ロジスティクスマサチューセッツ工科大学(MIT)の交通・物流センター(CTL)とメカラックス(スペイン)は10日、複数倉庫にまたがる在庫配置をAI(人工知能)で最適化するシミュレーター「ジェネシス」(Genetic Evaluation & Simulation for Inventory Strategy=GENESIS)を開発したと発表した。個々の倉庫ではなく、物流ネットワーク全体を一つの最適化問題として解くアプローチだ。遺伝的アルゴリズムを使って数千パターンのシナリオを並列に検証し、各拠点の適正在庫と補充タイミングを割り出す。(編集長・赤澤裕介)
在庫は「量」でなく「配置」の問題に
複数倉庫の在庫配置は従来、需要予測と担当者の経験に依存してきた。しかしEC(電子商取引)の拡大でSKU数と需要変動が急増し、在庫配置は人間の経験だけでは扱いきれない計算問題になりつつある。WMS(倉庫管理システム)は個々の倉庫内のオペレーションを、TMS(輸配送管理システム)は配送を最適化するが、「どの倉庫にどれだけ在庫を置くか」というネットワーク全体の意思決定を担うツールは、多くの企業でまだ整っていない。在庫配置は倉庫運営の問題ではなく、企業全体のサプライチェーン戦略の問題になりつつある。日本企業ではこの意思決定が事業部単位で分断されているケースも多く、ネットワーク全体を横断的に最適化する仕組みの整備は遅れている。GENESISはこの空白を埋める研究として開発された。
地域ごとの需要予測、輸送コスト、各倉庫の処理能力といった変数を組み合わせ、実際のオペレーションに影響を与えずにさまざまな在庫補充ポリシーを試せる。GENESISの最大の特徴は、倉庫間の在庫リバランス機能だ。サプライヤーに新規発注をかける前に、ネットワーク内の別倉庫に余剰在庫があれば移送する方が効率的かどうかをツールが判断する。輸送面でもトラック積載率を上げるための出荷統合や、配送コストを最小化する出荷拠点の選定を提案する。
データを入力すると、GENESISは最適解とともに統計ダッシュボードを生成する。消費パターン、需要変動が大きい地域、欠品リスクの高いSKU、供給に問題を抱える倉庫などの指標を可視化できる。MIT CTLのマティアス・ヴィンケンバッハ研究ディレクターは、企業がシナリオを比較し、自社のオペレーションに最適な戦略を選べる設計だと説明した。
開発を担当したMITインテリジェント・ロジスティクス・システムズ・ラボ(ILS)のロドリゴ・エルモシージャ研究エンジニアは、技術的な課題はアルゴリズムの選定ではなく実用的な速度の実現にあったと述べた。GENESISはシナリオを逐次ではなく同時並行で評価する設計を一から構築しており、従来数日かかっていた処理を数分に短縮した。
物流研究では近年、在庫管理を単独の問題としてではなく、ネットワーク全体の最適化問題として解く流れが強まっている。荷物を固定ルートで運ぶのではなく、ネットワーク上の最も効率的な経路にリアルタイムで振り分ける「フィジカルインターネット」構想がその代表例で、MIT CTLはこの分野の中心的な研究機関だ。GENESISもこうした「物流ネットワークの意思決定をアルゴリズム化する」研究の一環に位置づけられる。物流ソフトのレイヤーがWMS・TMSからネットワーク最適化へと広がり始めたなかで、物流の意思決定をアルゴリズムが担う時代に向けた在庫配置レイヤーの研究成果と言える。
GENESISは、メカラックスとMIT CTLの共同研究から生まれた最初の具体的な成果物となる。両者の連携は2024年から急速に進んでおり、研究と産業実装の距離を縮めるペースが速い。
メカラックスのハビエル・カリージョCEOは、物流ネットワーク全体のコストを最小化しながら最高水準のサービスレベルを確保することがGENESISの目標だとし、専門ユーザーだけでなく経営の意思決定者にも使える設計を重視したと述べた。
メカラックスはスペインに本社を置く保管システム・イントラロジスティクスソフトウエア大手。60年の歴史を持ち、自動倉庫、倉庫管理ソフトウエア(イージーWMS=Easy WMS)、金属ラッキングシステムを手がける。世界12の製造拠点、7つの研究開発センターを擁し、従業員数は5500人超。
■「より詳しい情報を知りたい」あるいは「続報を知りたい」場合、下の「もっと知りたい」ボタンを押してください。編集部にてボタンが押された数のみをカウントし、件数の多いものについてはさらに深掘り取材を実施したうえで、詳細記事の掲載を積極的に検討します。
※本記事の関連情報などをお持ちの場合、編集部直通の下記メールアドレスまでご一報いただければ幸いです。弊社では取材源の秘匿を徹底しています。
LOGISTICS TODAY編集部
メール:support@logi-today.com
LOGISTICS TODAYでは、メール会員向けに、朝刊(平日7時)・夕刊(16時)のニュースメールを配信しています。業界の最新動向に加え、物流に関わる方に役立つイベントや注目のサービス情報もお届けします。
ご登録は無料です。確かな情報を、日々の業務にぜひお役立てください。





















