ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

公取委・中小企業庁が企業取引研究会を始動

価格転嫁と多重下請け是正に本腰

2025年8月13日 (水)

ロジスティクス公正取引委員会と中小企業庁はことし7月下旬に「企業取引研究会」を開催した。今回が2025年度の第1回目の会合となる。研究会では、価格転嫁の商慣習化や下請取引の適正化、物流分野における多重下請け構造の是正を主要テーマに掲げ、改正法の施行を見据えた議論を本格的にスタートした。同研究会は24年度から継続しており、今年度は特に、改正法の現場定着と制度運用の具体化が焦点となる。

低い労務費転嫁率、物流業界ではさらに深刻

国内の取引現場には、依然として価格据え置きやコスト負担の押し付け、長時間の荷待ちや無償荷役などの慣行が残っている。トラック運送市場では、荷主や元請けと実運送事業者の間に複数の事業者が介在し、運賃が中間マージンで目減りする多重下請け構造が定着。このため、末端の実運送事業者は十分な収益を得られず、賃上げ原資の確保が困難な状況が続く。

公正取引委員会の24年度調査によれば、労務費の価格転嫁率は47%にとどまり、原材料費(73%)やエネルギーコスト(64%)を大きく下回る。

特に物流業界ではこの傾向が顕著で、構造的な賃上げの実現は依然として遠い。加えて、24年問題による時間外労働規制の影響で、長距離輸送の稼働可能時間は月60時間程度減少。国土交通省の試算では輸送能力が14%低下するとされ、運賃水準の維持や引き上げは一層困難な情勢だ。

川上から川下まで、労務費転嫁は依然低迷。物流分野の厳しさが際立つ(クリックして拡大)

実運送事業者の手元に残る運賃は、元請契約額の6-7割程度まで目減りするケースも少なくなく、標準的運賃の確保は依然として容易ではない。加えて、長時間の荷待ちは1運行あたり平均60-90分に及び、無償荷役も常態化している。こうした二重の負担が人件費を押し上げ、人材確保の難しさや離職率の上昇に拍車をかけている。

製造業や建設業を下回る物流の転嫁率。要請しても価格に反映されにくい現実(クリックして拡大)

24年度の企業取引研究会では、価格転嫁の商慣習化と多重下請け構造の是正を軸に、幅広い業種からのヒアリングや実態調査を実施した。

調査の結果、物流分野では運賃の目減りや荷待ち・無償荷役の常態化、標準的運賃の普及停滞など、構造的な課題が改めて明らかになった。こうした不適正取引の問題は物流業界にとどまらず、製造業や建設業など他業種にも共通して見られ、発注者による一方的な減額や支払遅延、仕様変更の押し付けといった事例が確認された。

改正下請法(取適法)の概要整理。運送委託取引の対象追加や罰則強化、契約条件の透明化など、改正の柱がまとめられている
(クリックして拡大)

制度定着の鍵は現場の行動変容

24年度の議論を踏まえ、ことし5月には改正中小受託取引適正化法(取適法)が成立した。この改正により、取引適正化を図るための規制や運用の枠組みが強化され、実効性を高める制度が整った。

改正の柱は3つある。まず、運送委託取引を下請法の適用対象に追加し、物流分野の不適正取引を直接規制できるようにした。次に、違反行為の抑止力を高めるため、罰則や命令制度を新設し、実効性を担保する仕組みを整備した。さらに、契約条件や支払条件の透明化を進めるため、業種ごとのガイドライン整備を促進した。物流現場では、これにより価格据え置き取引の是正、契約条件の明確化、再委託構造の適正化が期待される。

改正法の施行は26年1月予定で、それまでに省令や指針、業界ごとのガイドラインが策定される見込みだ。

一方的な減額や荷待ち強要も該当。優越的地位の濫用は3要件を満たすと違法に

25年度の研究会は、改正法施行を見据えた制度の具体化と現場定着がテーマとなる。物流分野では、標準的運賃の普及促進、再委託構造の縮減、荷待ち・無償荷役削減などの取り組み状況を継続的にモニタリング。必要に応じて追加の改善策やガイドライン改訂も視野に入れる。また、製造・サービスを含む幅広い業種で価格転嫁の実効性を高めるため、交渉プロセスの可視化や契約書面化の徹底など、現場運用レベルの改善策が議題となる見込みだ。

違反の芽を早期に摘み取るための監視・指導体制や、荷主・発注者側の意識改革も欠かせない。制度改正はゴールではなくスタートである。現場の行動変容をいかに促し、持続的な改善につなげるか。今年度の議論は、その実行力が問われる一年となりそうだ。

LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。

ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。