氏はプリンターやハンディスキャナーのメーカーとの連携に力を入れている。やはり、バーコードを直接扱う企業の周辺にビジネスチャンスがあるとの見立てだ。
「今後は、中小企業への販路拡大を中期的に取り組みたい」とロバーツ氏。今、導入企業のほとんどが大手企業だが、導入コストの低いSmartBarcodeは本来、中小企業向けのツールだとの思いがある。いかに中小企業にメリットを理解してもらい、必要なサービスだと思ってもらえるか。その点、実証実験などのデータは、中小企業にも良さを知ってもらうための強力な武器だ。
国内で販売先の裾野を広げたら、次に見据えるのは海外展開。SmartBarcodeは最初から多言語化されているため、海外進出のハードルは低い。「物流が脆弱な国でパートナーを探し、経済の発展に貢献したい」と、ロバーツ氏は目を輝かせる。
一問一答
Q.スタートアップとして、貴社はどのステージにあるとお考えですか?
A.現在はシリーズAの資金調達に向けて動いています。プラットフォームの構築は一定レベルに達していると考えているため、集めた資金はユーザー層を中小の事業者に広げるために使いたいと考えています。そのために営業体制の強化を図りたい考えです。
Q.貴社の“出口戦略”、”将来像”についてお聞かせください。
A.5年後のIPO(新規上場)を目指しています。現在はグローバルサウスなどの物流途上国への国際的な展開を視野に入れて活動しています。