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Gライン、未経験者採用が好循環を生む人材戦略

2025年11月11日 (火)

ロジスティクス福岡県を拠点に運送事業を展開するGライン(福岡県粕屋町)は、近年採用活動が非常に順調だ。年間700件を超える応募が集まり、地域の運送企業としては異例の人気を獲得している。その応募者の多くが業界未経験者であり、創業以来一貫して続けてきた「未経験者採用」が、同社に独自の人材構造と強い組織文化をもたらしている。

荒牧敬雄社長は「平均年齢33歳で、ほぼ全員が未経験スタート」と話す。未経験者を前提とした育成ラインがきちんと設計されていることで、採用から現場定着までの再現性が高まり、同社は毎年安定して若返り、成長を続けている。

▲Gラインの荒牧敬雄社長

Gラインは2013年創業。現在95台の車両を保有し、福岡本社に加え大阪・兵庫の拠点を持つ。創業当初に福岡空港近くの倉庫を間借りしたことが出発点で、現在はここが九州域内のハブ機能を果たしている。ドライバーが倉庫にスムーズにアクセスでき、荷物の積み下ろしを迅速に行える動線設計がなされているため、中継輸送拠点としての利便性が高い。

扱う荷物は雑貨を中心に、建材、印刷物、ゼネコン案件まで幅広い。車両はハイエースから10トンまで全て箱車で統一され、車格の違いによる教育の難しさを最小限に抑えている。未経験者は小型車両から実務経験を積み、社内の免許支援制度を活用して2トン、4トン、10トンへ段階的にステップアップする。大型免許保有者はすでに20人に達しており、未経験者を安定して戦力化する仕組みが確立している。

“厳選”する採用で、人材の質が安定

同社の採用は量より質へと明確に移行している。毎年2割は入れ替わるという前提の採用プランを設計し、価値観が合わない人材は自然に入れ替わることを想定して制度をアップデートしてきた。過去の人員トラブルを教訓に、文化と制度を徹底的に整備した結果、近年は価値観の合う人材が中心となり、離職が大幅に減少している。応募母数が増えて採用基準はむしろ明確になり、採るべき人だけを確実に採用する体制が整った。応募が多いからといって大量採用に走らず、一貫して「必要な人材だけを採る」方向性を維持している。

採用ブランディングの中核、HPを読み込んでくれる人だけが残る

同社の採用導線の核心はホームページにある。2023年には応募が700件を超え、面接が“作業化”し始めたことを契機に、ホームページ(HP)をフィルタリング機能として再設計した。

「文字数をあえて多くしている」と荒牧氏。掲載されている文章は全て荒牧氏自身が執筆したものであり、キャリアパスや評価制度など、将来を真剣に考える人にしか刺さらない内容が前面に出されている。事前に読み込んだ上で応募してくる人材は、面接でも理念やビジョンへの理解が深く、価値観も一致しやすい。

こうしたフィルタリングにより、採用後の定着率が向上している。「間口を広げる」という表現は基準を緩める意味ではなく、受け入れ体制が整い面接基準がそろったことで応募母数を一定範囲で広げても対応できるという意味だ。

未経験者が伸びる理由──変化に適応できる素地

荒牧氏は「経験者は新しいことを拒む傾向が強い。未経験者は吸収が早い」と話す。実務経験の長さが逆に柔軟性を損なうことがあり、新しい運行モデルを理解し吸収するには、価値観が固まりきっていない未経験者の方が向いている。外部研修も積極的に活用し、一般常識からAI(人工知能)まで幅広く学ばせる。

採用戦略ではPESOモデル(Paid=広告、Earned=メディア露出、Shared=SNS、Owned=自社発信)をベースに情報発信を組み立て、認知と応募の質を高める仕組みを確立している。

▲同社のミーティングの様子

配車係を置かず、全員が自律するオペレーション

同社の業務設計は従来の運送業とは根本的に異なる。配車係を置かず、ドライバーが自ら営業し、仕事の受注から割り振りまで行う。5人チームで案件内容と単価を確認し担当を決める。

ここで基盤となるのが1キロの距離単価と1時間の時間単価というKPIであり、「基準を下回る仕事は取らない」という判断基準が全員で共有されている。達成状況は歩合ポイントに反映され、ドライバーは自然と短時間で高単価の案件を選ぶようになる。

“一人一台”を捨てた戦略:余剰車両でロスを消す

一般的な運送会社では、ドライバー1人に1台のトラックを割り当て、空き車両を作らず業務を組み立てる。しかしGラインは、ドライバーが複数の車格の車両を乗り換えることを前提に業務を構築し、車両が足りずに仕事が滞らないよう、余剰車両を一定数プールするという逆方向の戦略を採用している。

福岡に5台、大阪と兵庫に各2台の余剰車両を常備し、急な案件や待機発生時にも柔軟に対応できる体制を整えている。空き車両は“無駄”と捉えられがちだが、Gラインでは「空き車両があるからこそ高収益モデルが成立する」。隙間時間を活用し複数案件を組み合わせる同社の運用思想と余剰車両が組み合わさることで、ロスが最小化し生産性が最大化する。

拠点文化の統合、対立から連携へ

拠点展開では一時的にトラブルが生じたことがあったという。頭数をそろえる採用に傾倒した結果価値観のズレが生じたが、兵庫拠点の開設と人事再編、荒牧氏の現場介入により調整を進めた結果、「拠点間の相互理解が深まり、連携が強化された」と荒牧氏。現在は福岡と関西のドライバー交流も制度化され、価値観の統一がより深く進んでいる。

未経験者採用は会社の構造と不可分の必然

Gラインは未経験者を採用しているから成功したのではない。未経験者を採用することが、同社独自の運行オペレーション、教育体制、評価制度と密接に結びついているため、必然的に成果につながっている。

配車係に依存しない自律性、1キロと1時間のKPIに基づく合理的判断、複数車両を柔軟に乗り換える業務フローなど、従来の「走行距離で稼ぐ」運送モデルとは大きく異なる。この世界観は長年業界に身を置くドライバーには馴染みにくい一方、未経験者は価値観が固まりすぎておらず吸収力が高い。

採用・教育・制度・オペレーションがすべて連動し、未経験者が最も成果を出しやすい環境が整えられていることが、同社の強さの本質となっている。(土屋悟)

▲地元スポーツチームのラッピングを施した同社の車両

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