調査・データ中小企業庁がこのほど発表した「価格交渉促進月間」(2025年9月)のフォローアップ調査で、全業種のコスト全般の価格転嫁率は52.4%(3月)から53.5%へとわずかに改善した。一方で、物流の基盤となるトラック運送の転嫁率は36.1%から34.7%に低下し、30業種中最下位という構図が続いた。
価格交渉環境そのものは、全体としては改善傾向にある。直近6か月間に「価格交渉が行われた」割合は、3月時点で89.2%、9月も89.4%と高水準を維持し、発注側からの交渉申し入れ割合も31.5%から34.6%へと広がった。ただし「発注減少や取引停止を恐れ交渉を申し出なかった」「申し入れても応じてもらえなかった」層は1割でほぼ横ばいとされ、交渉に踏み出せない中小企業の存在は根強い。
トラック運送では、3月調査で転嫁率が29.5%(24年9月)から36.1%へと大きく持ち直し、「価格交渉の実施状況」を点数化した交渉平均点も5.28から6.21へ上昇していた。9月調査ではこの平均点が5.60に低下し、転嫁率も34.7%へと逆行した形となる。全体平均を20ポイント下回る状況は変わらず、燃料や人件費の上昇分が十分に運賃へ乗らない構造が改めて浮き彫りになった。
アンケートの自由記述を見ると、トラック運送の現場でも対応は割れている。「発注側が価格改定や移動費支給に迅速対応し、労働負担軽減や取引の透明性を確保している」「親会社の交渉支援や前倒し入金で資金面の配慮があり、信頼関係を築けている」といった好事例がある一方、「価格交渉が形骸化し、付帯費計上拒否や自社ルールの強制で負担が増している」「値上げ要請は無視され、説明もない一方的な対応が続き、適正な価格改定が不可能」との声も寄せられた。
サプライチェーン全体でみると、1次請けの価格転嫁率が53.6%(3月)から54.7%(9月)と着実に伸びる一方、4次請け以上は40.2%から42.1%にとどまり、階層が深いほど転嫁が滞る傾向は残る。多重下請け構造の下流に位置しやすい中小トラック事業者ほど、コスト増を内部吸収せざるを得ないリスクが高い。
政府は「中小受託取引適正化法」(取適法)による一方的な価格決定の禁止や、「労務費指針」に基づく労務費転嫁の徹底を掲げ、8月の発注企業リスト公表、9月の価格交渉促進月間などで荷主側の行動変容を促している。ただ、3月時点で一度持ち直したトラック運送の転嫁率が再び鈍化した事実は、制度の趣旨を現場の運賃交渉にどう落とし込むかという課題がなお重いことを示している。26年以降の規制強化を前に、運賃とコストをどう連動させるかが、持続可能な物流網の条件となりつつある。
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