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ひとまいる、DX強化し都市部ラストマイルを効率化

2026年2月18日 (水)

ロジスティクス酒類の小売で、当日宅配サービスを大きな特徴としてきたカクヤス。これまで自店舗の商品を配送することに特化してきた同社は、近年、他社の商品を配送する「他人物配送」をスタートさせるとともに、食品物流にも取り組むなど、小売の枠を超えて物流領域へと大きく舵を切っている。

こうした動きと並行して、グループ会社を束ねる持ち株会社の社名を「ひとまいる」に変更し、ラストマイル配送を軸に事業を展開していく姿勢も鮮明にした。酒類小売で大きな存在感を示してきた同社は、なぜここまで大きな改革に踏み切ったのか。そして、それを可能にした原動力は何だったのか。その背景を探るため、ひとまいるを取材した。

酒類小売を極限まで磨き込んだ「カクヤスモデル」

カクヤスは、長年にわたり酒類小売という領域を徹底的に突き詰めてきた企業である。飲食店向けに「いつでも」「どこへでも」「どれだけでも」を掲げ、当日配送を前提とした高頻度・短時間配送を実現してきた。そのために、店舗と配送を一体で設計し、オペレーションを磨き込み続けてきた点が同社の最大の特徴だ。いわゆる「カクヤスモデル」は、酒の小売を起点としながら、物流機能そのものを競争力に転換した点にある。

▲ひとまいる代表取締役社長兼CEOの前垣内洋行氏

このモデルを支えてきたのが、配送効率の徹底的な追求である。どの店舗に、どの時間帯に、どのルートで届けるのが最も合理的か。こうした問いに対し、現場の経験とデータを積み重ねながら改善を重ねてきた。その延長線上で、カクヤスは早い段階からデジタルソリューションを活用した配送効率化の検証にも着手していた。DXは新規事業のために始めたものではなく、酒類小売を極限まで磨き込む過程で、必然的に取り組むことになったテーマだった。

酒類市場の縮小を「前提条件」として受け止める

しかし、その検証が進む一方で、外部環境は大きく変化していく。日本はすでに人口減少局面に入り、成人人口の減少が進むなかで、酒類市場は構造的な縮小局面へと移行した。コロナ禍を経て飲み会文化も変わり、一人当たりの消費量も下がっている。ひとまいるの前垣内洋行社長は、この状況について「酒類の市場が縮小していくというのは、もはや前提条件。一時的な要因ではなく、構造的な変化だ」と語る。

▲ひとまいる取締役兼CDO(グループDX担当)の飯沼勇生氏

酒類販売は続けるが、それだけでは続かない。こうした認識が、事業構造そのものを見直す契機となった。カクヤスグループは持ち株会社体制への移行と同時に社名を「ひとまいる」へと変更し、酒類小売を中核に据えながらも、物流を主軸とした事業展開へと大きく舵を切った。食品や他社貨物を含む「他人物物流」への本格参入は、その象徴と言える。

「全体を組み替えれば3割」──DX検証が示した余白

この判断を後押ししたのが、これまで積み重ねてきた配送効率化の検証である。ひとまいるの飯沼勇生取締役は現状について「店舗単位で見た配送は、正直かなりやり切っている」と振り返る。その上で、「ただ、全体を組み替えれば、まだ3割程度の上積み余地はある」と語る。酒類配送を前提に構築してきたネットワークには、扱う荷物を広げる余白が残されている。その余力を新たな貨物で埋めていくことで、酒類市場の縮小を補うだけでなく、物流としての成長も見込めると判断した。

こうした考え方のもと、ひとまいるはデジタルを活用した配送モデルの検証を重ねてきた。その一例が、ルート最適化などを手がけるオプティマインド(名古屋市栄区)のソリューション「Loogia」(ルージア)を活用した取り組みである。店舗をまたいだ配車やルート設計を机上で検証し、従来のように配送スタッフが特定の店舗にひも付いて動く前提を見直す試みだ。

配送の集約がもたらす「社会的な意味」

複数店舗の配送を横断的に担う、いわばN対N型の輸配送が理屈として成立すれば、輸配送能力を約3割引き上げられる可能性がある。ただし、現時点ではこうしたモデルがそのまま実運用に移行しているわけではない。現在の配送現場では、各配送スタッフが特定の店舗にひも付いて業務を行う体制が基本であり、N対N型の輸配送はあくまで検証段階にとどまっている。

それでも、これまでの検証を通じて得られた知見は、ひとまいるが物流へと舵を切る判断の裏付けとなっている。飯沼氏は「属人的な工夫で何とかする段階はもう超えている。再現性のある形で効率を引き出さなければ意味がない」と語り、デジタルを活用した配送設計の重要性を強調する。

▲ひとまいる本社直近のカクヤス王子店

配送の集約という発想は、効率化にとどまらない意味を持つ。飯沼氏は「1つの店舗に5社がそれぞれ来るより、1社がまとめて行った方が、世の中全体としては効率的だ」と語る。そこには、輸送力そのものが不足していく時代を見据えた問題意識がある。「これからは、運び手を確保すること自体がますます難しくなる。それぞれの業者が個別に配送を組み立てるやり方が、いつまで続けられるのかは疑問だ」という言葉は、物流の集約が社会的な課題解決にもつながる可能性を示唆している。

「行き」だけで終わらない物流へ

さらに、輸配送の効率化が進んだ先には、「行き」だけで完結しない物流の姿も見えてくる。現在は飲料や食品を届ける行き便が中心で、帰り便は十分に活用されていないが、配送を集約することで回収物流を組み合わせる余地が生まれる。たとえば、飲食店向けにクリーニング済みのユニフォームを届け、使用済みのユニフォームを回収してクリーニング工場へ移送する、あるいは段ボールなどの梱包材を回収するといった運用も考えられる。こうした取り組みは、ひとまいるが掲げる「物流の集約」によって社会全体の移動距離を短縮するという考え方とも親和性が高い。

▲配送には軽自動車や電動三輪車、リヤカー付自転車など多様なモビリティーを活用する(出所:ひとまいる)

現時点で具体的なサービスとして実装されているわけではないが、物流をどう設計するか次第で、ラストマイルの役割そのものが広がっていく可能性を示している。

ひとまいるが示しているのは、DXによって業務を効率化した企業の姿ではない。酒類小売を極限まで磨き込む中で、配送の設計やデータの扱い方を検証し続け、その積み重ねの延長線上で、物流という事業に踏み出した企業の姿である。(土屋悟)

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