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期待される物流統括管理者像、始動前の最終確認

2026年2月24日 (火)

ロジスティクス国土交通省と経済産業省は24日、「物流統括管理者(CLO)フォーラム」を開催。改正物流関連法の全面施行に伴い、一定規模以上の荷主企業に義務付けられた「物流統括管理者」(CLO)の選任・体制整備・計画策定の実務と期待像を共有し、先進事例・人材育成・業界横断連携の機会を創出するとともに、物流人材間の交流を深める分科会も開催された。

これは、2025年12月からことしの1月にかけて有識者などの参加による「物流統括管理者(CLO)のあるべき姿に関するワークショップ」における議論の取りまとめを共有するもの。CLOを単なる物流部門の責任者ではなく、「経営戦略の観点から物流を統括し、物流全体の最適化を図る役割」と定義。社内外の関係者を横断的に束ね、物流を通じて企業価値向上を実現する存在と位置付け、CLOに期待される役割として提言された。

「CLOに期待される主な役割」として提言された第1の項目は、「物資の流通の効率化に関する法令への対応」。中長期計画の策定、定期報告、荷待ち時間削減や積載効率向上など、改正物流関連法への対応を前提とした。

ただそこにとどまらず、「物流全体の最適化」に取り組み、輸送、保管、包装、荷役、流通加工、情報管理などの機能を統合し、社内の部門横断、社外連携で効率化を進めること。さらに、「企業価値向上への貢献」「社会的課題への対応」に取り組み、物流を単なるコストではなく、ブランド価値や顧客満足度向上につなげる戦略領域として位置付けること、トラックドライバー不足課題や、環境対策に対しても主導すべき立場となることも求める。

「物流統括管理者(CLO)に求められる知識や知見」としては、物流実務の知識に加え、経営判断力や戦略構築力、社内外との調整力が求められる。物流部門に閉じた専門家ではなく、企業経営全体を俯瞰できる「ゼネラリスト」としての能力が強調された。また、人材育成についても整理。専門性を軸としながら他領域も理解するキャリアパス設計や、社内外の研修・実践機会の活用を通じた育成プロセスが提示された。

フォーラムの冒頭、国土交通省大臣官房審議官(物流・自動車担当)木村大氏は、これまでの取り組み、改正法の整理と具体的な実務スケジュールを説明した。特定荷主事業者には、5月末には特定事業者としての届け出、続いてCLO選任に関する届け出、10月末には中長期計画の提出を控える。CLOは単なる報告責任者ではなく、積載効率の向上や荷待ち・荷役時間の短縮を実装する統括責任者であることを踏まえた具体的なアクションを求めた。また、CLOは単独で全責務を担うスーパーマンではなく「コンダクター」として、オペレーション、企画設計、データ・IT、ガバナンスなどの機能を補完的に束ねる横断チームを組成することが成功の鍵だと述べた。CLOが単なる法令対応にあたるだけではなく、より広範な視点で物流革新に努め、物流「を」変えるだけではなく、他分野とのシナジーで物流「も」変える、さらにシナジーを超えた可能性を求め、物流「で」変える取り組みが必要だと訴えた。

流通経済大学流通情報学部教授、矢野裕児氏からも、CLOを法令順守の管理者ではなく、企業経営を横断する戦略責任者として再定義し、「受け身ではなく物流起点での取り組み」をCLOが主導しなくてはならないことを解説した。特に、推進すべき「共同」物流の実現には、トレードオフを前提とした意思決定が不可欠であり、法令上の責務をこえ、提言にまとめた「期待される責任」を果たしてほしいと呼びかけた。ただ単に物流担当チームを設置するだけではなく有効に機能させることや人材育成の重要性についても言及。CLOには、「昭和の物流・20世紀の物流から脱却する」推進役となり、広く俯瞰した視野で物流起点の価値創造を実現することへの「期待」が語られた。

東京大学大学院工学系研究所教授の西成活裕氏は、さらに未来を見据えたCLO人材、AI(人工知能)時代の物流人材について講演。ロボティクスや自動運転、フィジカルAIの進展が物流の姿を大きく変えつつあり、40年のフィジカルインターネット、50年のカーボンニュートラルを見据えたバックキャスト思考が不可欠だという。AIの劇的な進化は人の働き方、役割さえも変えてしまうこと、上流からのサプライチェーンではなく、実需要を起点にした「デマンドウェブ」を前提にする必要があると指摘する。AIを活用しながらも最終的な責任を担うのは人間となる時代には、数理・論理リテラシーとともに交渉力や倫理観がCLOに求められ、変化に強い「人間力」がCLOの資質になるとの見解を示した。

いずれの講演でも、CLOを「法令対応の責任者」にとどめず、物流を起点に企業経営を変革するキーパーソンとして再定義した点が特長だ。今後、CLOの選任義務化を見据え、各社がどこまで経営レベルで物流を位置付けられるかが、物流革新のスピードを左右する。

続く後半のセッションでは、物流統括管理者(CLO)を設置した先行3社である花王、SUBARU、三菱食品が、改正物流関連法への対応を起点に、積載効率の向上、荷待ち時間の短縮、荷役時間の短縮という共通KPIを軸にした改革の進ちょくを共有した。各社の事業構造は異なるが、現場起点の改善にとどまらず、全社最適と社会最適へ射程を広げる姿勢は共通する。

花王執行役員ロジスティクス部門統括、物流統括管理者の森信介氏は、メーカー・荷主機能に加えて運送・利用運送の機能も内包する点を強みに、発荷主と着荷主の両視点からボトルネックを特定し、業界・小売も巻き込んだ改革を進めていることを解説。物流効率化法対応は「現場モニタリング」「三つの判断基準(荷待ち時間短縮・荷役時間短縮・積載効率向上)の改善」「特定荷主としての義務遂行」という3層で整理し、制度対応を単独の“事務作業”にせず、現場改善と一体で運用する設計を示した。

CLOは経営視点で社会最適をけん引する役割を担い、安全・品質に加えてROIC(投下資本利益率)を含む資本効率の責任も負う。KPIは財務と非財務を一元管理し、CO2削減やモーダルシフト、配送実施率、BCP整備などとともに、待機・荷役の削減を進ちょく指標として組み込む。物流課題を上流の製造部門に持ち上げた事例としては、柔軟剤の包装設計の見直しで輸送・保管効率を高めることに結実。また、工場におけるバース予約と自動倉庫・出荷システムを連動させて到着から出庫、退場までを一気通貫で自動化し、待機・荷役の削減を実装フェーズに移している。また、メーカー間の共同輸配送の拡大に加え、小売と連携したリードタイム緩和も進め、需要・発注設計のチューニングで欠品や在庫増のリスクを管理しながら、現場負荷の平準化を狙う構図を示した。

SUBARU執行役員CLO(最高物流責任者)・物流本部の村田眞一氏は、北米向けの完成車輸出と部品供給という“物流パイプライン”が経営の生命線であることを前提に、分散していた物流機能を束ねるため、法令義務化に先行して物流本部が新設されCLO任命されたことを紹介。基盤整備では、全社物流費を初めて統一費目で集計し、月次で可視化するダッシュボード運用による課題の特定と改善の回転を速めている。

現場施策として特長的だったのは、自動車業界の慣例であった工場納品でのドライバー荷役を廃止したこと。荷役・滞留時間の短縮と安全性向上、フォークリフト免許不要化による採用裾野の拡大につなげ、物流KPI達成に向けてこれまでの業界慣例を打破する取り組みとした。また生産部品物流においては幹線輸送の活用で西濃運輸と連携して中京圏の部品を集約して幹線で群馬拠点へ運ぶことで、サプライヤー専用便の乱立を抑制した。完成車領域でも、保管運用の統合による余剰賃貸の解消に加え、トヨタ自動車と共同輸配送に着手し、業界横断の効率化に踏み込む姿勢を示した。

三菱食品常務執行役員SCM統括(兼)CLOの田村幸士氏は、メーカーと小売の間に立つ中間流通として、発荷主と着荷主の双方に関わる立場から、CLOを「物流コスト削減と品質管理」の枠を超えた企業価値向上のドライバーへと位置付け直している。19年からのSCM統括設置を起点に横串化を進め、専任役員による統一化を加速させた流れの延長としてCLO体制へ移行している。外部環境として、輸送キャパ不足、法対応、環境負荷、人手不足に加え、物流費が市場価格として可視化され価格交渉余地が縮小していることをあげ、構造改善へ舵を切らざるを得ないとの認識を示した。

実装面では、動態管理を含むデータ化と可視化を徹底し、積載率やCO2を委託車両も含めて把握した上で、標準化・定型化を通じて脱属人化と脱ブラックボックス化を進める方針を明確にした。共同配送では実際の取り組み事例から、異業種連携の“組めない思い込み”を実証で崩し、対象拡大に繋げる姿勢を示した。時間軸も、前年比に拘らず5-10年スパンの最適解追求へ転換し、持続可能性と企業価値の接続を強める構図が語られた。

フォーラムの締めくくりには、ここまでの登壇者がパネルディスカッションで議論、個別企業の取り組みを超えて、物流統括管理者(CLO)の本質的な役割と今後の方向性について共通認識が整理された。

まず強調されたのは、物流統括管理者(CLO)は単なる制度対応の責任者ではなく、全体最適を設計し、経営言語で物流を語り続ける“指揮者”であるという点である。物流をコストセンターから経営アジェンダへと格上げし、ROICやESG、サービス水準と接続させながら、役員レベルで継続的に議論することが不可欠だとの意見が共有された。部分最適の積み上げではなく、トレードオフを可視化し、合意形成を通じて全体の価値を最大化する視点が求められるという認識で一致した。

花王による上流の商品・包装設計を巻き込む成功事例からは「現場を見てもらうこと」による痛点共有と合意形成が鍵となったとの意見。SUBARUからはCLO本部設置が社内のエンゲージメントを高め、下流が“何とかする”領域から経営課題として発言できる領域へ変わったとした。三菱食品はデータ相互開示で共通事実を作り、抵抗のある領域ほど合意形成を丁寧に行う必要があるとし、小売の予見性向上と物流平準化のジレンマを多面的に扱う姿勢を示した。すでにCLO体制を先行する企業では、可視化と標準化を土台に、役員同席の迅速な意思決定、社内外の協調領域の拡張などを同時進行させるなど、CLO体制の実効性を確立していることなどが紹介された。

今後の重要課題となるCLO人材の確保と育成については、CLO個人に依存するのではなく、チームとして支える体制づくりが共通課題として浮かび上がった。企業側ではジョブローテーションや他部門経験を通じて全体俯瞰力、物流を相対化する視点を養う取り組みや、データサイエンティストとしての採用、社内リスキリングの強化など、物流を“現場経験とデータ活用”の複合領域として再定義し、興味を持つ人材の裾野を広げる動きも重要だ。

一方で学側からは、高度物流人材育成、社会人向けリスキリング講座などを整備しても物流分野への関心が必ずしも高くないという現実が示され、業界の魅力発信の不足が指摘された。これを受けて国交省からは、物流を「最先端の自動化・実装の現場」として積極的にアピールする必要性が示された。自動化設備やAI、データ活用が進む物流は、実は技術革新の前線にある。その姿を社会に示すことが、人材確保と業界の持続性に直結するとの見解も示された。

さらに、こうした議論の場に積極的に参加し、交流の輪を広げる外交機能を強化する重要性も再確認され、今回の交流セッションなどを通して実践的な取り組みを進めることも改めて呼びかけられた。(大津鉄也)

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