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ブルーカラーの地位向上へ、AI時代が追い風に

2025年10月10日 (金)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「AIによる代替不安がキャリアに影響、X Mile調査」(10月6日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

調査・データX Mile(クロスマイル、東京都新宿区)が実施した「オフィス職・現場職1000人調査」によると、オフィス職の7割が「条件次第で現場職への転職もあり得る」と回答した。デジタル化やAI(人工知能)の急速な浸透が進むなか、従来「ブルーカラー」と呼ばれてきた現場職に新たな光が当たりつつある。

同社によると今回、オフィス職と現場職の考え方を比較する調査を企画した背景には、ノンデスク産業全体の待遇改善の兆しと、ホワイトカラー領域のAI不安があるという。調査を企画した同社の鈴木しほ氏は、今回の調査の背景について「近年、ノンデスク産業では待遇改善の兆しが見られる。米国では大型トラックドライバーの年収が日本円にして1000万円を超えるケースが出ており、慢性的な人手不足により建設などほかの領域でも賃金上昇が進んでいる」と語る。実際、国内でも客運など一部の分野で、ホワイトカラーから転職して待遇を大幅に改善した事例が当社の職業紹介でも見られるようになってきている。

さらに同氏は、ホワイトカラー層の間で高まるAI不安についても指摘する。「特にこの2年ほど、米国ではホワイトカラー領域での人余りやレイオフに伴うAI不安が取り沙汰されている。こうした動きから、ノンデスク産業が今、ほかの領域に従事する人にとって魅力的な選択肢の一つになり得るのではないかという仮説を立てた」

同社はノンデスク領域向けの人材サービス「クロスワーク」や物流向けDX「ロジポケ」などを展開しており、これまで、主にノンデスク産業の従事者に焦点を当てた調査を行ってきている。今回は視野を広げ、他産業からの移行層にも注目。「これまで当社は、すでにノンデスク産業に従事している人々を対象に調査を行ってきた。しかし国内外の動きや自社事例を踏まえると、ほかの産業から転じてくる人々にも目を向けることで、ノンデスク産業の新たな姿や、あるべき方向性のヒントが得られると考えた」(鈴木氏)

▲「あなたが日常的に行っている業務は、いずれAIで代替されると思いますか?」という問いへの回答(出所:X Mile)

調査では、自分の仕事がAIに代替されると考える度合いが高いほど、「現場職も選択肢に入る」と答える傾向が顕著だった。AIによる代替を「ほぼされない」と見ている層では転向可能とする人が45%にとどまるのに対し、「ほぼ全て代替される」と答えた層では実に94%が現場職を容認している。AIによる業務代替リスクを自覚するほど、より「人間にしかできない仕事」を志向する傾向が明確に表れた。

一方で、現場職側では「自分の仕事はAIに代替されない」と考える人が過半数を占めた。オフィス職の多くがAIを脅威として受け止めるのに対し、現場職はそのリスクを実感していない。作業現場での判断力や経験値といった“人の要素”が依然として不可欠であるとの自己認識が背景にある。

「条件次第で現場職に転向してもよい」と回答したオフィス職482人に対し、具体的な条件を尋ねたところ、最も多かったのは「休日や勤務時間が改善されるなら」(37%)。次いで「年収が大きく上がるなら」(36%)、「キャリアの選択肢が広がるなら」(16%)が続いた。過酷な労働環境が改善されるなら現場職も「選択肢の一つ」として受け入れられるという、現実的な意識が浮かび上がる。

こうした調査結果を受け、同社の野呂寛之社長は「職業観の変化が明確に進んでいる。AI代替リスクの強い層ほど現場職への関心を示すのは象徴的だ。一方で、現場職の待遇改善なしに人材の移動は進まない。今後は“労働条件の改善”がカギを握る」とコメントしている。

▲「今後のキャリアに対する不安は?」の問いへの回答(出所:X Mile)

調査では、現場職の不満として「給与・待遇が低い」(207人)、「職場環境が悪い」(138人)、「体力的にきつい」(130人)が上位を占めた。一方、オフィス職では「人間関係のストレス」(126人)、「精神的ストレスが大きい」(100人)、「やりがいがない」(81人)など、メンタル面の課題が目立った。現場職は肉体的負担、オフィス職は精神的負担──両者の「しんどさ」の質の違いが鮮明になった。

将来の不安を問うと、オフィス職・現場職ともに最多は「年収が上がらない」(現場職222人/オフィス職165人)。現場職では「体力的についていけない」(158人)が続き、オフィス職では「AIに仕事を奪われる」(68人)、「景気悪化で仕事がなくなる」(70人)などが目立った。どちらも経済的な停滞への懸念を抱えながらも、リスクの種類は異なる。

▲現場職が現場職を魅力的に感じる理由(出所:X Mile)

現場職を魅力的と感じる理由として、最も多かったのは「社会や生活を支える重要な仕事だから」(3割)。待遇や条件面だけでなく、社会的意義や使命感を魅力として捉える点が特徴的である。トラックドライバーや整備士、製造職など、インフラを支える仕事が再評価されつつある背景には、災害対応や物流停滞時に「支える側の価値」を再認識した社会の変化もある。また、現場職の7%が「AIに仕事を奪われるリスクが低そうだから」と答えている。

AIの進化は、単に職種を置き換えるのではなく、「働くことの意味」を問い直している。ホワイトカラーが現場職への転向を「アリ」と考えるのは、職業観の流動化が進む証左だ。効率化と自動化が進むなかで、人間が担うべき価値とは何か──。ブルーカラーの再評価は、AI社会の成熟度を映す鏡と言えるだろう。今後、ホワイトカラーの働き手がブルーカラーに流入する可能性はありそうだが、それも労働環境の整備や賃金の向上があってのことだというのは、言うまでもない。(土屋悟)

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