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編集部が見た最近(12/5-12)の物流ニュース雑感

2025年12月12日 (金)

ロジスティクス本誌編集部の記者たちが今週注目した物流ニュースを取り上げ、裏側の背景や今後の影響について座談会形式で語り合いました。記事本文だけでは伝えきれない現場の空気感や取材の視点を、読者と共有するのが狙いです。12月1日から5日のトピックを整理してみましょう。

危険品物流、輸送・保管危機を企業間の協調で突破へ

危険品物流のひっ迫が深まるなか、LOGISTICS TODAY主催のイベント「危険物倉庫緊急サミット第2弾『危険品物流、進化論。』~規制緩和で拓く、ビジネス好機の扉~」が11日開催された。プロロジス・三和建設・長瀬産業の3氏が登壇し、保管と輸送双方の課題と解決策を議論した。倉庫はLiB搭載品増加で不足が続き、規制緩和により一般倉庫での保管や非防爆デジタルツール活用が可能に。輸送では危険物の路線便受託拒否が進み、ドライバー不足で「運べないリスク」が顕在化。長瀬産業はAI共同輸送マッチングで積載率を改善する事例を紹介。静脈物流の需要増も課題で、法制度の壁も指摘された。3氏は業界横断の協調が不可欠と強調した。

記者A「昨日の危険物関連イベントでも感じたのだけれど、やはり物流業界は、1社だけでは課題に応えきれない局面が増えてきたなと強く思った。トラック輸送、海上輸送、食品系のコールドチェーンまで、それぞれの領域がもう互いに密接につながっていて、どこかが滞ると全体が機能しない。協業が前提になってきたという感覚がある」

記者A「ただ、協業が進むと、各社の“違い”が埋もれやすくなるところは気になっている。コスト削減を理由に何でも共通化してしまうと、結局どこで戦うのかが分からなくなる。倉庫会社、建設会社、商社、運送会社が同じプロジェクトに混ざるような案件も増えているし、どこまで共通化し、どこに独自性を置くのかをもっとはっきり設計しないと、本当に同質化が進んでしまう」

記者B「AIで全部効率化という話にはならないよね。実際に現場の調整が必要なケースの方が圧倒的に多いし、経営側が“技術でどうにかなる”という前提で動きすぎると、現場がついていけなくなる。結果として総論では賛成でも、具体的な各論で反対が続出して前に進まない。最近はそういう構図が目立つ気がする」

記者C「ビールの共同配送、特積み4社の幹線共同化のように、協業と競争の境界をしっかり引き直している事例は出てきているよね。“ここは共同でやる”“ここは企業ごとの強みを出す”という割り切りができる案件は、全体の負担感も小さい。協業の枠が大きくなるほど、むしろ企業ごとの役割分担やポジション取りが重要になる」

記者A「そうなんだよね。協業は進むけれど、その奥で“自社は何者なのか”を明確にしないと、ただのコスト競争に飲まれる。協業が広がっていくほど、実は個社の戦略が問われ始めているよね。今の流れを見ていると、その転換点にきている気がする」

JR東日本、「荷物専用新幹線」で物流事業拡大

JR東日本は物流事業を拡大し、2026年3月に日本初の「荷物専用新幹線」を盛岡-東京間で運行する。E3系7両を全面改造し最大17.4トンを輸送、車両センターではAGVを用いて荷役効率を高める。鮮魚・精密品など温度管理品にも対応し、深刻なドライバー不足への代替手段とする狙い。はこビュン事業の拡大に加え、JALや日本郵政と連携して国内外物流にも広げる方針。鉄道シフトにより拘束時間削減やCO2削減効果も見込まれる。

記者B「JR東日本が荷物専用新幹線を走らせるというニュースは、かなり大きい動きだと感じている。もともと地方の朝採り農水産物をその日のうちに新幹線で運んで首都圏で提供する「はこビュン」をやっていて、新幹線1便の1-2両を貨物として運用していたけれど、今度は貨物専用便とのこと。鮮魚、医薬品、精密機器といった高速輸送向けの品目はともかく、今回は引っ越し荷物まで対象に入れてきた。そこまで踏み込んだのはけっこう意外だったし、鉄道の役割を広げていこうという意志が見える」

記者C「実際に気になるのは東京側の荷役体制だよね。はこビュンでは駅のホームを経由してかご台車で積み下ろししていたけれど、専用便では盛岡と東京の車両センターで荷役をするという話。本当に処理能力が追いつくのかはまだ分からないけど、荷物が少なければそのまま縮小するだろうし、逆に増えれば現場づくりを一気に整えないといけない。実証段階から運用段階への切り替えには相当な柔軟性が求められそうだね」

記者A「人口減少で働き手だけで無く消費者も減っていくわけで、旅客が減っていくなかで、鉄道会社が新しい収益源を確保しようとするのは自然な流れ。引っ越しについては“本人と荷物がほぼ同時に移動できる”というのが本当に大きな価値で、人気が出る可能性は十分ある。長距離単身引っ越しの概念が変わるかもしれない」

記者C「車両センターには荷役設備を整備するという話も出ているけど、現場はどんなオペレーションになるんだろうね。取材ができるようなら、ぜひ現場に行きたいねえ」

記者B「鮮魚や医薬品も含めて、本当に扱える荷物の幅が広くなるので、“貨客混載の次の段階”に入った感じはあるよね。路線や設備をどう最適化していくのか、ほかの鉄道会社がどう動くのか、ここからの展開はまだまだありそう」

センコーに下請法違反報道、荷役を無償強要か

総合物流大手センコーが、公正取引委員会から下請法違反の勧告を受ける可能性が報じられた。再委託先の運送事業者に、荷役や2時間超の荷待ちを無償で行わせていた疑いがあり、延べ数十社に同様の行為があった可能性が指摘されている。センコーは調査を受けている事実は認めたが、勧告方針は未確定としている。無償荷役・無償待機は2026年施行の取適法で明確に禁止される見通しで、今回の事案は今後の法運用を象徴するケースとみられる。
記者D「センコーの報道を見ていると、公正取引委員会が来年の改正に向けて本格的に動き始めていると感じた。行政として『これからは見逃しません』というメッセージを出しているように見える」

記者B「下請法(下請代金支払遅延等防止法)が取適法(中小受託取引適正化法)になり、来年からは、発荷主と元請けの不当行為も規制の対象になる。無償荷役、無償荷待ち、不合理なコスト負担、作業強要など、これまで“慣習だから”とされてきた領域がいよいよ法の網に入る。現場が長年抱えてきた問題が一気に表面化する可能性があるね」

記者C「それにしても、実運送会社と着荷主の間で起きる無償荷待ち・無償荷役の構造は大きな課題だね。物流改革の核心はここにあるのに、現行法ではまだ完全には規制が及んでいない。来年以降、この領域にどこまでメスが入るのかがポイントだね」

記者A「6月のトラック新法成立以降、行政側の温度感は明らかに変わってきたよね。単なる制度変更ではなく、物流の待遇や地位を改善する方向に本腰を入れ始めたように見える。これまで放置されてきた慣行への是正が本格化すると、業界全体の力学がかなり変わるんじゃないかな」

記者B「大雪の際、荷主が無理な輸送を求めた件で、この時期にトラック・物流Gメンが是正指導したことも象徴的。国土交通省は2020年に「異常気象時における措置の目安」で、1時間に20-30ミリの雨が降ったら、『輸送の安全を確保するための措置を講じる必要』があるだとか、30-50ミリなら『輸送を中止することも検討するべき』などの基準を示しているけれど、荷主側がその基準を理解していないケースが多いのかな」

記者D「過去10年ほどの間にも、関越自動車道、北陸自動車道、中央自動車道が雪でストップして、中には通行止め解除まで丸3日かかったこともある。雪のシーズンを前にリマインドしているのかもね」

記者D「もし可能であれば、今回の改正を踏まえた“現場の実態調査”もやってみたいよね。無償作業や不当要求がどの程度残っているのかを匿名で聞けば、行政にとっても企業にとっても参考になるデータになると思う」

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