話題深刻化するドライバー不足、物流効率の低下、環境負荷の増大──代の物流業界は複合的な課題に直面する。社会インフラの持続可能性が危ぶまれるなか、T2(東京都千代田区)はレベル4自動運転技術を核とした、革新的な物流ソリューションの構築を急ぐ。「紡ぎ、繋げ、未来へ継ぐ」との理念を掲げる同社は、自動運転トラックによる幹線輸送サービスの実用化に向け、新境地を切り拓こうとしている。

▲T2取締役CEOの森本成城氏
2023年以降、同社は三菱地所、KDDI、日本貨物鉄道(JR貨物)などから、プレシリーズA、シリーズA、さらにシリーズA追加ラウンドで計60億円以上を資金調達した。この原資を基盤に技術開発を加速させ、事業領域の拡大を推進する構えだ。27年にレベル4自動運転トラックによる幹線輸送サービスを実用化する。持続可能な物流ネットワークを構築していく上で、同社が果たす役割はますます重要になるだろう。そうした日々高まる期待に、どう応えようとしているのか。同社代表取締役CEO(最高経営責任者)の森本成城氏に話を聞いた。
レベル4自動運転トラックで幹線輸送サービス
「持続可能な物流ネットワークの構築を行い、日本が抱える物流キャパシティー不足という課題を克服し、日本の物流業界も活性化させたい」と開口一番に語る森本氏。そうした志を同じくする者同士が集い、22年8月、T2が誕生した。
人手不足と労働規制強化という二重の課題に直面する物流業界で、同社は革新的なソリューションの提供に挑戦している。運転者が車両の運転操作から解放され、限られた条件下でシステムが自動運転を行うレベル4自動運転トラックによる幹線輸送サービスだ。
集約拠点間の高速道路の長距離輸送を自動運転トラックで行うことで、高い生産性の実現や、環境負荷の低減、安全性の向上にも取り組む。

▲レベル4自動運転実用化に向けた公道での実証実験の様子
高精度な物体認識技術など重要技術を自社で開発
T2はレベル4での自動運転トラックに必要な4つの重要な技術を自社で開発している。その1つがLiDAR(ライダー)とカメラを組み合わせた高精度な物体認識技術。2つ目がGNSS、IMU、HDマップを統合した精密な自己位置推定システムだ。そして3つ目がリアルタイムでの最適ルート選定を行う指令判断システムで、4つ目が高度な車両制御技術となる。
同社では段階的な技術開発と実装を計画しており、23年度から24年度にかけては、部分的な運転自動化を指し、車両が特定の条件下で運転を支援するレベル2での自動運転技術の開発に注力した。25年度から26年度にはレベル4での自動運転技術の確立、有人・無人運転への切替拠点や遠隔監視・駆付けシステムなど、同社のサービスを運用する際に必要不可欠な要素の開発を行い、27年度には、レベル4自動運転トラックでの幹線輸送サービスの開始を予定している。
「社会を良くしていきたい」社員の思いに応える
「こうした新たな技術に対する周囲の期待を感じると同時に、私は社員の思いに応えたいという気持ちが強い」と森本氏。
「今、当社には141人(25年3月1日時点)の社員がいる。多様な会社からトップクラスの技術者が入社してくれている。技術開発に励むと同時に、彼らは社会に貢献したいという熱い思いを持ち合わせている。また、事業開発の部署には運送業やドライバーの経験者がいるが、物流業界の労働環境を改善したいと意を強くする人が多い。事業を成長させ、そうした社員の思いに応えたい」
森本氏はT2を「コミュニケーション力の高い会社」とも形容する。個人の能力が高いだけでなく、チームワークで優秀な物を作り出す人間力の高い人材が集まっているとも語っている。
「この会社の社員は総じてチャレンジが好きで、頭脳明晰、優秀だ。そのため、自らのキャリアアップもしっかりと計画しているし、私自身も各社員のステップアップを心から応援したいと思っている。T2を卒業した後にどのようなキャリアを考えているかを入社面接時点で質問するようにしている。また、T2で学んだことを携えて卒業していったメンバーと、また一緒に仕事をするのが私の希望でもある。T2は人間力ある人材を生み出す会社と思ってもらえるのが理想だ」

▲チャレンジ精神旺盛な仲間が集まった
国益に貢献できる千載一遇の機会と社員を鼓舞
人手不足などにより物流業界は危機的な状況にあるが、T2は業界を活性化して国益に貢献できるチャンスと捉え、森本氏は社員を鼓舞する。
「私は社員が入社した時、今まで社会貢献したことがあるかも全員に聞いている。すると、ほとんどないというのが実情だ。だから私は、T2では社会の大きな課題を解決し、国益に貢献できる千載一遇の機会が得られると伝えるし、達成感も味わえるかもしれない。大きく潮目が変わる時だから、一緒に目の当たりにしようと呼びかけている」
物流業界に対しても一家言ある。自動運転トラックの幹線輸送サービスには、企業がそれぞれの道を個別に進むのではなく、それぞれの得意分野を生かして協力し合わないと実現には至らないと強調する。現に、拠点開発は不動産デベロッパーの三菱地所と、遠隔監視や駆付け対応はKDDIやMS&ADと、T2がそれぞれ協業して実現に向けて歩みを進めている。
「日本の国産トラック第一号はいすゞや日野など各社が集まって作り上げたという経緯がある。黎明期は何事も協力が大事だ。ましてや、物流の自動化やデジタル化など技術的に米国や中国よりも遅れを取っている今、お金も時間もかかる開発をそれぞれの会社でやるのではなく、日本のメンバーがまとまって解決すべきだ」
最後に、大切にしたい言葉を聞くと「利他」。「経営者として『無欲』はできるようになった。しかし『利他』を実践するのは難しい。私の課題だ。この会社での学びを授業だと思って、社員と共に成長していきたい」