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グリッドスカイウェイ構想で加速するドローン物流が当たり前の時代

河川と送電線が“空の道”に、新物流インフラの胎動

2025年11月19日 (水)

記事のなかから多くの読者が「もっと知りたい」とした話題を掘り下げる「インサイト」。今回は「日立など9者、NEDOのドローン航路開発事業に採択」(10月15日掲載)をピックアップしました。LOGISTICS TODAY編集部では今後も読者参加型の編集体制を強化・拡充してまいります。引き続き、読者の皆さまのご協力をお願いします。(編集部)

ロジスティクス日本の物流を揺るがす人口減少、人手不足、災害リスクの常態化。こうした構造課題に対し、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する「デジタルライフライン整備事業」は、インフラそのものをデジタルに再構築することで社会課題を一体で解決しようとする取り組みである。その中心に位置付けられるのが、ドローン航路を全国規模で整備する「グリッドスカイウェイ構想」である。この構想は、河川や送電線といった“もともと人が立ち入らない空域”を基盤に、空の交通路を体系化する点に特徴がある。2024年度から検証されているこの取り組みは、従来の個別実証とは異なり、航路そのものをインフラと捉え、全国で相互運航できる環境を整備することが目的となる。

同事業にはグリッドスカイウェイ有限責任事業組合(東京都港区)、Intent Exchange(文京区)、KDDIスマートドローン(千代田区)、トラジェクトリー(港区)、東京大学、日立製作所、NTTデータ(江東区)、日本電気、宇宙サービスイノベーションラボ事業協同組合(中央区)の9者が参画し、2024年度の成果を土台に25年度は本格的な社会実装に向けた改良に踏み込む。参画事業者によるコンソーシアムは、物流クライシスと人流クライシスの双方を見据え、「ドローン航路の整備は社会基盤を再構築する取り組みである」と位置付ける。物流企業にとっても、地上輸送の限界が見え始めるなかで、空のルートを幹線・地域輸送の双方で全国規模にどう生かすかが新たな論点になりつつある。今回、同事業のコンソーシアムに、改めてグリッドスカイウェイ構想とは何か、どんな物流変革につながるのかについて話を聞いた。

ドローン航路がめざす空のインフラ化

ドローン物流はこれまで、自治体単位の実証や民間企業による局所的な取り組みが中心で、広域展開のための制度やデータ基盤が整備されていなかった。その課題に対し、同事業は航路そのものをデジタルで定義し、登録し、相互運航できる仕組みを整えることで、実証依存から抜け出すことを目指す。同事業が描く10年後の姿として、「一級河川に1万キロ、送電線に4万キロの航路を整備する」(コンソーシアム担当者)目標を挙げる。日本全国の河川や送電線網をつなぐことで網の目状に広げる構想は、地上の高速網を空に再現する構想に等しく、物流用途に限らず災害対応、点検、防災監視を含めた社会インフラとしての活用を想定している。

▲2025年度「「デジタルライフライン整備事業/ドローン航路の開発」事業イメージ(クリックで拡大、出所:NEDO)

24年度事業では浜松市天竜川上空180キロ、秩父エリアの送電線上空150キロの「道」が整備された。「コンセプトや机上検討ではなく、実際にドローンの規格・仕様を定めて社会実装を行なったのは世界で初めての事例」(コンソーシアム担当者)だ。25年度はこれらの航路やガイドライン、ドローン航路システムを改良し、河川上空と送電線上空ルートの相互乗り入れ、複数ドローン事業者が相互乗り入れできる仕組みの整備を進める。さらに航路登録制度の適合性評価の実証も進め、グローバルでの国際標準化活動へも踏み込む。コンソーシアムでは、人が立ち入らない空域下でさらに立ち入り管理を行い、レベル3目視外飛行の安全を担保するなどを基盤としたドローン航路設定が海外に存在しない点を挙げ、日本の安全文化を重視、構造化した日本発の運用体系として国際標準化活動への打ち込みでも存在感を放つはずとする。

(クリックで拡大、出所:NEDO)

こうした“空のインフラ化”には、行政手続きのデジタル化が不可欠である。航空法との適合性の複雑さなどが参入を阻む壁となり、申請書作成などで事業開始前コストの7割が割かれているという。そこで航路ガイドラインをアプリ上で作図すればそのまま申請・運用に組み込める仕組みへ移行させ、ドローン航路システムもオープンソースソフトウエアとして開放し、制度と運用の両方をデジタルで一本化する方針を示した。より多くの事業者がアイデアを形にでき、制度側と技術側を同時に改良する点が、従来の実証型プロジェクトとの大きな違いである。

物流活用の後押しとなるマルチパーパス化と、ドローン利用の認知

物流分野では、山間部や中山間地域での配送負荷が特に顕著であり、人的資源の枯渇が進んでいる。浜松市の天竜川航路を利用した医薬品配送の事例では、従来一般配送で2日を要していたものを30分に短縮するという成果も示した。一方、物流事業にとっては地上の運送と比較して、コストや荷量確保、関連インフラの再整備など事業採算性の課題も障壁となる。24年の取り組みでは、天竜川上空の航路を物流だけでなく河川巡視にも活用し、物流事業とインフラ監視事業の相乗り運用も試行している。単独の物流事業では採算が難しい地域でも、点検業務などと組み合わせることで事業性が生まれる「マルチパーパス化」は、コストがかさむ次世代物流の新たなモデルケースになる。

▲ドローン航路事業化イメージ(クリックで拡大、出所:NEDO)

まずは、社会課題が顕在化している地域から先に対応を進めるとしつつ、将来的な都市部配送についても視野に入れる。各地で運航実績を積んでおくことや、非常時の迅速な輸送手段として機能することなど、都市部ドローン運行の信頼性を高めていくことになるのだろう。都市圏需要に対応する物流事業者からの多様な取り組みや、それを検証する機会、社会的環境が整うことで、新たな物流サービスの可能性も広がるはずである。

ドローン物流を受け入れられる環境作り、社会受容性の面では、「実際に飛ぶ姿を見せることが何より重要」(コンソーシアム担当者)と強調する。送電線や河川など、地上リスクが低い空域で日常的に運航する姿が社会に浸透することで、ドローンが“空の生活インフラ”として受け入れられていく。

空の物流網が描く未来図、「ドローンが当たり前の時代」

グリッドスカイウェイ構想は、ドローン配送を特定の地点間サービスにとどめず、全国の河川と送電線を中核とした、多くの人が利用できる「空の全国道路網」へと転換する取り組みである。航路の相互運用、データ基盤、登録制度、国際標準化、行政手続きのデジタル化が一体で進むことで、物流事業者は地上交通の制約を超えた新たな輸送選択肢を得ることになる。災害時の緊急輸送、医薬品や必需品の安定供給、過疎地域の生活維持、そして将来的な都市部配送──空の物流は「点」から「網」へ移りつつある。

すでにドローン物流は「実証フェーズではない。建築、警備、点検といった分野で人手不足の現実的な代替ツールとしてなくてはならないものになりつつある」(コンソーシアム担当者)という。諸外国との競争領域では、“少子高齢化の課題先進国”として物流領域の実証と経験を積み重ねることが重要であり、ドローン物流を使わざるを得ない時代、ドローンが当たり前の時代は着実に近づいている。

人口減少が加速し、地上の輸送網が維持困難となる時代に、空の航路網を社会基盤として整備する意義は大きい。グリッドスカイウェイ構想は、物流の持続性と地域社会のレジリエンスを両立させる新たな国家的インフラづくりの入り口に立っている。(大津鉄也)

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