ロジスティクス28日、岡山県トラック協会でLOGISTICS TODAY主催の運送業とトラックドライバーを支援する取り組み「運びとキャラバン」が開催された。

▲フジホールディングスの松岡弘晃社長
同キャラバンでは毎回テーマを設定して勉強会、トークセッションが行われるが、今回のテーマは「M&A」。2024年問題を機に経営の見直しが必要となる運送業が増え、それとともにM&Aは増加傾向。さらに、同キャラバン開催直前には事業更新制を含むトラック新法が参院を通過。物流・運送業界の健全化が期待される一方、コンプライアンスにもとる企業は事業継続が難しくなり、倒産、経営統合などもさらに増えると見られる。こうした局面で「M&Aする」「M&Aされる」ためにはどう立ち回るべきなのか。成長戦略としてM&Aを積極的に推し進めるフジホールディングスの松岡弘晃氏を招き、M&Aのリアルな現場と、注目の手法である「第二会社方式」について聞いた。
運送業界で深刻化する経営難企業の救済手法として、「第2会社方式」が注目を集めている。この手法を積極的に活用しているフジホールディングス(本社・奈良県)の松岡弘明代表取締役社長が、経営者向けセミナーで実践事例を紹介した。
フジHD急成長の背景に「第二会社方式」
同社は北海道から鹿児島まで142拠点、トラック3000台超、従業員3500名超の規模を誇る。しかし、松岡氏が2001年に経営を引き継いだ当時は奈良県内のみでトラック30台程度の地方企業だったという。それが、グループ売上高は昨年590億円から今年は730億円規模まで急伸。この成長を後押ししているのが、同社の積極的なM&Aだが、それをさらに加速させているのが「第二会社方式」という手法だという。
第二会社方式とは、経営難企業の株式を丸ごと買収するのではなく、必要な資産(トラック、人材、取引先)のみを選別して引き継ぐ事業譲渡の一形態。
従来のM&Aと異なり、買収側は不要な負債や問題のある従業員、不採算取引先を引き継ぐ必要がない。売却側も全国銀行協会のガイドラインを活用することで、経営者の個人保証を外し、自己破産を回避できる可能性がある。
松岡社長は「10人の従業員がいても、8人は採用するが問題のある2人は採用しない選択ができる。取引先も同様に選別可能だ」と説明する。
同氏は「これから運送会社の倒産・廃業が増加すると予想される」とし、「しかし、第2会社方式を活用すれば『ハッピーエンド』な事業承継が可能だ。夜逃げや経営者の自殺といった不幸な結末を避けられる」と業界への普及に期待を示した。
一般に、事業が継続できなくなると破産し、その後の人生がままならないということは少なくなく、そうしたイメージを持たれがちだ。しかし、第二会社方式であれば、経営者は自己破産することなく生活が続けられ、従業員も同様の仕事を継続することができる。松岡氏は、事業が継続できなくなりはしても車両や倉庫、ドライバーなどの従業員といった資産を持った運送業者を、積極的に引き受けていく事業者が増えることを望んでいるという。
また、同氏は経営難に陥った運送会社の経営者は、信頼できる弁護士や同業他社に相談し、全国銀行協会のホームページで詳細な手続きを確認することを推奨。「物流企業、運送業のM&Aを『やったことがある』くらいの経験値では、運送業ならではの事情に合わせたM&Aは難しい。物流業、運送業に特化し、業界を熟知したコンサルタントを活用してほしい」と強調した。
一点気を付けなければならないのが、第二会社方式では会社法人自体を譲受することはできないということだ。事業を引き継ぐためには、同じエリアに自社が拠点を持っており、そこに各種資産を移転する必要がある。この点、フジホールディングスは沖縄を除く全国に拠点を持っているため、それぞれの地域の事業者からの試算を引き受けることが可能となっている。幹線輸送や中継輸送の拠点が欲しいからといっても、遠隔地の企業を同方式でM&Aすることはできないので留意が必要だ。
M&Aで実現した「ローコスト戦略」
同社がM&Aで成功している背景には、20年以上にわたって構築してきたローコスト戦略がある。これまでそこそこの利益が上がっていた会社であっても、同社の傘下で徹底したコストの見直しをすることで、さらに利益率を向上させている。

▲フジホールディングスがM&Aしてきた企業は物流・運送業のみならず、メンテナンス、燃料、システムなど多岐に渡る
また、同社グループは全国28か所の自社整備工場を持つほか、自家給油所など、本来であれば外部にコストを垂れ流す要素をグループ内に取り込んできている。それにより、燃料代であれば、年間3-4億円のコスト削減を実現。整備工場では外部委託時の半額以下でトラック車検を実施している。
「請求書を見て『この金額は馬鹿らしい』と思ったら、自分たちでやればいい。タイヤ交換、レッカー作業も内製化している」と同氏は強調する。こうした、各種サービスの内製化を可能にするのも、M&Aの効果の1つといえる。
「M&Aしたあとに何をするか」が肝心
松岡氏によると、成功のカギは買収後のケアにある。「見ず知らずの会社の一部になってしまい、M&Aされた方の会社の社員は不安を感じて当たり前」という松岡氏は、買収した会社の全従業員と個人面談を実施し、LINEを交換。BBQなどの懇親会を通じて不安解消に努めている。
一般にM&Aの成功率は36%程度だと言われている。3分の2は失敗に終わる中で着実に成果を上げていくためには、効果的、効率的な手法をとり、事後には利益のある環境づくりと、コスト意識のある経営が必要と言える。

▲運びとキャラバンでモデレーターを務めるトラボックス会長・吉岡泰一郎氏(右)とLOGISTICS TODAY編集長・赤澤裕介
運びとキャラバンとは?
「運びと地位向上全国キャラバン2025(運びとキャラバン25)」は、LOGISTICS TODAYが4月8日から大阪で開始した、トラック輸送業界およびドライバー支援を目的とした全国規模の取り組み。
【背景】
・2024年問題と残業規制強化
運送業界は、過重労働規制の強化や燃油費の高騰、管理コスト増加などにより、中小事業者の経営が厳しい状況。
・業界再編の影響
国内約6万3000社の運送業者が、将来的に約4万社まで減る可能性があり、ドライバーが他の業種に流れる問題も深刻化している。
【目的】
本キャラバンは、悪質事業者の淘汰や業界再編が進む中、実際に運送に携わっているドライバーの待遇改善や地位向上を目指す。全国各地で開催される勉強会や交流会を通じ、業界全体の底上げと未来への活力創出に貢献する取り組み。
<これまでの開催概要>
■第1回(大阪、クローズド開催)
全日本トラック協会副会長、平島竜二氏が多重下請構造が生まれる原因は、求荷求車マッチングサービスにあるのではないかとの持論を展開。これに対し、求荷求車マッチングサービス「トラボックス」の吉岡泰一郎氏が、「トラボックスは、サービス内で受けた仕事をそのままサービス内で求車するようなユーザーは排除している。業界の健全化こそがサービスの継続にもつながると考えており、ドライバーや運送業者の利益や権利をないがしろにすることはない」と応酬。それぞれの立場で運送業の発展、健全化を目指していくことで意見の一致を見た。
■第2回(東京、クローズド開催)
国内初の特定技能外国人ドライバーとなった周鴻澤氏と、周氏を採用したアサヒロジスティクスの人財本部本部長の高橋寛氏が登壇。業界が注目する特定技能外国人ドライバー採用のリアルを聞いた。会場には、周氏の就職を仲介した人材サービス事業者スタッフも参加。採用スケジュールやコストなどについての説明に、来場した運送業者が熱心に耳を傾けた。
※過去の第1、2回はクローズド開催。業界にとって有益な情報提供の機会となるとの判断から、第3回はオープン開催となった。