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ヤマト運輸、クール便常温仕分けで再発防止策

2013年11月28日 (木)

話題ヤマト運輸は28日、常温下でクール宅急便の仕分けが行われていた問題を受け、全国3924拠点と主管支店70か所の温度管理状況の調査結果と再発防止策を公表した。調査の結果、仕分けルールが徹底できていない拠点が253か所(全体の6.4%)あることが判明。顧客28人から「過去にクール宅急便を利用し、体調不良になったことがある」との申し出が合ったことも明らかにした。

調査結果を受け、同社は「品質を持続的に維持、向上していくための人材の配置と体制づくり」「クール宅急便の取扱量増加に対応するための体制強化」「品質を維持するための定期的なモニタリングと、ルールの見直し」「クール宅急便の総量管理制度の導入」の4点を中心とした再発防止策をまとめたほか、社長ら役員6人の月額報酬を6か月間5-10%減額する処分を行った。

■顧客28人から「クール宅急便で体調不良」の訴え
10月25日の報道を受け、全拠点に運用ルールの徹底を指示するとともに、電話による緊急聴き取り調査を行ったところ、「仕分けルールが徹底できていない」拠点が200か所あることが判明。これを受けて同社では、社長を総括本部長とし、各担当の役員、部・課長と労働組合幹部で構成し、西綜合法律事務所をアドバイザーとする「クール品質改善対策本部」を設置。さらに詳細な調査を実施し、原因究明を行うとともに、その調査結果をもとに再発防止策を検討した。

クール品質改善対策本部は、実態をより正確に把握するため、全国3924の拠点、70の主管支店を対象にクール宅急便の集荷、幹線輸送、仕分け、配達に至る全工程の温度管理ルールの順守状況を調査、再点検するため、10月26日から11月15日の間、グループ面談や拠点への訪問、電話による詳細な聴き取り調査を行った。11月7-10日には全国10の支社で、役員が拠点、主管支店の責任者、労働組合の地域支部役員から直接、事情や意見を聴取する機会を設けた。

さらに、食品衛生の観点から、クール宅急便の集荷から配達までの全工程での温度管理ルールを客観的に評価するため、外気温による品温の影響、第三者機関(東京家政大学・藤井建夫教授)に調査を依頼した。

10月25日以降、28人の顧客から「過去にクール宅急便を利用し、体調不良になったことがある」との申し出があり、体調不良を含む苦情に個別対応しているが、これまでのところ、10月25日以前の期間も含め「因果関係が明らかになった健康被害はない」という。

■ルール不徹底拠点は全体の6.4%
同社では、クール宅急便の仕分けについて「各コールドボックス(運搬用の冷凍・冷蔵庫)からの荷物の取り出しを5分以内に完了させる。その後、荷物を車載保冷スペースに積み込むまで、荷物を30秒以上、外気にふれさせない」という仕分けルールを設けているが、再調査の結果、徹底できていなかった拠点が253か所(全体の6.4%)あることが分かった。

また、「仕分けルールは徹底できていたが、荷物が急増した7月の繁忙期に、仕分けルールが守れないことが一度でもあった」という拠点は1269か所(全体の32.3%)に上った。

仕分けルールが徹底できていない主な原因は「仕分けルールの周知と教育が不十分だった」「配達のエリアや、順序を考えて積み込むため時間がかかった」「凍結した伝票の引き抜きに時間がかかった」といったものが多く、繁忙期に仕分けルールが守れないことが一度でもあった拠点の主因は、「一時的に仕分け用の資材・機材が不足した」「配達のエリアや、順序を考えて積み込むため時間がかかった」「凍結した伝票の引き抜きに時間がかかった」ことなどだった。

「車載保冷スペース以外への持ち出しは、クールコンテナを使用する。配達先へはコールドバックで届ける」という配達ルールについては、全体の13%が徹底できていなかった。また、荷物の急増した7月の繁忙期に、配達ルールが守れないことが一度でもあったというケースでは、7月の繁忙期のうち35.4%で徹底できていなかった。

配達ルールが徹底できていない主な原因は「配達先がすぐ近くなので、コールドバックを使用しなかった」「時間帯指定配達の集中や、複数口の荷物が車載保冷スペースに入りきれなかった」「サイズオーバー(120サイズ超)の荷物が車載保冷スペースに入らなかった」といったものがあり、繁忙期のルール不徹底のケースでは、「車載用のクールコンテナなどの資材が不足した」「車載保冷スペースが満載になった場合の配達ルールが徹底できていなかった」などだった。

外気温による品温への影響検証を依頼した東京家政大学の藤井建夫教授によると、外気温15度、20度、35度の「輸送中の品温変化」は、梱包形態や予冷の有無など条件の下で実験・調査した結果、品温が上昇を始める時間は「外気温35度の環境下で、冷蔵品(10度以下)の場合は15分後から、冷凍品(-5度以下)の場合は17分後から」であることが分かった。

藤井教授は「3種類の食材(野菜、魚、肉)、クール宅急便の実輸送工程を模した環境、外気温接触環境での試験結果を総合的に判断すると、ヤマト運輸の温度管理社内ルールは食品の品質・食品衛生上の観点から見て厳しく温度管理されている。食中毒菌のほとんどは至適増殖温度が37度前後の中湿菌で10度以下になると増殖できないものが多いことから、輸送過程での食中毒菌の増殖は考えにくく、従って輸送による直接的な人的影響は少ないと言える」と評価した。

■品質指導長職を新設、157人任命し全国に配置
これらのルール不徹底について、同社は「各拠点にルールを周知・徹底し、正しい運用を促すための指導者が不在で、ルールの運用が拠点任せになっていた」「業務量が増加する中、ルールの徹底と拠点の負荷の軽減を両立するための日常の点検、システムの導入、モニタリングなど、サービス品質を持続的に維持するための仕組みが不十分だった」「特に繁忙期での抜本的な対策の検討が不十分だった」「顧客の視点に立ち、拠点の声に耳を傾け、常に改善に取り組む姿勢が不十分だった」の4点が原因だと分析。

原因分析を踏まえこの、本社に「クール宅急便品質管理対策推進室」を設置したほか、主管支店長の下に、品質に特化した専任者として「品質指導長」職を新設し、157人を12月1日付で全国に配置することを決めた。

品質指導長は拠点を巡回し、仕分け、配達ルールの周知・徹底・指導、機材・資材の充足状況の点検を担当するとともに、社員とのコミュニケーションを円滑化し、サービス品質の維持、向上に向けた拠点からの提案が、確実に支店長、主管支店長、本社に共有される体制を整える。報告内容はクール宅急便品質管理対策推進室が、労働組合と連携しながら検討し、改善策や好事例を速やかに全社に展開する。

さらに、全拠点に「クール宅急便作業リーダー」を任命し、品質指導長と連携しながらクール宅急便のルールの周知、徹底と、日々の作業の適切な運営を行う。

また、クール宅急便の仕分け、集荷・配達ルール、拠点管理職7500人を対象とした研修と、全拠点の社員を対象としたDVDの閲覧による教育を完了した。今後は新人に対しても閲覧による教育を義務付け、作業マニュアルも作業員の意見を反映し、よりわかりやすい内容にするため適宜、改訂を行うこととした。

■取扱量増加対策としてモニタリング強化、作業の自動化・簡素化を拡大
クール宅急便の取扱量の増加に対応するための体制強化としては、拠点がクール宅急便の到着量を事前に端末で見ることができるようにし、受け入れ体制を整えやすくする「到着量見える化」システムを開発、導入する。全社的にも荷物の流動量や流動エリアの「見える化」を推進し、荷物の流動量の予測に基づく、的確な体制強化を図る。また、取扱量の増加に備えるため、可変式の車載保冷スペースを装備した新車両の開発、導入を進め、古い機材・資材は順次、新しい機材・資材に取り替える。

品質指導長による日常のモニタリングに加え、客観的なデータや根拠に基づく恒常的な改善に取り組むため、拠点の仕分けエリアへモニターカメラ3061台を設置するとともに、民間の調査会社など第三者による定期的な立ち入り調査を年間1000件、輸送中の温度を計測する温度ロガーによる定期的なモニタリングを月間800件行う。モニタリングの結果を踏まえ、時代や環境に適したルール作りを検討するとともに、ルールの不徹底が人員に起因する場合には、必要な教育、啓蒙、社内処分を行う。

拠点においては、クール宅急便の伝票の引き抜き作業をポータブルポスで自動化し、特に冷凍品の仕分け作業工程を簡素化。聴き取り調査や視察の結果をふまえ、現行のルールを踏襲しながら、より作業しやすい内容にルールを見直す。仕分けは「各コールドボックスからの荷物の取り出しを5分以内に完了させる。荷物はクールコンテナに配達エリアごとに積み込み、荷物が30秒以上、外気にふれないように一次仕分けを完了する。その後、車載保冷スペースに積み込む。その際も荷物を30秒以上、外気にふれさせない」とのルールに変更。

集荷・配達ルールについては「車載保冷スペース以外での荷物の持ち出しは、クールコンテナを使用する。複数の軒先に届ける場合は、コールドバックやコールドシートなどで届ける」とする。

顧客に対しては、「必ず予冷が必要であること」「指定日配達ができないこと」「荷物のサイズに制限があること」「アイスクリームやバターなど、管理温度が-15度以下の商品の輸送には、ドライアイスを入れた梱包をお願いしていること」「輸送中は短時間、外気にふれること」など、商品の内容を理解してもらうよう周知徹底を図る。

■総量管理制度を導入、適切な引受け量を調整
このほか、新たな取り組みとしてクール宅急便「総量管理制度」を導入する。サービス品質の維持を最優先するため、特に繁忙期のクール宅急便の一日ごとの取り扱い可能総量を事前に見極め、総量の範囲内で荷物を引き受ける総量管理制度の具体的な検討を開始し、来年7月までの導入を目指す。

12月の繁忙期対策として、車載保冷スペースの不足を補う「クールコンテナ」4万3291本や、荷物の急増に対応するための予備資材をすべての拠点に配備した。また、「到着量見える化」システムのうち、「複数口」の機能について、年末に急増が予想される「おせち」で部分的に運用を開始する。これにより到着数量に合わせた人員、機材・資材の配置、外部の保冷輸送会社との連携も含めた輸送モードのコントロールを行う。

「既存の顧客の荷物の品質管理に万全を期す」ため、年内いっぱいはクール宅急便の大量のスポット利用を断る判断もあり得るという。拠点に役員が出向き、気楽にまじめな話をする場として「オフサイトミーティング」を定期的に開催し、拠点とのコミュニケーションを緊密化するとともに、グループネットワークの進化による各拠点の作業の軽減や作業時間の分散化を進める。