イベントLOGISTICS TODAYは10日、「第1回 事故ゼロ経営サミット2026」を開催した。会場では、AI(人工知能)とデータを駆使した最前線のテクノロジーから、大手物流企業が直面する生々しい現場の課題と実践知、さらには安全教育のDX(デジタルトランスフォーメーション)まで、多角的な議論が展開された。

▲LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長
会の冒頭、LOGISTICS TODAYの赤澤裕介編集長による開会挨拶と趣旨説明が行われ、「『事故ゼロ経営なくして企業の生存はない』という強い危機感を業界全体で共有し、安全管理を単なるコストではなくリスクマネジメントの投資として捉え直すべきだ」との提言がなされた。
第1部のオープニングセッションでは、予測型安全AIをグローバルに展開する米・Nauto(ナウト)のステファン・ヘックCEOと、ナウトジャパンの赤井祐記社長が登壇し、これからの安全マネジメントのあり方について熱い議論を交わした。

▲ナウトジャパン赤井祐記社長
セッションの冒頭、両氏は物流やサプライチェーンを取り巻く経営環境が地政学的リスクや相次ぐ規制緩和、法改正などによってかつてないほど不確実になっている点に言及した。特に大きな転換点として、トラック運転におけるギグワーカー、いわゆる短時間就労者の活用拡大が本格化している状況を挙げ、赤井氏は「限られた時間しか稼働しないドライバーに対して、いかに均一で質の高い安全教育を施し、安全指導の品質を担保していくかが、企業にとって新たなリスクとなっている」と警鐘を鳴らした。
このような変化のなかで、従来のドライブレコーダーに代表される「事故が起きてからの記録」や「その場での単純な危険検知」だけでは、事故を未然に防ぐ手段として限界に達している。

▲米・Nautoのステファン・ヘックCEO
ステファン氏は「衝突が発生する数秒前にリスクを予見し、車内の音声警告によってドライバーへ直接、事前に介入して回避行動を促すことこそが極めて重要である」と語り、この予測型アプローチが国内外で700社を超える企業に採用され、劇的な事故削減効果を上げている実績を紹介した。単に運転ミスを咎める監視ツールではなく、ドライバー自身が衝突前に自発的な回避行動をとれる環境をテクノロジーで支援することこそが、次世代の安全マネジメントの神髄であると強く訴えかけた。
続くパネルディスカッションでは、実際に自社へ数多くのNautoを導入している業界のトップランナー2社と安全教育の専門家を迎え、本音のディスカッションが繰り広げられた。
パネリストとして、SBSロジコムの中藤和生氏、丸全昭和運輸の飯岡剛氏、ナウトジャパンの赤井社長が登壇、赤澤編集長がモデレーターを務めた。

▲SBSロジコム 取締役 常務執行役員 管理本部長・経営企画部長の中藤和生氏
現在、SBSロジコムでは850台、丸全昭和運輸では1000台という、国内でも最大規模の運用台数を誇る。両社ともに導入初期には極めて高い事故削減効果を叩き出したものの、長期にわたる運用を続けるなかで「ある共通の壁」に突き当たっているという。
SBSロジコムの中藤氏は「当初は事故減少数が思うように減っていないのではないかと懸念していたが、細かくデータを分析していくと、実際にはNautoをうまく活用できている支店と、そうではない支店との間で結果に大きな差が出ていることが分かった。活用できている支店では、点呼時に危険挙動の動画を共有して活発な指導が行われ、管理職自身も安全管理に強い関心を持っている。一方で、活用できていない支店では、システムへのログインすら十分にされていないのが現状だ」と現場のリアルな二極化を告白した。
さらに中藤氏は「単に車載器を取り付けただけでは成果は出ない。今後は本社側から問題のある運転を具体的に指摘し、将来的には安全評価を給与へ反映させる仕組みづくりや、点呼作業そのものの標準化を目指していきたい」と今後の展望を述べた。

▲丸全昭和運輸 物流品質管理部 理事の飯岡剛氏
丸全昭和運輸の飯岡氏もこの意見に強く共感し、「やはり事業所や拠点によって、安全に対する危機意識にはどうしても大きな温度差が生じてしまう。このばらつきをどのように平準化していくかが、現在の当社における最大の課題だ」と述べた。また「不安全運転が劇的に減ったこと自体は喜ばしいが、現場がそれに安心してしまい、運用のマンネリ化を招いている側面もある。取り組みが停滞している事業所に対しては、ある種の緊張感を持たせるアプローチも必要だと感じている」と運用の難しさを吐露した。
また、飯岡氏はNautoの地図機能を用いた、改善基準告示に基づく「430休憩」(4時間走行ごとの30分休憩)の実施状況確認についても触れ、「この労務管理チェックにおいても拠点間でばらつきがあり、システムをどう全社規模で使いこなすか日々模索している」と述べた。
飯岡氏はさらに「他社よりも圧倒的に安全かつ高品質に貨物を運んでくれるという確固たる信頼を荷主企業に対して実証し続けた結果、特に化学品分野などの厳しい安全基準を求めるお客様において、当社の安全品質が正当に評価され、適正な運賃改定を受け入れていただくことができた」という、経営的に非常にインパクトのある好事例を紹介した。
安全への投資は、単に事後処理や保険料のコストを削るための「守りの施策」ではない。ドライバーの離職を防ぎ、顧客からの信頼という他社には真似できない競争優位性を築き、最終的には適正な運賃交渉を成功させて経営利益を高める「究極の攻めの投資」であるという事実が、トップランナーの実績によって力強く示された。
第2部のセッションの前には、東海クラリオンの仲田昌弘氏、カミナシの田島巧平氏、X Mile(クロスマイル)の砂川勇太氏が登壇し、各社の安全対策のソリューションを紹介した。
後半の第2部セッションでは、独自の強いリーダーシップと愚直な現場アプローチで驚異的な事故削減を達成している日商(三重県亀山市)と、運行管理者発の上申でAIドラレコを導入し、事故削減を進めている泉海商運(大阪府和泉市)が登壇した。泉海商運の本社業務部次長である伊藤巧氏、日商の稲田一輝社長、そしてディ・クリエイト社長で日本事故防止推進機構理事長の上西一美氏が、安全を形骸化させず、ドライバー一人一人の意識にまで浸透させるための「生々しい実践知」を語り合った。

▲日商の稲田一輝社長
日商の稲田氏は、社長就任以来「事故ゼロ」を経営の最優先事項に掲げ、自ら先頭に立って安全改革を推進してきた。稲田氏は「安全を単なるスローガンに終わらせないためには、経営トップが『事故は絶対に許さない』という姿勢を微塵もぶらさずに現場へ示し続けること。これに尽きる」と語る。
同社ではAIドライブレコーダー「Nauto」を導入後、その客観的なデータを単なる監視ではなく、ドライバーを守るためのツールとして徹底活用した。稲田氏自らが危険挙動のデータをチェックし、時にはドライバー一人一人と膝を突き合わせて対話を行うことで、「社長は本気だ」という緊張感と信頼感が社内に醸成された。結果として不安全運転は劇的に減少し、事故発生件数の極小化だけでなく、ドライバーがプロとしてのプライドを持ってハンドルを握る組織風土へと生まれ変わった。

▲泉海商運本社業務部次長の伊藤巧氏
一方で、現場の最前線で安全指導を担う泉海商運の伊藤氏は、Nauto導入初期に直面した「現場の強烈なアレルギー反応」とその克服プロセスを明かした。伊藤氏は「最初の頃は、ドライバーから『常に車内で監視されているようで息が詰まる』『信じられていないのか』といった強い反発の声が次々と上がった」と振り返る。
これに対し、伊藤氏は逃げることなく全ドライバーと丁寧な対話を重ねた。「これは皆さんの運転を監視し、罰するためのものではない。万が一の事故の際、皆さんの正しい運転を証明し、命と生活を守るために導入したのだ」と、導入の真意を粘り強く伝え続けた。
さらに、危険挙動の動画が検知された際も、頭ごなしに怒るのではなく「この時は何が原因だったのか?疲れていたのか?」と、ドライバーの背景に寄り添う指導を徹底した。この泥臭い対話の積み重ねにより、ドライバー側の意識は「守られている」という安心感へと変化し、自発的な安全運転の維持という目覚ましい成果へとつながっていったという。

▲ディ・クリエイトの上西一美社長
両社の生々しい実践報告を受け、ディ・クリエイトの上西一美氏は、プロの指導者としての視点から「なぜこの2社が成功しているのか」を鋭く分析した。上西氏は「多くの企業が『不安全な行動』を叱る指導ばかりに終始してしまい、現場のモチベーションを下げている。しかし、2社が優れているのは、テクノロジーのデータを『良い運転を評価し、褒めるため』に使っている点だ」と指摘する。
上西氏は、事故防止の最大の鍵は「管理者とドライバーの間の質の高いコミュニケーション」であると強調した。Nautoなどの最新デバイスによって、それまでブラックボックスだった車内の良好な運転姿勢や、危険を事前に回避したファインプレーが可視化されるようになった。これを見逃さずに点呼時などで適切に「褒める」ことで、ドライバーは自発的に安全運転を追求するようになる。
上西氏はセッションの結びとして、「安全教育を形骸化させないためには、ツールに頼り切るのではなく、可視化されたデータを媒介にして管理者と現場が日常的に『対話』を繰り返すこと。これこそが、組織に永続的な安全文化を根付かせる唯一の王道である」と提言し、セッションを締めくくった。

▲LOGISTICS TODAYの鶴岡昇平記者
サミットの総括として、LOGISTICS TODAYの鶴岡昇平記者は、「本日登壇いただいた物流会社各社に共通しているのは、いずれも物流業界の中で極めて力強い成長と拡大を遂げているトップランナー企業であるという点。成長しているからこそ安全に多額の投資を回せるのか、それとも、他社に先んじて安全に本気で投資してきたからこそ、これほどの成長を勝ち取ることができたのか。その答えは、今日の議論を聞けば明らかなように、間違いなく後者である」と語り、サミットを総括した。
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