国際DHLエクスプレスの米国で、労働組合チームスターズが96%の賛成でスト権を確立した。3月31日の労働協約期限までに合意に至らなければ、数千人のドライバーと倉庫作業員が職場を離れる。交渉はフィラデルフィアで続いているが、組合側は「1日たりとも延長しない」と明言しており、期限の重みは増している。(編集長・赤澤裕介)
交渉の構図と争点

(出所:チームスターズ)
スト権確立の投票は3月3日に発表された。現行の「DHLチームスターズ全国マスター協約」は16州26の支部をカバーし、ドライバー、倉庫作業員が対象になる。協約は3月31日に失効する。
組合の要求は賃金の引き上げ、労働条件の強化、福利厚生の維持の3点だ。チームスターズ・エクスプレス部門のハミルトン・ディレクターは「DHLは補足交渉を急いで完了させ、受け入れ可能な契約案を提示する必要がある」と述べている。組合側が強調しているのは、全国協約と各支部の補足交渉をすべて完了させてからでなければ合意しないという点だ。部分的な妥結を先行させる余地はない。
DHL側は声明で「米国の労使交渉には建設的な対話の長い歴史がある。3月31日の期限前に合意に達する見込みだ」としている。交渉は2月からワシントンで始まり、直近ではフィラデルフィアに場所を移して継続中だ。
この対立は突然起きたわけではない。DHLの米国労使関係にはここ数年、摩擦が続いてきた。
23年12月、シンシナティ・ノーザンケンタッキー国際空港にあるDHLのグローバル・エアハブで、1100人超のチームスターズ組合員がストライキに入った。不当労働行為をめぐる争いで、ピケラインは全国に広がり、繁忙期のDHL業務に打撃を与えた。11日間のストの末、DHLが姿勢を改めて合意に至った。このシンシナティの協約は今回の全国マスター協約とは別の契約だが、チームスターズが「前例」として繰り返し言及している点は重要だ。
25年6月にはカナダでも大規模な労働争議が起きた。ユニフォーが代表する2100人超の従業員がロックアウトとストに突入し、3週間近くDHLエクスプレス・カナダの業務が停止した。カナダの新しい代替労働者禁止法(ビルC-58)の初の適用事例となり、DHL側は6月20日に全面的な業務停止に追い込まれた。最終的に4年間で15.75%の賃上げ、年金の増額、AI(人工知能)やロボティクスに関する契約条項の新設を含む協約で決着している。
米国のスト権確立が96%という高い支持率である点にも注意が必要だ。カナダの場合、妥結後の批准投票は72%の賛成だった。交渉前の段階でこれだけ高い結束を見せているのは、組合員の不満が相当に蓄積されていることを示している。
仮にストに突入した場合、影響は米国内のエクスプレス貨物にとどまらない。DHLは米国内の宅配市場ではUPS、フェデックスに次ぐ3番手だが、国際エクスプレスでは世界最大手だ。シンシナティのハブは北米と欧州、アジアを結ぶ航空貨物の中核拠点で、ここが止まれば日本発着を含む国際航空貨物のネットワーク全体に影響が出る。
カナダでの3週間の業務停止では、シェイン(Shein)やテム(Temu)など中国系Eコマースの配送が直撃された。中国越境ECはDHL、UPS、フェデックスの航空貨物網に依存しており、1社が止まるだけで小口国際物流のバランスが崩れる。競合に流れた貨物の一部は、スト終結後もDHLに戻らなかったと報じられている。米国で同じことが起きれば、規模は桁違いになる。しかも26年現在、EC物量の急増でUPSもフェデックスもキャパシティの限界付近で回している。DHLが抜けた穴を競合がすべて埋められる保証はなく、荷主は高額のスポット運賃か配送遅延かの二択を迫られかねない。
カナダの妥結内容には、AIやロボティクス、在宅勤務に関する新しい契約条項が盛り込まれた。賃金と労働時間が中心だった物流の労使交渉に、「自動化が仕事をどう変えるか」という論点が正式に加わったことになる。GXOが倉庫にヒューマノイドを入れ、アマゾンが倉庫自動化を進める時代に、労働組合は「技術導入のルール」を自分たちの手で決めようとしている。米国の交渉でも同じテーマが争点になる可能性は高い。
今回のDHL交渉をさらに広い文脈で見ると、チームスターズの戦略が浮かび上がってくる。23年にはUPSとの交渉で34万人の組合員を背景に大幅な賃上げを勝ち取った。その後DHLに圧力をかけ、いずれはアマゾンの倉庫組織化も視野に入れている。物流業界で最も影響力のある労働組合が、企業ごとに「前例」をつくりながら交渉力を積み上げていく構図だ。DHLの交渉結果は、その連鎖の次のピースになる。
DHL側としては、3月31日までの合意が最善のシナリオだ。ドイツ本社のDHLグループは直近の決算発表を終えたばかりで、中東情勢に伴う物流コストの上昇に直面している。このタイミングで米国のストが重なれば、業績と顧客基盤の両方にダメージが及ぶ。
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