話題昨年4月1日の改正改善基準告示の施行により、「2024年問題」に直面した物流業界。働き方改革を掲げたこの改正を背景に、国土交通省のトラック・物流Gメンが現場の声を収集し、公正取引委員会が公正な商取引の実現に向けて活動を活発化させるなど、物流業界全体で大きな変革の兆しが見られました。
さらに、国交省は経済産業省や農林水産省と連携し、持続可能な物流のあり方を提案。民間では、労働人口減少時代に対応する効率的な輸配送の取り組みが次々と登場しました。また、物流を支える一般消費者にも再配達削減を呼びかけるなど、官民一体となった取り組みが広がり、物流改革が進展した1年となりました。
LOGISTICS TODAY編集部では、24年に掲載した記事の中から特に多くの注目を集めた10本の記事を厳選し、あらためて解説。新たな年を迎えたいま、物流構造改革に向けた動向や現状を振り返り、次なる改革への備えとしましょう。
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(1)改正物流2法が可決
「物流総合効率化法」と「貨物自動車運送事業法」の改正法は2024年5月に公布された。改正「物効法」で注目すべきは、一定規模以上の事業者を「特定事業者」として指定し、このうち荷主の特定事業者には「物流統括管理者」(CLO)の設置を義務付けたことだ。特定事業者やCLOには、物流効率化に向けた中長期計画の作成、定期報告などの責務があり、計画実施が不十分な場合には、国による勧告や命令が下される。
一方、改正「貨物自動車運送事業法」では、元請けが実運送を担う下請け事業者の社名などを記載する「実運送体制管理簿」を作成するルールが新たに設けられる。元請けに対し実運送管理の徹底を求めることで、運賃ダンピングの温床となっている多段階な取引構造を是正するのが狙い。また、同改正法では、これまで野放し状態にあった軽トラ運送事業者への安全規制を強化。「貨物軽自動車安全管理者」の選任と国交相への届け出を義務付ける。
いずれもかなり踏み込んだ内容であり、24年問題の解決やトラック運送事業の適正化に向けた関係省庁の本気度をうかがい知ることができる法改正と言えるだろう。両改正法はことし4月に施行される見通しだ。(K)
(2)トラックGメンがヤマトなど2事業者に勧告
国土交通省が2023年に設置した「トラックGメン」。いわゆる「2024年問題」を間近に控えた23年11月、12月は集中監視月間とし、精力的な情報収集と監査を行った。荷主、元請け事業者への聞き取りなどのほか、高速道路のサービスエリアやパーキングエリアのトラックドライバーにも話を聞くなど、現場の声に耳を傾けながら、調査は進められた。
そうした中で、すでに22年に「過積載運行の指示」を行っていたことから改善要請を受けていた元請け事業者のヤマト運輸に、その後改善が見られないことが判明し、勧告・社名公表の措置が取られた。
また、荷主企業の王子マテリア(東京都中央区)は同様に、運送事業者に長時間の荷待ちを強いていたことから改善要請を受けていたが、改善が見られないことから同様の勧告・社名公表が行われた。
24年1月26日には、集中監視月間での取り組みにより、上記2社以外にも、要請164件、働きかけ47件と、これまでになく多くの企業に改善が求められたことが発表されている。24年4月の改正改善基準告示施行以降さらに活動を本格化させ、11月には名称を「トラック・物流Gメン」と改め、倉庫業者にも監視を強めたGメン。ことし1月下旬には、昨年を上回る違反行為が発表されているのかもしれない。(T)
(3)国交省、トラック・物流Gメン改組で監視を強化
国土交通省が「トラックGメン」を設置したのは2023年7月。本省、地方運輸局、運輸支局などに総勢162人が設置され、トラック運転手や事業者への積極的な情報収集を行ってきた。現場で輸配送を行うトラックドライバーや、多重下請け構造で下流に位置する実運送業者が、荷主企業や元請け事業者から不当な扱いを受けてないかなどの調査を続けた。
23年は11月、12月を集中監視月間と位置付け、元請け企業のヤマト運輸、荷主の王子マテリアの2事業者に勧告。そのほかにも、勧告の前段階である「要請」の件数も増えるなど、Gメンの活発な活動が行われた。
24年4月、「2024年問題」の改正改善基準告示が施行され、物流関連法制の改正、整備が進むとともに、Gメンの活動はさらに活発化。11月から集中監視月間が始まるタイミングで、呼称が「トラック・物流Gメン」へと改称され、体制を強化。設立時の2倍以上となる360人以上に調査員を増強し、倉庫業者からの意見聴取や情報収集も進めている。
4月の改正改善基準告示施行以降、Gメンの精力的な監視と調査が続き、全国の物流の現場で改善が進んでいるが、行政処分の厳格化と厳罰化などが始まることで、より法に則った物流の実現に向けた流れは強まっていくだろう。トラック・物流Gメンも労働局、公正取引委員会などと連携し、今まで以上に厳格な調査を進めていくと見られる。(T)
(4)多重下請け構造にメス、貨物自動車運送事業法改正へ
2024年2月、「物流の2024年問題」関連の法改正案が閣議決定された。貨物自動車運送事業法の一部を改正し、元請け事業者、運送契約、下請けの利用に関する規制を新たに導入した。トラック運転手が被る劣悪な労働環境の元凶でもある多重下請け構造にメスが入る。
多重下請け構造は荷主から一次請け会社の下に複数の下請け会社が連なる仕組みだ。元請けから下請け、孫請けへと下る。物流業界には、昔からの商習慣という形でヒエラルキーが存在するのだ。再委託で中間マージンが取られることで下流の下請けが適正な運賃を収受できず、事業者の収益性が低下。赤字を避けるためのコンプライアンスを無視した長時間労働、不十分な安全管理など負の連鎖が発生する。トラブル発生時、誰が責任を取るのか、その所在もあやふやだ。
こうした状況が看過された結果、ドライバーという職業は総じて低賃金で、過酷な労働環境となった。労働者人口の減少や労働時間規制による輸送力不足を懸念する声があるが、であればこそ、ドライバーを今以上に魅力ある職業として刷新、若者の流入を促す必要がある。その足かせとなっている多重下請け構造を顕在化させ、解消する時が来た。(H)
(5)全ト協、多重下請けは「2次請けまでに制限」と提言
適正な運賃の収受を妨げている要因の1つとされる「トラック運送業界の多重下請け構造」。全日本トラック協会は2024年3月、ここにメスを入れるべく提言をまとめた。その内容は「下請けは2次下請けまでに制限すべきだ」というもの。さらに、荷物と空きトラックをマッチングする求荷求車システムは、多重下請け構造を助長する仕組みであるとして、著しく低い運賃・料金を提示しているユーザー(事業者)に対し、国土交通省からの改善要請や、「トラックGメン」による監視強化を求めた。

▲全ト協の坂本克己会長
多重下請け構造の是正は多くのトラック運送事業者が賛成する。しかしその一方で、24年問題などを背景にドライバーや車両が減少するなか、取引に制限をかけてしまうことで、「荷物の運び手探しがより困難になるのではないか」(中堅物流会社社長)と懸念する声もある。
トラック運送事業の適正化に向けて、下請けに一定の制限を設けることに異論はない。ただし、例えば年末年始や年度末の繁忙期には、「サプライチェーンを止めない」という社会的責任を果たすためにも、制限に縛られない柔軟な運用を一部認めるなどの措置が必要になってくるのではないだろうか。(K)
(6)運行管理一元化に伴う管理者の選任要件を検討
国土交通省は2024年11月、23年度にスタートした「運行管理高度化ワーキンググループ」(旧・運行管理高度化検討会、20年度発足)の24年度初会合を開催した。このワーキンググループで議論されているのは、複数の事業所(営業所)の運行管理機能(点呼、運行指示、労務管理など)を集約して一元的に管理する際の要件はどうあるべきか、という点だ。現行の省令に基づいて機能を集約すると、運行管理責任者の追加選任が必要になるなど、一元化の効果が薄れてしまうため、人手不足などを背景に、トラック運送事業者から緩和措置を求める声が出ていた。
ワーキンググループでは、実証実験を通じて、情報通信機器を活用した遠隔での管理に切り替えた場合の課題の抽出などに取り組んでいる。ことし3月には24年度3回目の会合を開き、「遠隔点呼」の要件の最終とりまとめ、「業務前自動点呼」の要件とりまとめ、「一元化における運行管理者選任数」の要件整理などを実施する予定。安全管理上、問題がないと判断されれば、将来は運行管理責任者の重複選任の解消など、より柔軟な管理体制の構築が認められ、トラック運送事業者の負担は軽減される公算が大きい。
(7)運行管理者講習の手帳廃止に、来年4月から
国土交通省認定の運行管理者等指導講習の実施機関、自動車事故対策機構(NASVA・ナスバ)は4月1日から、講習修了証明の方式を、従来の手帳への押印から修了証明書への交付に切り替える。ナスバは運行管理者等指導講習の方式として、2024年12月1日からeラーニング講習「eナスバ」を開始しているが、eラーニングではシステムから直接手帳への証明ができないため、電子媒体の「修了証明書」を交付することで対応する。
これに伴い、講習受講修了者の証明方法について、eラーニング講習と対面講習とで方法が異なることによる取り扱いの複雑さを防ぐため、ことし4月以降は両方に対応できる修了証明書に統一。受講履歴の証明については、4月までに手帳を発行済みであれば手帳での証明が可能だが、以降は「受講履歴証明証」に切り替え、手帳の再発行も行わない。
eナスバの導入により、講習会場へ足を運ぶことなく運行管理の一般講習、基礎講習の受講が可能となるうえ、修了証明や履歴管理を電子証明に切り替えることで、運行管理者指導の効率化を図る。(Y)
(8)新たなトラックの標準的運賃告示、6月1日施行
国土交通省は2024年6月1日、新たなトラックの標準的運賃を告示した。価格表を従来の運賃水準から平均8%引き上げることに加え、荷待ち・荷役にかかる時間・作業の対価をについても定めることで、荷主や元請けに対して適正な価格転嫁を求める。
新たな標準的運賃は、「適正な価格転嫁」の実現だけにとどまらず、「多重下請け構造の是正」「多様な運賃・料金設定」という観点から、ドラスティックな商慣行の改革を目指すものだ。待機時間料や荷役作業ごとの「積込料・取卸料」、荷待ち・荷役時間が計2時間を超えた場合の割増し、「下請け手数料」や「個建て運賃」の設定、リードタイムに応じた「速達割増」、割増し対象となる特殊車両の車種拡大などが提示されており、トラックドライバーの賃上げや、トラック運送事業者の労働環境の改善につながる内容となっている。
24年問題で最も注目される荷待ち・荷役問題では、新たな料金体型を設定することで、荷主企業がドライバーの労働時間を犠牲に“得をする”仕組みにメスを入れ、荷主企業の現場改革を促進する。(Y)
(9)点呼未実施や勤務時間告示違反の処分が厳罰化か
国土交通省は2024年9月に自動車運送事業者に対する行政処分の基準を改正、10月1日から施行された。もともとは25年1月からの施行の予定だったが、前倒しでの実施となった。
改正後は酒酔い・酒気帯び運転に関しては新たに「指導監督義務違反」についての量定が定められた。酒酔い・酒気帯び運行が行われた場合、飲酒が身体に与える影響、飲酒運転、酒気帯び運転の禁止に関わる指導などが未実施の場合は、初違反で100日車、再違反で200日車の処分が課される。
さらに、酒酔い・酒気帯び運行が行われた場合で、かつ点呼を実施していなかった場合の「点呼の実施違反」の量定も設定され、初違反で100日車、再違反で200日車の処分となる。
ドライバーの乗務時間等告示順守違反も、これまでの未順守16件の上限を廃止。未順守計6件以上となると、初違反で未順守1件あたり車両停止2日車、再違反で未順守1件あたり4日車となった。
運送事業者は、これまで以上にドライバーの酒気帯びについて管理監督する必要があり、またその前提となる点呼の確実な実施がより強く求められる。また、ドライバーの勤怠管理も、法の定める範囲内での勤務時間を、より厳しく順守する必要がある。これらの法を順守しつつ、点呼、運行管理などについては記録とその保管も必要となり、事業者には業務の負荷が増える部分もあるが、DX化などで業務負担を軽減しながら、法に則った経営が、これからの運送事業者には求められる時代となったといえる。(T)
(10)4月は運送業30社が倒産、後継者問題が深刻化
東京商工リサーチが発表した2024年4月の運送業の倒産件数は、前年同月の14件から倍以上の30件。2か月連続で前年同月を上回った。同年1‐4月を振り返っても、前年同期の83件よりも33件増え、累計倒産件数は116件と、過去最多を更新した。この期の100件超えは14年の108件以来というから、まさに今、運送業受難の時代だ。
倒産に追い込まれた背景には要因が幾重にもある。原油高、円安による燃料費の高騰の影響や、24年問題によるドライバー不足。また、小・零細企業の価格転嫁の難しさ、コロナ融資の返済に苦慮するなど複数ある。経営改善が望めず、多額の負債を抱える前に債務を整理、廃業する事例も少なくない。
また一方で、倒産の理由に後継者不足を挙げる事業者もいる。事業は継続できるが、後継者のなり手がいないのだ。そのほかにも配送コストの抑制、運行の自動化や可視化、配送業務の負荷削減など喫緊の課題を解決しなければならない。なによりも、物流に「希望」を見いだせる環境づくりが必要ではないのか。(H)