国際米軍は13日、イランの石油積出拠点カーグ島の軍事施設を空爆した。ドナルド・トランプ大統領は石油インフラへの攻撃は回避したと表明したが、ホルムズ海峡の封鎖は続いている。ブレント原油は100ドル前後で高止まりし、為替は159円台まで円安が進み、軽油の政府補助なし試算は1リットルあたい249円に達した。9日時点の店頭価格149.8円との差は100円近い。原油高と円安の転嫁はこれからだ。(編集長・赤澤裕介)
供給途絶、日量800万バレルの衝撃
2月28日の開戦から2週間。カーグ島はイラン原油輸出の90%を扱う戦略拠点だが、トランプ氏は軍事目標のみを破壊し、石油積出設備は温存した。「海峡通過を妨害するなら石油インフラも破壊する」との警告を付け、カーグ島を交渉カードとして残した形だ。
これに対し、イランの新最高指導者モジタバ・ハメネイ師は封鎖の継続を宣言した。米政権内でも足並みは乱れている。クリス・ライト・エネルギー長官は13日、海軍が護衛作戦の準備を終えていないと認めた。スコット・ベッセント財務長官は「軍事的に可能になり次第」護衛を始めると述べたが、ピート・ヘグセス国防長官は時期も詳細も示さなかった。
IEA(国際エネルギー機関)の3月石油市場報告は、この危機を「世界の石油市場史上最大の供給途絶」と断じた。海峡経由の原油・石油製品の流れは開戦前の日量2000万バレルから激減し、IEAの推計では3月の世界全体の供給量が日量800万バレル減少、湾岸産油国は少なくとも日量1000万バレルの減産に追い込まれた。出口が塞がれ、貯蔵タンクが満杯になれば、生産を止めるしかない。サウジアラビアはヤンブー港経由、UAEはフジャイラ港経由で代替輸出を拡大しているが、パイプライン容量には限界があり、IEAは迂回ルートを使っても日量1600万バレルの流れがリスクにさらされていると指摘する。
既報の通り、IEA加盟国は11日に過去最大の協調備蓄放出として4億バレルの緊急放出で合意した。ただしIEAは同報告で、この放出を「紛争が迅速に解決されなければ一時しのぎの措置にとどまる」と位置づけている。
海峡をいま通過しているのは、制裁回避の「シャドーフリート」がほとんどだ。海事情報会社ウインドワードの分析によると、3月のホルムズ海峡通過船舶の半数がこのシャドーフリートで、西側の商業船舶はほぼゼロの状態が続く。UKMTO(英国海運貿易オペレーション)の集計では、開戦以降に少なくとも16件の船舶攻撃が報告されている。本誌が先に報じた通り(※1)、戦争リスク保険料は紛争前から数倍〜数十倍に急騰し、VLCC(超大型タンカー)1隻の通過で1000万ドル規模の保険料がかかる水準に達した。既報の通り、邦船3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)のホルムズ通過停止も続いている。
※1…ホルムズ海峡、通航ほぼ停止のまま2週目へ(3月12日)
ブレント原油は13日の取引で100ドル前後で推移した。9日には一時119ドル台まで急騰した。EIA(米エネルギー情報局)は今後2か月間95ドル超を予測するが、この見通しは海峡の早期再開が前提だ。封鎖が長期化すれば、ゴールドマン・サックスが想定する110ドル、オックスフォード・エコノミクスが「世界経済の限界点」とする140ドルに向かうリスクがある。
物流への打撃は燃料価格に直結する。日本は原油輸入の9割超を中東に依存し、その大半がホルムズ海峡を経由する。政府は既報の通り石油備蓄の放出を表明しており、民間備蓄15日分と国家備蓄1か月分の計45日分を放出する。国家備蓄は消費量の146日分、民間・産油国共同備蓄を合わせると254日分あるが、封鎖が月単位で続けばこのバッファーも削られていく。
問題は原油高だけではない。為替市場では円がドルに対し159円台まで下落した。原油の輸入コストは「ドル建て原油価格×為替レート」で決まるため、円安は原油高と同じ方向に燃料価格を押し上げる。資源エネルギー庁が発表した9日時点の軽油全国平均小売価格は149.8円/Lで4週連続の上昇だったが、原油高と円安の転嫁はまだ十分に反映されていない。当社のシミュレーション(起点:原油65ドル、為替149円、本体115円、政府補助なしベース)で、14日時点の為替159円を前提に原油価格帯別の軽油小売価格を試算した。
本誌が先に報じた(※2)原油150ドルシナリオでは軽油350-375円に達し、全日本トラック協会の経営分析データに基づく試算では全規模の運送事業者が営業赤字に転落する計算になる。トラック運送だけではない。内航海運もA重油・C重油の高騰で採算が悪化しており、モーダルシフトの受け皿としての機能が揺らぎかねない。燃料サーチャージの再計算と荷主との価格交渉が待ったなしの局面だ。
※2…軽油375円のシナリオも、全規模で赤字転落の恐れ(3月7日)
石化原料の途絶も深刻さを増している。本誌が先に報じた通り(※3)、国内では三菱ケミカルがエチレンの減産を始め、出光興産もエチレン生産設備の停止可能性を取引先に通知した。ナフサ在庫は国内全体で20日程度とみられ、3月下旬には在庫の限界に達するプラントが出てくる。エチレン減産はポリエチレンやポリプロピレンの供給を絞り、包装資材や樹脂パレットの不足につながる。
※3…石化プラント減産、物流資材不足が4月迫る(3月9日)
海外ではタイの石化大手ラヨンオレフィンズ(サイアムセメント傘下)がナフサ・プロパンの調達不能で操業を停止した。カタールのラスラファンLNG(液化天然ガス)施設は3月初旬から操業を停止しており、再稼働には数週間かかるとされる。北東アジアのLNG価格は倍以上に跳ね上がった。現地報道によると、フィリピンは政府機関を週4日勤務に切り替え、タイは軽油の価格上限設定と輸出禁止に踏み切った。燃料と石化原料の両面で、アジアの製造・物流ネットワークが締め上げられている。
荷主側でもフォースマジュール(不可抗力)宣言が広がり始めた。シンガポールやインドネシアの石化大手が相次いで宣言しており、日本の荷主企業にも在庫の前倒し確保やサプライヤー切り替えの動きが出ている。護衛再開の見通しが立たない以上、物流事業者はこの混乱が数か月続く前提で動く必要がある。調達先の多元化、在庫水準の引き上げ、燃料コストの荷主への価格転嫁の3つを同時に進めなければならない。
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