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荷主の委託慣行を是正へ、改正取適法・振興法解説 

2025年12月2日 (火)

ロジスティクス国土交通省と全日本トラック協会が共催する「取適法・振興法改正ポイント説明会」が1日に開かれ、公正取引委員会事務総局企業取引課課長補佐の岩瀬輝彦氏、中小企業庁事業環境部取引課課長補佐の高橋諄氏が登壇した。2026年1月施行に向け、取適法(中小受託取引適正化法)と改正下請振興法(受託中小企業振興法)の大きな制度変更のポイントについて説明が行われた。

▲公正取引委員会事務総局企業取引課課長補佐の岩瀬輝彦氏

今回の制度改正の核となるのは、これまで下請法の対象外で、荷主側の慣行が実質的に野放しになっていた「荷主→運送」の取引を、取適法の下で明確に捉え直した点だ。荷主による運送委託は新たに「特定運送委託」と位置づけられ、荷待ちや付帯作業の無償提供、一方的な価格決定など、構造的に弱い立場に置かれてきたトラック事業者の保護につながる規制が適用される。これにより大手物流企業や3PLなどの元請け事業者が荷主と運賃・業務改善交渉を行う法的根拠が生まれる。また、委託側が価格協議に応じず代金を一方的に決める行為や、不当に不利な条件を押し付ける行為も規制対象となり、受託者側の運送事業者が適正な交渉機会と対価を確保しやすい環境が整えられる。

▲中小企業庁事業環境部取引課課長補佐の高橋諄氏

これらの改正に加え、紙の手形払いの禁止や、受託側が慣例的に負担してきた振込手数料の委託側負担への一本化など、運賃への適正なコスト転嫁を阻害してきた要因を取り除く施策も盛り込まれた。さらに、資本金基準のみでは対象外に落ちるケースを防ぐため、従業員数による新基準(300人基準・100人基準)が導入され、形式的な減資などによる適用逃れを封じる仕組みとなっている。こうした一連の見直しは、サプライチェーン全体で適正な価格転嫁と運賃改定が進む環境整備を目指したものと説明された。

▲取適法の適用基準(出所:政府広報オンライン)

説明会では、制度の背景と考え方を踏まえたうえで、改正点の具体的な内容が整理された。岩瀬氏は、従来の下請法が資本金の大小関係で対象を決めていたため、実態として弱い事業者が保護されない場面があったと指摘。これに対し取適法は、「委託する側」と「受託する側」というより実態に近い構造で捉え直し、従業員数を基準に加えることで、保護が漏れる事例を防ぐ仕組みに転換したと述べた。

運送以外の行為の扱いについては、荷下ろしや倉庫作業などは特定運送委託の類型には含まれないものの、こうした作業を無償で行わせる行為は「不当な経済上の利益の提供要請」として規制されると説明があった。従来、現場レベルで曖昧なまま提供されてきた作業が、制度上どのように評価されるかが明確になる点は、実務面での影響が大きい。

▲新法制度での名称・用語の変更(出所:政府広報オンライン)

支払い条件の見直しでは、紙の手形払いが全面禁止となり、手形で支払って支払期限である60日を過ぎて支払いがない場合は、自動的に支払い遅延と扱われる。また、代金の減額は「一部の支払い遅延」と見なされ、減額分には年率14.6%の遅延利息が発生する。加えて、振込手数料は必ず委託側が負担する形となり、受託側が負担させられる従来慣行には法的根拠がなくなる。

高橋氏からは、改正下請振興法の位置づけが説明された。同法は取適法とは異なり、禁止行為を定める規制法ではなく、サプライチェーン全体の取引適正化を支援する仕組みが中心となる。発注企業の価格転嫁姿勢を調査する「価格交渉促進月間」(3月・9月)が継続され、4段階評価で公表される取り組みも紹介された。これらは多重下請け構造の中で最上流企業の姿勢を可視化し、チェーン全体での交渉を促す役割を担う。

同法は年明け早々からの運用開始となるが、この法律だけで物流業界の健全化が進むものではない。同様に整備が進んだ物流2法やトラック新法の適切な運用が進み、そしてこれからの物流に求められる商業慣行の見直しや消費者などの行動変容がなければ、持続可能で健全な物流は実現しない。

同様の説明会は8日に大阪で開催。そのほかにも個別に質問・相談をしたい場合は、公正取引委員会の地方事務所の取適法担当で受け付ける。(土屋悟)

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