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EC冷凍ケーキのEC(電子商取引)販売を軸に急成長を遂げてきたCake.jp(ケーキジェーピー、東京都新宿区)が、今次なる事業拡大への転換点を迎えている。広報・CRM部の部長、野崎有希氏は、同社事業の原点となる「インターネットの力で業界課題を変えられるはず」との信念が、洋菓子業界の構造的な非効率に正面から挑み、バリューチェーン全体を更新する段階に入ったと語る。
国内最大スイーツEC、だからこそ取り組む業界革新
Cake.jpは、2009年に前進となるギフト関連EC事業から起業し、17年からケーキ・スイーツに特化したECサイト「Cake.jp」を展開して、現在は会員数200万人、加盟1700超、商品数8000点超へと拡大している。同プラットフォームには、コロナ禍で普及した冷凍ケーキを主軸に、大手有名メーカーから町の老舗店舗まで多彩な洋菓子店・和菓子店が出店し、「アレルギー対応」「タイムセール品」「誕生日」「お急ぎ便」など多様なカテゴリーからお気に入りのスイーツを気軽にオーダーできる。野崎氏は、「店頭販売だけではなく、EC販売という選択肢を用意することで、スイーツ業界特有の課題解決に取り組んできた」と語る。
スイーツ業界特有の課題となにか。まず、需要が読めない店舗販売で廃棄ロスが課題となり、一方でパティシエや店舗を開けておくスタッフの労働時間を減らすこともできないことがあげられる。
「ECなら製造計画と在庫の可視化で、菓子製造現場の無理を減らすことも可能。ECという選択肢があることで、在庫管理や原価率の問題で無難なケーキ作りに陥りがちな、製造現場も改革できる」と野崎氏はいう。最大公約数的な商品ではなく、ユーザーの感性に刺さるようなスイーツの提供を後押しし、また、同社独自の梱包材開発・提供などで輸送時の品質事故を抑え、時間通りに、製造者の思いが込められた“感動を届ける”体制を磨いてきた。
「登録会員をベースとした集客、マーケティング支援、ユーザーからの問い合わせ対応など、町のケーキ屋さん単位では難しかった領域を私たちがサポートすることで、より本業のスイーツ製造に集中してもらえるはず。店舗にとっても消費者にとっても理想的なスイーツ業界の改革をお手伝いしたい」(野崎氏)と語る。スイーツ業界に特化したオンリーワンのサービスを手がけているからこそ、業界の課題解決は同社に課せられた使命でもあるのだ。
スイーツ業界の衰退招くアナログ課題、DX進まぬ現状
EC需要の増加に伴い、スイーツ業界ならではの古い体質も浮き彫りになる。大多数の現場はいまもエクセルやファクス中心の運用で、賞味期限や在庫の出し分けも手作業に依存している状況だと野崎氏は指摘する。拡大するEC対応だけではなく、同社が現在新たに注力している「卸販売」と「店舗DX」の2領域においても、スイーツ業界全体のアナログ運用からの脱却、DX(デジタルトランスフォーメーション)は喫緊の課題だ。原材料高騰なども経営を圧迫し続けているだけに、スイーツ事業の持続的成長においては、これまでの当たり前を見直すことが前提となる。

▲人気商品のひとつ「名作絵本のクッキー缶セレクション」(出所:Cake.jp)
同社の卸事業における展開は、百貨店や駅ナカ土産売場、空港などへのリアル販路に向けて、人気アニメやキャラクターとコラボレーションしたIPコンテンツによる訴求力の強化など視認性と企画性の高い常温スイーツを中心に展開している。冷凍ケーキ中心のECとは物流要件も価格帯もまったく異なる最適化が必要となる。「ECと卸で異なる運用の両立には、企画開発から販促まで個別に最適化する高いオペレーション力が求められ、これまでのアナログ運用では限界、DXは必須」(野崎氏)だ。
しかし、スイーツ物流専門のソフトウエアと呼べるものがこれまでなかったのは、それだけスイーツ領域の商品管理が複雑だという証明でもある。またそのシステムを倉庫と一体運用できるようなスイーツ取り扱いに適した環境が存在しないことも、この業界のDXが進まない原因となっていた。
関通との資本提携で実現する「スイーツ物流」改革
同社が発表した関通との資本業務提携は、こうした物流業界のDXと新たなスイーツ物流基盤の構築を実現するものだ。同社は関通との提携において、スイーツ業界改革の“2本柱”を明示する。
1本目の柱は、関通が新しく開発したWMS(倉庫管理システム)「トーマス for Sweets」である。Cake.jpの知見を取り入れ、スイーツ業界向けに最適化された在庫・ロット・賞味期限管理機能を搭載し、冷凍・冷蔵・常温すべてに対応した洋菓子企業専用のWMSであり、これまでのアナログ運用から、実効性のあるデータ運用へと置き換えるゲームチェンジャーと呼べるものだ。
「トーマス for Sweetsの導入支援、運用サポートを展開して業界のデータ経営を推し進めることで、在庫・出荷のリアルタイムの可視化、Cake.jpの販売データと連動した新たな事業へとつなげることも可能」(野崎氏)となる。加盟菓子店は製造に集中できる体制を構築でき、Cake.jp側では販売動向の可視化や在庫調整、セール提案など、攻めのマーケティング支援も可能になる。さらには、非加盟店へのソリューション提供も想定しており、スイーツ業界DXの“デファクトスタンダード”となるWMSとしての確立も視野に入れる。
野崎氏は、スイーツ物流最適化のツールを導入から運用まで一気通貫で支援し、これまでの当たり前を見直すような、菓子事業者それぞれの取り組みを広げていきたいと語る。
自社フルフィルメントセンター稼働で、新たな事業フェーズ突入
関通との提携によるスイーツ物流の構築は、さらに2本目の柱を用意する。26年8月をめどに、スイーツ専用の自社フルフィルメントセンターとして「Cake.jp Sweets BASE(スイーツベース)」を稼働させる予定だ。
これは、従来は加盟店の作業となっていた物流領域に関しても、Cake.jpの自社センターで受託する機能を整えるという、同社事業にとっての大転換点となる計画である。野崎氏は、「EC取扱量の拡大に伴い、冷凍設備とその設置スペース不足、人的リソースは限界」だと指摘。toCとtoB向け物流の両立など、スイーツ物流管理がより複雑化してアウトソースニーズが顕在化しており、施設運営の知見を持つ関通との連携だからこそ、具体化できた計画と語る。
同センターでは、冷凍・冷蔵・常温といった異なる温度帯に対応しながら、販路別(EC・卸・店頭)に最適な出荷体制を構築。どれだけEC需要が拡大しても、事業者ごとの出荷対応がボトルネックとなっては事業成長やサプライチェーン全体での改革は成功しない。受注・出荷・在庫までCake.jpが一元管理する体制を整えることで、業界全体を次の成長へと引き上げる基盤ともなるだろう。
25年の冷凍デザート市場規模は1兆円規模とされ、今後も年平均7.75%の高い成長率が予測されている。“スイーツベース”は、その名の通り、急成長するスイーツ事業に関わるあらゆる事業を最前線で支援する基地として、将来的には自社加盟店のみならず、外部企業へのサービス提供も視野に入れる。Cake.jpと関通の提携によって、スイーツ業界全体の物流ハブとしての役割を担う「業界共通インフラ」への道すじも見えてきた。野崎氏は、今年度の展開として、まずはトーマス for Sweetsの導入10社以上、Cake.jp Sweets BASEの本格稼働に向けた準備を進めるという。
目指すは「スイーツの総合商社」、頼れる業界の相談窓口に
物流までをも含めた新たな事業領域への拡大に向かう同社は、いまを“第二創業期”と定義する。サプライチェーン全域の最適化が社会的な要請となるなか、同社は原材料の共同購入によるコスト圧縮など調達領域の効率化や、M&Aによる事業承継やブランド再生のマッチングにも踏み込む。野崎氏の「良いブランドが埋もれず、適切な価格で届く循環をつくりたい」との言葉は、自身がこれまでスイーツで得た感動を、同じようにスイーツを愛する多くのユーザーと共有したいという思いの表れでもあり、それこそが同社の成長の原動力といえる。目指すのは、「単なるECモールではなく、業界の課題解決パートナーとして、いつでも相談してもらえるような『スイーツの総合商社』になること」(野崎氏)だ。
スイーツを通した感動体験を、無理なく届けられる仕組みに変えるには、提供する側の環境改善と、受け取る側が納得するような品質向上とが連動する業界構造が必要であり、同社が見据えるのは、まさに、スイーツ物流を確立して、体験価値と業界のあり方を同時に更新する試みともいえるだろう。その歩みは確実に、スイーツ業界の未来に吹く新しい風となり、これまでの慣例を吹き飛ばすまでに勢いを増しているように感じる。

▲Cake.jp広報・CRM部部長の野崎有希氏
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