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IT×物流統合事例も、M&Aテーマの運びとキャラバン

2025年5月30日 (金)

ロジスティクス28日、岡山県トラック協会でLOGISTICS TODAY主催の運送業とトラックドライバーを支援する取り組み「運びとキャラバン」が開催された。

▲岡山県トラック協会を会場に開催された第3回運びとキャラバン、パネルディスカッションの様子

モデレーターであるLOGISTICS TODAY編集長・赤澤裕介とトラボックス会長・吉岡泰一郎氏による趣旨説明に続き、第1部ではフジトランスポートの松岡弘晃社長によるM&Aに関する講演が行われ、第2部ではこれまでM&Aをしたことがある、されたことがある企業代表によるパネルディスカッションが行われ、物流業界におけるM&A(企業買収・合併)戦略について、業界関係者が活発な議論を展開した。2024年問題を背景とした業界再編の必要性と、その具体的な手法について意見を交わした。

第二会社方式で急成長を遂げるフジグループ

パネリストの一人である松岡社長は、第二会社方式を活用したM&A戦略について詳しく説明した。同社は資金繰りに困窮した運送会社のトラックと従業員を引き継ぎ、事業を継続させる手法で急速な成長を遂げている。

▲フジホールディングスの松岡弘晃社長

同社のM&A成功の要因として、買収対象企業の詳細な財務分析と、買収後の統合プロセスの確立が挙げられる。「決算書、請求書、従業員リストなど基本的な情報があれば判断できる。特別な情報は必要ない」と松岡社長は語った。

ただし、金融機関以外からの多額の借入がある場合や、すべての車両をリースバック会社に依存している場合は買収を見送るケースもあるという。

IT企業と運送会社の異色のM&A

もう一つの注目事例として、IT企業Univearth(ユニバース、大阪市北区)と地元運送会社友松運輸の統合が紹介された。ユニバース代表の谷口氏は、元トレーラー運転手という異色の経歴を持つ。待機時間の多さに業界のアナログ体質を痛感し、プログラミングを独学で習得。運送業界向けのDXプラットフォーム「リフティ」を開発し、現在130社が利用している。

▲Univearthの谷口臨太郎CEO

ユニバース・谷口氏は「智商運輸はバリバリ稼いで利益も上がっている会社だった」と述べ、健全経営の会社との統合であることを強調。智商運輸の河合社長も、「27年間運送業を営んできたが、会社を売るつもりはなかった」としながらも、谷口氏の業界を変えたいという熱い思いに共感し、2年間の検討を経て統合を決断した。「IT企業と物流会社の統合は業界初ではないか」と河合社長は述べた。

▲智商運輸の河合智哉代表

河合社長は、M&Aを成功させるためには「時間をかけた関係構築が重要」と強調した。「経営者同士の温度差や考え方のすり合わせが必要。社員30人弱とその家族120人の生活がかかっているため、相手を見定める時間は長ければ長い方がよい」と語った。

一方、谷口氏は全従業員の家族を招いたパーティーを開催し、直接説明する機会を設けるなど、丁寧なコミュニケーションを心がけたという。

業界再編の必要性と課題

パネルディスカッションでは、物流業界全体の構造改革の必要性についても議論された。中小零細企業が圧倒的多数を占める業界構造において、地域ごとの運送会社統合による競争力強化が急務とされた。

松岡社長は「地域ごとに同じ業態の運送会社が合併していく流れは今後も進むだろう」との見通しを示した。また、運行管理の高度化・一元化が法的に可能になることで、複数の運送会社が機能を統合する新たな事業形態も期待される。

物流スタートアップアドバイザーの武田優人氏は、「売る側も買う側も、いつでも売買できる準備をしておくことが重要。選択肢を持つことで経営の幅が広がる」と指摘し、「そのためにも、各種データを提示しやすい形に整えやすい、業務のデジタル化を進めておくべき」とDX導入の重要性を指摘した。

▲武田優人氏

谷口氏も「M&Aなどによる経営統合までしなくとも、協業関係にある運送業者同士のデータ連係は仕事をしやすくするはず。そうした効率化、利便性の向上を意識してシステム開発を行ってきたが、これからも中小の運送業者が協業できるようなシステム作りを続けたい」と、後押しする見解を示した。

2024年問題だけでなく、労働人口の減少などの影響で、輸送力の低下が懸念されている今。特に地方での隅々まで物流を行き渡らせることの難易度はますます上がっている。中山間地では輸送ルートがなくなることで、農産物の産地自体が消え始めている地域もある。これからの地方の物流を維持し、より協力にしていくためには、M&Aによって運送業の経営統合が進むのは必須だろう。またそれと同じくらい、同じ地域の運送業者が協業していけるような環境づくりが欠かせない。いつでもM&Aする・されることができると同時に、ほかの事業者と連携できるためのシステム導入とデータの整備は、これからの運送業に欠かせないソリューションだと言える。

▲運びとキャラバンでモデレーターを務めるトラボックス会長・吉岡泰一郎氏(右)とLOGISTICS TODAY編集長・赤澤裕介

運びとキャラバンとは?

「運びと地位向上全国キャラバン2025(運びとキャラバン25)」は、LOGISTICS TODAYが4月8日から大阪で開始した、トラック輸送業界およびドライバー支援を目的とした全国規模の取り組み。

【背景】
・2024年問題と残業規制強化
運送業界は、過重労働規制の強化や燃油費の高騰、管理コスト増加などにより、中小事業者の経営が厳しい状況。
・業界再編の影響
国内約6万3000社の運送業者が、将来的に約4万社まで減る可能性があり、ドライバーが他の業種に流れる問題も深刻化している。

【目的】
本キャラバンは、悪質事業者の淘汰や業界再編が進む中、実際に運送に携わっているドライバーの待遇改善や地位向上を目指す。全国各地で開催される勉強会や交流会を通じ、業界全体の底上げと未来への活力創出に貢献する取り組み。

<これまでの開催概要>

■第1回(大阪、クローズド開催)
全日本トラック協会副会長、平島竜二氏が多重下請構造が生まれる原因は、求荷求車マッチングサービスにあるのではないかとの持論を展開。これに対し、求荷求車マッチングサービス「トラボックス」の吉岡泰一郎氏が、「トラボックスは、サービス内で受けた仕事をそのままサービス内で求車するようなユーザーは排除している。業界の健全化こそがサービスの継続にもつながると考えており、ドライバーや運送業者の利益や権利をないがしろにすることはない」と応酬。それぞれの立場で運送業の発展、健全化を目指していくことで意見の一致を見た。

■第2回(東京、クローズド開催)
国内初の特定技能外国人ドライバーとなった周鴻澤氏と、周氏を採用したアサヒロジスティクスの人財本部本部長の高橋寛氏が登壇。業界が注目する特定技能外国人ドライバー採用のリアルを聞いた。会場には、周氏の就職を仲介した人材サービス事業者スタッフも参加。採用スケジュールやコストなどについての説明に、来場した運送業者が熱心に耳を傾けた。

※過去の第1、2回はクローズド開催。業界にとって有益な情報提供の機会となるとの判断から、第3回はオープン開催となった。

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LOGISTICS TODAY編集部
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