
▲花王豊橋工場で稼働するMujinの自動化ソリューション(出所:Mujin)
ロジスティクスMujin(ムジン、東京都江東区)は2日、シリーズDラウンドの初回クローズで総額364億円の資金調達を完了したと発表した。NTTとカタール投資庁(QIA)が共同リード投資家となり、同時にNTTグループとの資本業務提携も締結した。累計調達額は596億円に達し、国内ロボティクス・物流テック領域では異例の大型調達となった。
エクイティ調達は209億円で、NTT、NTTドコモビジネス、QIA、三菱HCキャピタルリアルティ、Salesforce Venturesが引き受けた。デット調達は155億円で、みずほ銀行、三井住友信託銀行、横浜銀行がアレンジャーを務めるシンジケートローンのほか、あおぞら銀行、商工中金、UPSIDER Capitalなど複数の金融機関が参加した。シンジケートローンは中小機構の「革新的技術研究成果活用事業円滑化債務保証制度」を活用している。
Mujinは来年にセカンドクローズを予定しており、米ペガサス・テック・ベンチャーズやアクセンチュアなど既存投資家からも追加出資の意向を得ているという。
調達資金は主に4つの領域に投じる。第1に、統合型オートメーションプラットフォーム「MujinOS」の製品ラインアップ拡充だ。MujinOSは、ロボットアーム、AGV(無人搬送車)、保管システム、各種センサーを共通のデジタルツイン環境上で統合制御するプラットフォームで、デパレタイジング、パレタイジング、ピースピッキング、トラック荷下ろしなど物流現場の主要工程をカバーする。従来のシステムインテグレーション型ビジネスから、顧客自身が導入・複製・展開できる製品主導型ビジネスへの転換を進め、導入コストの削減と展開スピードの向上を図る。
第2に、工場・倉庫全体のデジタルツイン化の加速を掲げる。MujinOSによるデジタルツインは単なる可視化ツールではなく、現場で起きる動作、稼働状況、在庫、エラーなどあらゆるデータをリアルタイムで収集し、トレーサビリティーの確保、問題の早期検知、ワークフロー最適化、パフォーマンス予測を可能にする。データドリブンな経営判断を支援する基盤として機能を拡充していく方針だ。
第3に、自動化需要が旺盛な欧州・北米を中心としたグローバル展開の強化がある。各地域のエンジニアリング、サービス、サポートチームを拡大するとともに、認定システムインテグレーターのネットワーク構築を進め、パートナー企業がMujinOSを活用したソリューションを迅速に提供できる体制を整える。
第4に、次世代MujinOS開発に向けた技術者採用の拡大を掲げる。フィジカルAI(人工知能)によるロボット需要が世界的に急増するなか、持続的な技術開発のため世界中からエンジニアを集める方針だ。
NTTグループとの資本業務提携では、物流・製造現場向けのロボット自動化ソリューションを共同で開発・提供する。具体的には、NTTグループとMujin双方の顧客基盤とチャネルを活用した新規ビジネス機会の創出、両社のアセットを組み合わせた新たなロボット自動化ソリューションおよび製造・物流業務向けDXソリューションの開発、ネットワーク・セキュリティー・クラウドなどデジタル基盤に関するコンサルティングやデジタルBPOサービスの共同提供などを計画している。
NTTドコモビジネスは、AI時代に最適な「AI-Centric ICTプラットフォーム」構想を掲げており、セキュリティー統合型NaaS(Network as a Service)やデータセンター、マネージドサービスなどを通じて、Mujinとともに安心・安全なロボット自動化ソリューションの実現を目指す。さらにNTTグループは、光技術を軸としたIOWN構想、生成AI、ワールドモデル、HRI(human-robot interaction)技術など先端技術とMujinのロボット制御技術を融合し、製造・物流にとどまらない多様な産業での自律的自動化を追求する。
NTTの島田明社長は「これまでNTTグループは、通信インフラをはじめとする多様な技術とサービスを通じて、社会の発展と人々の暮らしを支える役割を担ってきた。Mujinとともに、当社のIOWNや計算基盤などのアセットと連携したAI・ロボットの高度化を進め、人手不足の解消や生産性向上といった社会全体の課題解決に取り組む」とコメントした。
Mujinの滝野一征CEOは「今回の調達資本をもとに14年培ってきた世界最高峰の産業オートメーション技術をプロダクト化し、パートナー戦略も併せて加速度的に世界展開することで、世界中の労働力不足に起因する社会問題を解決していく。MujinOSをグローバルスタンダードに育てあげ、Mujinを『世界で戦い、世界で勝てる企業』に成長させる」と意気込みを語った。共同創業者のローセン・ディアンコフ氏も「シリーズDラウンドで示された力強い支援は、MujinOSが産業オートメーションの次世代を支えるアーキテクチャとして投資家から信頼を得ている証だ。スケーラブルで製品主導型のビジネスへの移行を加速し、MujinOSをインテリジェントロボティクスのグローバルスタンダードとして確立する」と述べた。

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▲(左から)NTTの島田明社長、Mujinの滝野一征CEO、Mujin共同創業者のローセン・ディアンコフ氏
今回の資金調達と提携は、深刻化する物流業界の人手不足問題に対する有力な解決策の登場を示唆している。2024年問題を契機にトラックドライバーの時間外労働規制が強化され、輸送能力の確保が喫緊の課題となるなか、倉庫内作業の自動化による省人化は物流事業者にとって避けて通れないテーマとなっている。しかし、従来の産業用ロボットは決まった動きを繰り返すことしかできず、多品種少量の荷物を扱う物流現場への適用には限界があった。
Mujinが提供するのは、センサーを駆使してロボットが自ら環境を認識し、状況変化に応じて自律的に動作する「知能ロボット」だ。ティーチング(動作の教え込み)が不要で、荷姿や配置が変わっても柔軟に対応できる点が従来型との大きな違いとなる。EC(電子商取引)市場の拡大に伴い物流現場で扱う商品の種類が爆発的に増加するなか、こうした柔軟性は実用化の鍵を握る。

加えて、MujinOSがプラットフォームとして複数のロボットやAGV、倉庫管理システムを統合制御できる点も注目に値する。物流現場では異なるメーカーの機器が混在することが多く、それらを連携させるシステムインテグレーションが導入のボトルネックになってきた。MujinOSは共通のアーキテクチャでこの課題を解消し、導入期間の短縮と横展開の容易さを実現する。製品主導型への転換により、大手物流事業者だけでなく中堅・中小の事業者にも自動化の門戸が開かれる可能性がある。
NTTグループとの提携は、この動きをさらに加速させる布石となる。物流現場の自動化が進めば、リアルタイムで収集されるデータ量は飛躍的に増大し、それを処理・活用するための通信インフラとクラウド基盤の重要性が高まる。NTTグループが持つIOWN技術やセキュリティ統合型ネットワークは、大量のデータを低遅延で安全に処理する基盤として機能する。また、NTTグループの広範な法人顧客基盤を通じて、Mujinの技術が物流業界全体に浸透していく経路も開かれることになる。
物流業界では、荷主と運送事業者の関係適正化を求める法改正や、多重下請け構造の見直しなど制度面での変革も進んでいる。こうした環境変化のなかで、自動化技術への投資は単なるコスト削減策ではなく、持続可能な物流体制を構築するための戦略的投資として位置づけられつつある。Mujinが掲げる「自動化の世界標準」が実現すれば、日本発の技術が世界の物流インフラを支える構図が生まれる可能性も出てきた。
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