ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

不正はなぜ発生したのか、ハマキョウ調査報告

2013年7月29日 (月)

話題ハマキョウレックスは26日、元従業員による不正行為の調査結果を公表した。3PL事業の高い利益率を誇る同社で、なぜこうした不正行為が発生したのか、調査報告書に示された一連の行為の経過、事業運営上の課題を探る。

不正行為の発覚
不正行為は、ハマキョウレックス経理部が6月下旬、営業本部長に対して「滞留売掛金の回収進捗に疑義がある。詳細を調査する必要があるのではないか」と報告したことがきっかけとなり、発覚につながった。

経理部からの報告を受け、営業本部長は担当責任者と面談し、事情聴取したところ「不明朗な取り扱いがなされている可能性があり、調査が必要」と判断、調査委員会の設置を検討した。

同社は独立役員の坪井成司・常勤社外監査役を委員長とする委員5人、調査補助5人による調査委員会を12日に設置し、「疑義のある行為の解明」「関係者・協力者の有無」「類似事象が発生していないかどうかの確認」「内部統制上の問題点究明」「再発防止策の提言」をミッションとして調査を実施。

不正行為の全貌
不正行為の核となった架空売上の計上は、どのように行われたのか。

調査報告書によると、元センター長のAとBの2人は架空売上が計上された5年間、自身の業績が不振だったという。2人は「社内評価を上げることで給料を上げたい」との動機で請求書を捏造し、経理部に架空売上を含めた請求金額を報告・提出していた。

これだけであれば、後になって売上代金回収額との差額が発生するため、ここまで不正行為の発覚が遅れることはなかったと思われるが、2人は経理部からの問い合わせに対し「取引先C社の検収手続きのタイミングがずれ込んでいるため」などと巧みな説明を行った。

さらに、次月以降の請求と回収金額との紐付きもして、いかにもその差額が正当なものであるかのごとく説明を繰り返していたという。

また、調査委員会が架空売上の計上について2人から事情聴取を進める中で、Aの供述に不自然な点があり、「リベートなど不自然な金銭のやり取りはないか」と追及したところ、Aは出入り業者X・Yの2人との間で、不当な金銭を受け取っていたと自白した。

手口はこうだ。Aは09年秋、センター内の雑草の手入れと倉庫内の清掃業務を出入り業者に発注し、その作業料を銀行振込でいったん支払った後、XはAに「御礼」として現金を提供。AとXはこの「妙味」に溺れ込んでしまい、これ以降、共謀して実体のない作業を捏造して会社に請求書を提出させ、正当な作業経費として処理させるとともに、リベートとして11年3月まで継続していた。

その後、Xが体調不良などの理由で、不正行為を継続できなくなったが、AはXの「子息の知り合い」であるYに、同様のスキームでリベート現金を還流させることを引き継がせ、結局は切れ目なく11年4月から13年5月までの2年間、こうした行為を定着させていた。

調査委員会は「実体のない作業に対して支払われた金額は2900万円と推定されるが、現時点でYとの取引内容の実態調査が不十分」として、今後は刑事事件として調査を継続する方針。

また、元センター長のBについても、リベート着服などの事実がないか、経理部に提出・保管されている経費領収書などを調べ、本人への事情聴取も実施したが、これまでのところ「その事実は確認できていない」としている。

5年間も不正を発見できなかったのはなぜか
同社では、2012年3月に監査法人、監査役、内部監査室がセンター監査を実施している。この監査では、売上高計上の手順・プロセスは「内部統制3点セット」に記載されている通り、システム化されたデータに基づいて入荷・出荷・保管・付帯作業などの作業結果をデータ集積して請求書を作成しており、金額の突き合わせでも異常値は発見されなかった。

なぜ監査の網から漏れたのか。調査委員会は、「取引先C社宛ての請求書」と「経理部に提出された請求書」の2通が存在する認識がまったくなかったために監査の網から漏れた、と指摘。また、「AとBによる架空売上と隠蔽工作が連続して行われた」ことが不正行為の本質だとした上で、「犯行が巧妙であり、気づくのが難しい状況だった」と分析しながらも、発覚が遅れたのは「会社の管理体制が不十分だった」ためと断じている。

調査委員会の調べによると、元センター長2人が長期にわたって売上仮装・回収偽装を続けることができたのは、「売上請求に伴う請求書発行事務を担当センター長に一任していた」ことにあるようだ。

2人はこれを悪用し、取引先C社と本社経理部に対する書類が二重に相違していたにもかかわらず、銀行振込によって回収された金額が相違しても、巧妙な説明で発覚を遅らせて隠蔽していた。調査委は、2人が所属するセンターの業績は売上高、利益ともに当初予算が達成されており、前年度対比の係数も相応で「大きな問題がない程度に偽装されていた」ことから、発覚が遅れたとみている。

巧妙な説明でチェックすり抜け
こうしたことが可能になった背景には、2人が入社10年超のベテラン管理職社員であり、ほかのセンター長経験もあったため、本社から一定の評価を得ていたことにある。調査委は「架空売上を仮想することが極めて単純、簡単であることを2人が発見し、これを利用(悪用)することで、本社経営に対する予算未達の説明ができること」が動機になったと指摘。

これにより、自身の社内評価の上昇、賞与などの報酬獲得につながることや、優秀事業所として本社表彰を受けることでセンター従業員から信頼を得られ、インセンティブ(表彰金)の供与もあることから「自身の地位が強固になるという意識」も動機につながったとみられる。

同社センターでは、業務部門ごとに責任者が配置され、それぞれの責任者がセンター長に対して業務報告を提出し、収支日計報告に反映される仕組みになっていたが、センター長の段階でデータが不正に加工されており、本社には加工された不正なデータが上がっていた。

この点について、調査委は「本来はダブルチェックによって正しく集計される仕組みを、センター長の独断で不正に加工され、ダブルチェック機能を完全にくぐり抜けて担当部長のチェック機能までを形骸化させていた」と強調している。

管理体制の形骸化
会社の管理上の課題はどうか。

組織として担当部長が配置されているが、AとBはセンター長として同一業務を長期間継続していたため、短期間で交代した担当部長では「巧みに不正加工された事実」を見抜けず、管理・監督が形骸化していた。また、監督に当たるべき担当部長と営業本部が重点的に業務改善を実施するのは業績不振のセンターであり、相応の実績があるセンターは指導・監督の網から漏れるという欠陥があった。

センター長の人事異動やセンター内の部署責任者の担当替えは十分に行われていたとはいえず、この点についても調査委は「人事管理面の不備があったと言わざるをえない」としている。

次に、経理段階でのチェックはなぜ機能しなかったのかをみてみる。売掛金の回収遅れのチェックは、経理部が担当センター長に電話やメールで実施されていたが、経理部は「検収タイミングのズレ込み」だとするセンター長の説明を信じこみ、踏み込んだチェックを行わなかった。滞留売掛金明細書も作成されていたが、経理部長、担当部長、営業本部長のなど関係部署のチェックが甘く、センター長の巧みな言い訳を信じてしまった。

内部監査が機能しなかったのはなぜか。同社では、内部監査室と監査役が中心となって、2、3年間隔でセンター監査を実施しているが、サンプリングによる監査が大半であり、労務監査、資産管理、事故対策、セキュリティー管理など多岐にわたる項目をすべて監査できていなかった。

これらのことから、調査委は「AとBがルールを無視してダブルチェック体制を排除し、得意な弁舌によって喚問をくぐり抜けた特異な事案」としつつも、今回の不正行為を継続させた背景として、「管理体制に不備があったと言わざるをえない」と結論づけた。

調査委「経営責任負うべき」と見解
調査委は今回の不正行為について「社会的観点、道義的観点から、多くのステークホルダーに心配をかけ、かつ信用・信頼を大きく損なった経営責任は当然負うべきであると考える」として、経営責任にも言及。

さらに、内部統制、人事、組織、経理・事務体制と稟議体制の見直し、内部通報制度の整備、コンプライアンス、取締役会と8分野32項目にわたる再発防止策の検討を促した。

■調査委員会による改善提言項目
1内部統制の確立
(1)取引契約書類の整備
(2)内部統制資料3点セット記述書の精度アップ
(3)ダブルチェック体制の定着
(4)担当部次長によるウォークスルーによる運用状況の確認
(5)内部監査室による定例監査の実施
(6)是正勧告の早期対応と体制整備

2人事関係
(1)人事異動の活性
(2)人事考課制度の見直し
(3)人材育成プランの定着
(4)サブセンター長制度の明確化
(5)昇格の明確化によるモチベーションアップ
(6)賞罰のメリハリ表彰基準の明確化

3組織体制の見直し
(1)管理可能な組織の編成
(2)効率的・機動的組織の構築
(3)権限と責任の明確化

4経理・事務体制の見直し
(1)請求書発行事務の見直し
(2)各種のエビデンス添付基準の明確化
(3)取引口座開設の明確化
(4)滞留売掛金の管理基準・方法の見直し
(5)異常取引の察知・報告ルールの明確化
(6)情報の共有化

5稟議制度の見直し
(1)事前稟議の徹底
(2)決裁権限の見直し
(3)稟議項目の見直し
(4)決裁のスピードアップ

6内部通報制度
(1)通報窓口のオープン化ご意見箱などの設置
(2)外部専門家へのアプローチも可能にする

7コンプライアンス
(1)委員会の定例開催
(2)法令順守の啓蒙活動

8取締役会
(1)員数の増加
(2)社外取締役の導入
(3)事前の議案検討期間と審議の活性化