
話題埼玉県の賃貸物流不動産マーケットは、供給面積で全国3位に位置付けられ、1036万2200平方メートルの供給が報告されている。物件数261件は、供給面積1位の千葉県、2位の神奈川県を上回る活況ぶりである。
上位3県はいずれも、首都圏の巨大マーケットを配送ターゲットとしながらも都心と比較してリーズナブルな賃料設定が可能なエリアであり、主要道路とのアクセス性を競い合う激戦区でもある。
工業団地の整備が後押し——久喜市が描く物流要衝への道
久喜市は埼玉県のなかでも、三郷市や、北部に隣接する加須市に次いで3番目に大きな物流不動産マーケットであり、22棟、久喜市は埼玉県のなかでも、三郷市や、北部に隣接する加須市に次いで3番目に大きな物流不動産マーケットであり、22棟、81万3000平方メートルの賃貸物件が供給されている。埼玉県での施設供給が始まったのは2005年からだが、久喜市でも同年3月に東北自動車道久喜インターチェンジ(IC)近くに、当時まだ斬新だったランプウェイ構造を備えたSGリアルティ久喜IIの供給から本格化している。
久喜市の物流地としての強みは、まさにこの東北道・久喜ICを中心とした機動力にある。道路インフラの利便性と比べて県内でもリーズナブルな賃料設定となっていたことから、施設開発が集中した。関東平野のほぼ中央にあたる埼玉県の東北部から、都心までは50キロメートル圏内。市内を南北に貫く東北道、国道4号、国道122号は、東京方面はもちろん北関東、東北方面への接続に優れる。また、東西方向には白岡菖蒲ICを接続点とする首都圏中央連絡自動車道(圏央道)と国道125号が横断しており、首都圏を網羅する物流拠点として屈指の物流適地と評価できる。人口15万人(令和2年国勢調査)は、県内63市町村中第11番目の人口規模であり、労働力の確保でも優位性が高い。
工業団地整備が後押しした久喜市の物流要衝化
久喜市ではこれまで企業立地の促進を図るため、久喜菖蒲工業団地、清久工業団地などを整備し、久喜市企業誘致条例を制定して企業進出を促してきた。交通インフラの利便性を生かして雇用効果の高い優良企業を市内に集積し、地域経済の活性化や雇用促進を図るため、進出企業への優遇助成制度も用意している。
大型物流施設も、市が整備した工業団地エリア内で、地域一体となった成長を目指して開発が加速した。
清久工業団地には、資生堂や大日本印刷などの工場や、日本通運、ロジスティードなど大手物流事業者が拠点とするMFLP久喜(2014年7月)があり、佐川グローバルや大創産業なども物流拠点を構えている。

▲MFLP久喜
その近く、国道122号線沿いの菖蒲北部地区では08年に当時県内で2番目に大きいショッピングモール「モラージュ菖蒲」が開業、その道路向かいに09年より大和ハウス工業が次々と物流施設「D-Projectシリーズ」を開発、トランコム、中央物産、ロジスティードなどが物流拠点を整備した。このエリアは加須同様、ロジスティード、エス・ディ・ロジ、東邦薬品、ツムラ(カンダコーポレーション)といった医療・医薬系物流と加藤産業、F-LINE、HAVIサプライチェーン・ソリューションズなどの食品物流が集積していることも特色である。

▲T-LOGI久喜
久喜菖蒲工業団地には16年5月にCREのロジスクエア久喜、20年6月に東京建物のT-LOGI久喜が完成している。そのほか東北自動車道の東側エリアでは、18年9月竣工のESR久喜DCにアマゾンジャパン、ダイキン工業、ライオンが入居。22年11月にMCUD久喜I(三菱商事都市開発)、23年6月には霞ヶ関キャピタルのLOGI FLAG久喜I、24年7月にはMCUD久喜市IIが完成している。
なお、久喜周辺の平均賃料相場を久喜白岡ICTを中心とした5キロ圏内で見てみると、坪あたり4450円程度での募集、直近1年での成約賃料は4360円となっている。
白岡市にも拠点構築の波、“東京近接”がもたらす新たな選択肢

▲LOGI’Q白岡
久喜市の南側に隣接する白岡市は、埼玉県の中でも30番目の供給規模(4棟、16万5000平方メートル)と物流不動産マーケットとしては比較的新しいエリアである。ただ、加須市から久喜市、白岡市と南北に連なる一帯すべてが、関東の中心地としての物流特性を備えたエリアであり、なかでも東京からの距離が短い白岡市での拠点構築にメリットを感じる企業も少なくないだろう。東北道、国道122号に県道8路線が市内を通過し、南北と圏央道にスムーズに接続。白岡菖蒲ICや久喜IC、久喜白岡JCTを活用した物流網構築が可能となるなど好条件が揃う。
同市には、19年10月に東急不動産がLOGI’Q白岡でエリアに初進出、以降は24年3月にLOGI’Q白岡IIが完成し、26年4月に東京建物のT-LOGI白岡が供給を控えている。今後、白岡市が首都圏物流の有力拠点として注目される可能性は高い。
圏央道整備が加速する“埼玉物流圏”の拠点価値
圏央道の久喜白岡JCTと、白岡菖蒲IC間が11年2月、境古河IC間が15年3月に開通したことで関越自動車道や常磐自動車道などへのアクセス性能が向上。また23年3月久喜白岡JCTと幸手IC間の4車線化によって、圏央道埼玉県内区間では4車線化がほぼ完了、圏央道の整備率は9割程度となった。茨城県や千葉県などの未整備区間まで全面4車線開通となれば、港湾や空港との接続性も高まり、広域緊急輸送道路としても地域下支えする存在になるだろう。

開発中の(仮称)T-LOGI白岡
さらに圏央道を最大限に活用した地域活性化の取り組みとして、久喜市ではよりスムーズな圏央道への接続を可能とするスマートインターチェンジの開設を計画。久喜白岡JCTの東にETC専用の圏央道との結節点となる(仮称)久喜東インターチェンジを開設予定だったが、工事価格の高騰や周辺道路の整備の遅れなどで計画の見直しを余儀なくされているようだ。久喜市まちづくり推進部産業拠点整備推進課に話を聞くと、「スマートインターチェンジの設置については、検討している箇所が高架構造のため事業費が高額となり、国の事業化の採択に至らない状況」との現状を明かし、「インターチェンジ整備の別の手法である地域活性化インターチェンジ制度の検討も含め、これまでと同様に費用負担の少ないインターチェンジの設置を目指したい」との方向性を示す。IC周辺の自治体である幸手市、杉戸町、宮代町などエリア全体の活性化を目指した協議会を通じて、取り組みを継続していく予定だ。
“物流”を中核とする埼玉の戦略、県と市が一体で描く未来像
埼玉県全体でも物流に力を注いでおり、05年1月から24年6月にかけての企業誘致数を1371件、新規雇用を4万2275人としているが、そのうち752件が圏央道沿いエリアへの進出としており、県と市がともに「物流」を基盤にした経済の活性化を目指して、物流施設の集積のみならず効率的な物流の検証が続くエリアとして注目される。
昨年の「第2回強い経済の構築に向けた埼玉県戦略会議」では、将来的に全国ワースト3位規模のドライバー不足が見込まれる課題を受け、埼玉県知事や国土交通省、財務省、業界団体、ヤマト運輸・佐川急便・日本郵便・JR貨物などが「埼玉の持続可能な物流の確保に向けた共同宣言」を採択している。

▲久喜市の代表的観光スポット、鷲宮神社
これは物流を社会インフラとして明確に位置づけ、人材確保や再配達削減を念頭に置いた取り組みを連携して進めるものだ。荷待ちや荷役時間短縮、リードタイムの見直し、モーダルシフトや物流DX、ホワイト物流運動の推進、宅配ボックスや置き配の普及など、構造改革を図る対策が示されている。加えて、県の企業誘致策として「埼玉県産業立地促進補助金」や「埼玉県産業立地資金」なども整備されており、県下圏央道エリアへの物流拠点構築のインセンティブが高まっている。
“物流革新”担う最前線へ、久喜・白岡だから実現できる次のステージ
圏央道の利便性拡大に伴って、都心消費圏もさらに拡張し、久喜・白岡もその傘下に吸収されたといえる。県下の産業構造もこれまでのものづくり産業から、コンビニエンスストアや飲食店舗が集中している首都圏向け食料品の製造拠点、物流拠点へと変化して、物流要衝としての久喜・白岡の存在価値を高めている形だ。久喜市には、医療・医薬品物流のエス・ディ・ロジ、東邦薬品、ツムラ(カンダコーポレーション)や、食品物流の加藤産業、F-LINE、HAVIサプライチェーン・ソリューションズも拠点を構える。

▲久喜菖蒲工業団地の中心、久喜菖蒲公園
今回、久喜、白岡の工業団地を巡ると、かつての湖沼を中心に製造・物流業の集積が促されてきたことがわかる。利根川などの豊かな水資源は、梨やいちごなど地域の特産品も育んできた。工業製品だけではなく、農畜産物の拠点としての特性にも優れるエリアでもある。全農物流は23年に、首都圏で同社初の冷凍・冷蔵機能を備えた最大規模の物流拠点を久喜市に開設、個食の拡大などで高まるコールドチェーン需要に対応した体制を整備するなど、巨大消費地とつながる地の利を生かし、これからの時代に則した農産物物流の構築を担うなど、地域や社会の新たなニーズにも応える。

▲梨、イチゴなども地域の特産物
また、AIなどを活用した最先端のスマート農業運営事業を耕作放棄地で展開するイチゴノオカプロジェクトを昨年発表、新たな大規模イチゴ栽培事業と連携したバリューチェーンの構築に向けて、農園併設地に東急不動産が物流施設を開発する。
最終目的地・都内へ向けた少量多頻度配送のより効率的な仕組み作りや、各地からの中継最終拠点、共同物流、混載、標準パレット運用などの実証を進める舞台としても最適な条件が整うエリアは、農産業などの進歩の受け皿としての機能強化も求められることになるだろう。今後、久喜市や白岡市だからこそ可能となる多様な領域の物流効率化プロジェクトが、続々と報告されることにも期待したい。