ロジスティクス貨幣処理機器販売・情報処理サービスなどを手掛けるグローリーナスカ(東京都墨田区)とパチンコホール大手のダイナムは、全国のパチンコ店の駐車場を活用し、物流業界の課題解決を目指す「トメレル」というプラットフォーム事業の実証実験を推し進めている。グローリーナスカは運送会社とパチンコ店をマッチングさせ、特に夜間営業していない時間帯の駐車場をトラックドライバーの休憩所や中継輸送の拠点として提供している。

▲グローリーナスカの福井佳貴氏
物流課題解決へパチンコ店の駐車場を有効活用
この取り組みは2年半前から開始され、現在は主にパチンコチェーン「ダイナム」との提携により90店舗の駐車場を公開中だ。利用用途は「休息」「夜間休息」「待機」「荷物の積み替え」「中継輸送」の5つを想定しており、現在は青森県や福岡県の運送会社などが実際に利用している。
現行の暫定料金体系は1回あたり2000円から4000円程度。今後、利用時間や車両の大きさによる料金設定も検討されている。
▲パチンコ店「ダイナム」の駐車場を休憩所利用する永井運送のトラック
グローリーナスカ経営戦略統括部事業企画部の福井佳貴氏は「物流課題の解決はたくさん有るが、運ぶ人のための仕組みが全く足りていない」とし、「我々が持つパチンコ店の顧客ネットワークを活かして、トラックドライバーの労働環境改善と物流の効率化に貢献したい」と語った。実証実験の段階ではあるが、既に利用料をもらいながら本格的に運用しており、現在までのところ大きなトラブルは発生していないという。
ダイナムの経営企画部、事業開発担当リーダーである竹内敦哉氏によると、この取り組みは3年前に立ち上げたプロジェクトチームの一環としてスタート。コロナ禍で来店客が減少し、駐車場の稼働率が低下する中、遊休資産となった駐車場の有効活用を模索していた。「当社には全国に424店舗あり、1日に25万人のお客様が来店。しかし、特に夜間は店舗が閉まると広い駐車場が空いたままになるため、それを活用できないかと考えました」と竹内氏は説明する。
現在は基本的に夜間の利用を想定しているが、店舗の状況に応じて昼間の運用も試験的に行っている。特に20年前ほど前に建設された店舗は駐車場が広く取られていることが多く、日中も余裕があるケースがあるという。
地域や店舗の特性に合わせた柔軟な運用
実験は現在5店舗程度で実施しているが、各店舗の状況は地域特性によって大きく異なる。「周辺に工場があるかどうかや、産業従事者の数、天候による影響など、お客様の来店パターンは店舗ごとに全く違います」と竹内氏は語る。
そのため、グローリーナスカは物流企業からのリクエストに対して、現時点では一件一件確認しながら対応しているという。トラックの休憩・待機だけでなく、中継輸送など用途もさまざまで、使用面積や使い方も異なるため、店舗ごとに許可を取る必要がある。現在はいわば手作業でマッチングを行っているが、事業化後はシステム化、自動化を進めていくという。
物流事業者への周知については、「日本ローカルネットワークシステム協同組合連合会」を通じて1600社近くの運送事業者に案内を行っており、実際に実験で利用している傘下運送事業者が多いという。
物流業界の課題と「トメレル」が目指す解決策
物流業界では2024年4月から施行されたトラック運転手の時間外労働上限規制(いわゆる「2024年問題」)により、ドライバーの労働環境改善が喫緊の課題となっている。特に深刻なのが休憩場所の不足だ。高速道路のサービスエリアやパーキングエリアは慢性的に満車状態で、コンビニエンスストアなどの駐車場に長時間停車すると施設側や近隣住民からクレームが入るケースも多い。
トラック運送においては、トラックが荷物の積み下ろし場所や配送先の近くで待機場所を探せず、周辺を走り回ったり路上駐車したりする「荷待ち待機」の問題がある。市場や工場、港など物流の集積地では、近隣での駐車を禁止されているケースも少なくない。
「トメレル」はこうした課題に対応し、ドライバーが安心して休憩や荷物の積み替えができる場所を提供することで、業界全体の効率化を図っている。既に実証実験に参加している運送会社からは「駐車場所探しの無駄な走行と燃料コスト、所要時間が削減された」「運行計画が立てやすくなった」「ドライバーの精神的・肉体的負担が軽減された」といった高評価が寄せられている。

▲ダイナムの駐車場を中継拠点として活用するアイエヌライン(福岡兼吉富町)の2台のトラック
特に福岡県の運送会社は、静岡県袋井市のパチンコ店駐車場を中継輸送の拠点としてテスト利用し、ドライバー交替方式による日帰り運行を実現。また青森県の運送会社は宮城県仙台市の店舗を夜間休息のために毎日利用しており、ドライバーからの評価も高いという。神戸市では待機場所として活用されるケースもあり、わざわざ高速道路に乗ってサービスエリアに向かう必要がなくなったことで、コスト削減にも貢献している。
「荷主の指示で『近くのスーパーの駐車場で待機してください』と指示されて駐車場に車を止めていてトラブルになることもあります。待機の場所が見つからなければドライバーは休憩もできず、燃料も時間も無駄になっています」と福井氏は説明する。
パチンコ店の駐車場をトラックの待機場所として活用することで、こうした社会課題の解決に貢献できるとともに、パチンコ店側にとっても新たな収入源や社会貢献のPRにつながる可能性がある。

▲駐車場でトレーラーヘッドを換装するアイエヌラインの車両。ドライバー交代、積み替えなど、さまざまな活用が可能
「パチンコ店の社会貢献はあまり認知されていませんが、当社は東日本大震災の際には累計で10億円近くの寄付を行うなど、社会貢献を積極的に推進しています。『トメレル』もそうした取り組みの1つとして進めていきたい」と竹内氏は強調する。
グローリーナスカでは9月まで実証実験を続け、その結果を踏まえて本格的な事業化を検討する方針だ。同様の取り組みを進める他企業との連携も視野に入れており、将来的には予約システムの構築も目指している。ホームセンターや家電量販店など他業種への展開も可能性として検討されている。
■「トメレル」サービスページ
https://tomereru.com/
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