ピックアップテーマ
 
テーマ一覧
 
スペシャルコンテンツ一覧

アートセッティングデリバリーなど3社連携で挑む、引越・再流通・再利用の一体化

引っ越しを「資源循環」の起点に変える物流提案

2025年11月12日 (水)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「アートSDほか2社、リユース再資源化一貫サービス」(10月27日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ロジスティクス引っ越しという人力に頼らざるを得ない事業領域では、2024年問題が深刻な影響を及ぼしているのではないかとの問いに、アートセッティングデリバリー(東京都中央区)の常務・関口和巳氏は、「当社には、大きな影響は出ていない」と意外な答えだ。

同社の展開している引っ越しサービス『わたしの引っ越しは、学生や単身者をターゲットに少量家財を専用ボックス単位で輸送するという仕組み。企業向けサービスは意図的に限定してきたことで、異動繁忙期の影響も大きくなかったという。

また、オンライン申込み情報が自社の基幹システムに直結しており、「郵便番号単位でキャパシティーに応じた受注制限など全体量を柔軟にコントロールできる」(関口氏)。関口氏は、「受けられる仕事を受けられるだけ受けて、後で人と車両を用意するという時代は限界を迎えている。準備しているリソースにどれだけ効率よく仕事を入れられるかの管理が重要」と指摘し、繁閑に応じた料金設定などの調整で需給をコントロールしているという。かご台車で移動可能な専用ボックス2本分を上限とするサービス提供で、引っ越しにおける「混載」を実現した商品企画といえるだろう。荷物移動などで作業者にかかる負担も小さく、まさに宅急便発想の引っ越しサービスが特徴だといえる。

同社は、こうした物流・宅配の事業基盤から、さらに利用者の利便性を追求した新たなサービス提供を開始した。ただ引っ越し業務だけではなく、動静脈循環型のプラットフォーム構築に挑むサービスだ。

異業種3社連携で挑む、利便性高い循環型物流構築

(出所:アートセッティングデリバリー)

新サービスは、同社の引っ越しサービスの運用ノウハウと、大型電気製品・家具などの輸送サービス『家財おまかせ便』のネットワークを生かしたもの。非鉄・金属系商社でリサイクル事業を手がける伊藤忠メタルズ(港区)、リユース事業のリステージホールディングス(HD、中央区)と連携して、引っ越し時に発生する不用品の回収・再販を一体化するサービスだ。運送と再流通を同一ネットワークで完結させ、廃棄ロス削減と環境負荷低減を両立する取り組みである。

リユース・リサイクル・輸送を結合する“循環型物流”の社会実装に挑んだこのサービス。まずリユースの仕組みは、引っ越し時に発生する不用品をリステージHDが事前に査定し、再販・再流通可能と判断されたものを引っ越しと同時に回収するもの。引っ越しの申し込み、不用品査定の申し込みなど、すべてオンライン上でワンストップで完結する。「利用者にとっては、引っ越し業社への発注、不用品引取りの発注など、慣れない作業ごとにかかる負担を減らすことができる。処分費用の削減を査定申し込みだけで実現できる可能性もあり、これまでにはなかった利便性を高める新しいサービス」(関口氏)となる。

引っ越し車両が、再利用できる不用品をそのまま引き取ってくれるのは、利用者にとっては便利なサービスであり、同社とリステージHDが、得意の領域で「連携」する好事例だ。しかし、物流の共同化や異業種連携の実装においては、細かい運用や費用分担などで、実現に至らなかったという事例もよく聞く。アートセッティングデリバリーにとっては、リユース品で車両が塞がること、リユース品の運送費や集積場所などのすり合わせで齟齬はなかったのだろうか。

関口氏によると、「2社は2年前から埼玉県三郷市の首都圏エリアにおける拠点に同居する形で、今回のような取り組みの構想を温めてきた」のだという。拠点の設置段階から、すでに連携の下地はできていたことで、リユース品輸送費はリステージHD側が負担するなど物流の枠組み作りも、スムーズにまとまったと振り返る。

アートセッティングデリバリーにとっての三郷は、同社の主力事業である大型家電・家具配送サービス、『家財おまかせ便』幹線輸送のベース拠点となっている。そのため、三郷拠点にリユース回収品を移送することは車両運行上の無駄もない運用となる。回収した再販品を三郷で一時保管することで、リステージHD側では商品検品を行えるなど理に適った運用が可能となる。本来、家財配送後は空となる車両スペースをリユース品輸送として活用できる形など、共同配送や拠点の共同利用の取り組みなくしては実現しなかった独自の物流スキームといえる。

再流通と資源再利用をつなぐ物流プラットフォームの実装

一方、リユースできるものだけではなく、廃棄物となるものをどう扱うのかも、利用者の利便性向上における大きな課題として検証を続けてきた。一般廃棄物取り扱いはハードルが高く、リユースとリサイクルを両立する道筋作りでは難航したというが、今回、伊藤忠メタルズが参画して3社連携となったことにより、法人のオフィス資産の配送に伴って発生する不用品の処理においても、ワンストップで対応することが可能となったことも特筆すべき点だ。

▲新サービス申し込みの流れ(出所:アートセッティングデリバリー)

法人の事務所移転では、リユースできるかの検証を経て、処分品に関しては法令に基づいた適切なリサイクル品処理、再資源化するという物の流れを構築することができた。移転、リユース、リサイクルまでの一連の流れをサービスとして提供し、資源の有効利用とCO2削減の効果も期待できる。一連の過程はデジタルで可視化され、廃棄証明やCO2削減量などを提供することも可能で、安全管理・環境配慮への取り組みとすることで企業価値を高めることにも貢献する。

同社が掲げる循環型物流は、単なる引っ越し事業の追加サービスではなく、物流ネットワーク全体を使った再流通プラットフォームと資源再利用プラットフォームを結ぶものといえるだろう。

二次流通モデル定着で目指す持続可能な社会・循環物流の起点作り

24年問題の影響はあまりないという同社だが、冒頭の受注管理システムをはじめ、効率的な運用、最適化の取り組みも進める。「現在、自動配車システムの試験導入による無人化、ルート最適化や走行距離削減を進めている」(関口氏)状況だ。支店単位で行ってきたアナログな配車を自動化し、業務効率化で現場の負担を減らすことで、より多様な案件に対応し、車両を最適運用できる体制作りも可能となる。

アートセッティングデリバリーは「家財おまかせ便」を通じて全国で荷物を循環させており、豊富な取扱件数と自社ネットワークを基盤とした仕組みは、再販・再資源化を伴う複層的な物流サービスを「全国」で提供できる強みとなっている。

また、リステージHDの査定も商品写真をアップロードするだけであり、これもまた「全国」対応できる強みを持つリユースの仕組みである。全国をターゲットとする両社の強みを連携し、さらに資源再利用の道筋まで構築した今回のサービスは、「おそらくA地点からB地点に移動させるだけの引っ越し事業者には真似ができないサービス」と関口氏はいう。ほかでは追随できない高付加価値化サービスを目指した3社連携の取り組みは、“異業種連携による課題解決”という点でも示唆に富むものだ。

さらに、こうしたサービスモデル構築の先に見据えるものはなにか。

関口氏は、引っ越し件数自体の増加は見込めないとして、今後は小売業者との連携を通じてリユースの裾野を広げる構想も見据える。引っ越しや配送の過程で発生する中古家電や家財を、小売の新規販売と組み合わせて再流通に結び付ける仕組み作りを提起する。

主力事業の「家財おまかせ便」ではBtoCの取り扱いが基本となっている。それだけに、小売事業者が、より“透明性の高いリユース活用、二次利用の可能性”を消費者に直接訴えるような活動が定着することで、社会全体の廃棄物削減につながるはず」だと関口氏は訴える。転居に伴う家電・家財入れ替えは小売事業にとっては拡売のチャンスであろう。この時、アートセッティングデリバリーと小売事業が連携し、消費者の選択肢として“利用しやすい二次流通モデル”を促すことができれば、小売事業にとっては処分量の削減となり、消費者にとっては自身が主体となって、持続可能な資源循環の出発点ともなるはずだ。

アートセッティングデリバリーが描くのは、引っ越し・移転という一過性のイベントを、配送完了して終わらせるのではなく、持続的な資源循環の起点とする構想である。リユース・リサイクル・物流を一体化したこの仕組みは、業界の枠を超えた協働の先にある“社会的インフラ”として、今後の成長に期待がかかる。

▲アートセッティングデリバリー、関口和巳氏

LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。

ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。