国際米国・イスラエルによるイラン攻撃開始から12日目を迎えたホルムズ海峡は、商業船の通航がほぼ止まったままだ。11日にはIEA(国際エネルギー機関)加盟国が史上最大となる4億バレルの戦略備蓄放出で合意したが、原油価格は反発し、効果は限定的だった。迂回の長期化と燃料コスト上昇が物流全体に広がっている。(編集長・赤澤裕介)
通航量は平時の1割以下、イラン・中国関連船が中心
11日のホルムズ海峡を通航した商業船は8隻。12日未明にかけてさらに4隻が確認されたが、いずれもイラン関連タンカーや中国との商業的つながりを持つ船舶だった。西側の商業船は事実上ゼロの状態が続いている。
平時の海峡は1日100-150隻が行き来する世界最大級のチョークポイントだ。CSIS(戦略国際問題研究所)がスターボード・マリタイム・インテリジェンスのAIS(自動船舶識別装置)データをもとにまとめた分析では、紛争前の平均は1日あたり153隻。JMIC(統合海事情報センター)は138隻としている。2日には13隻まで落ち込み、6日には2隻にとどまった。通航量は90%超の減少が続いている。

▲ホルムズ海峡の通航量推移
海峡周辺には数百隻規模の船舶が停泊を余儀なくされている。ウインドワードの分析によると、ドライバルク船の通航も91%減少し、280隻のばら積み船が湾内に足止めされている。コンテナ大手のAPモラー・マースク、CMA CGM、ハパックロイドはいずれも海峡通過を停止した状態だ。
封鎖を成り立たせているのは軍事的脅威だけではない。主要P&I保険(船主相互保険)がペルシャ湾の戦争リスク担保に対し72時間の解約通知を出し、ロンドンの再保険市場も一時的に引き受けを停止した。海事保険業界の報告によると、戦争リスク保険料は紛争前の船舶価値の0.15-0.25%から、直近では2.5-7.5%に急騰した。仮に船舶価値1億3800万ドルのVLCC(超大型タンカー)がホルムズ海峡を通過する場合、1回で1000万ドル規模の保険料がかかる計算になる。この軍事リスクと保険コストが重なり、商業船の通航は経済的に成り立たない状態になっている。
迂回が常態化することで、航海距離が延びた分だけ世界の有効船腹が目減りする構造的な問題も出ている。紅海危機と同じメカニズムだ。VLCCのスポット運賃は過去最高水準の日建て70万-80万ドルに達している。
通航を試みているのは、制裁対象のイラン関連VLCCや、AIS上で中国の所有・乗組員であることを発信して攻撃回避を図る船舶が中心だ。海外報道によると、イランは開戦以降少なくとも1170万バレルの原油を海峡経由で中国向けに出荷した。
米統合参謀本部議長のダン・ケイン大将は10日の記者会見で、商業船通航再開に向けた軍事的条件の整備を検討していると述べた。ただ具体的な護衛オペレーションの開始時期は示されていない。
IEAの備蓄放出は11日、加盟32か国の全会一致で決定した。4億バレルという規模は、22年のロシア・ウクライナ侵攻時に放出した1億8200万バレルの2倍以上にあたる。IEAのファティ・ビロル事務局長は「加盟国が保有する12億バレル超の公的備蓄から放出する」と述べた。G7だけで全体の70%を占めるとエマニュエル・マクロン仏大統領は説明した。

▲IEA備蓄放出の主な国別内訳
日本は各国に先駆け、16日にも単独で備蓄放出を始める。高市早苗首相は11日夜、「IEAと連携した国際的な備蓄放出の正式な決定を待たず、備蓄放出を行うことを決定した」と表明した。国家備蓄1か月分と民間備蓄15日分をあわせた計45日分、8000万バレルを放出する。国家備蓄の単独放出は1978年の制度開始以来初めてだ。高市首相は「今月下旬以降、わが国への原油輸入は大幅に減少する見通しだ」と理由を説明した。
あわせて高市首相は、ガソリン小売価格を全国平均で170円程度に抑える激変緩和措置を19日から実施するよう赤澤亮正経済産業相に指示した。軽油・重油・灯油も対象とする。25年末にガソリン税の暫定税率を廃止した際に取りやめた補助金を再開する形だ。
ただ、この放出量でも効果は限定的だ。IEAのビロル事務局長によると、海峡封鎖により1日あたり原油1500万バレル、石油製品500万バレルが市場から消えている。単純計算で4億バレルは20日余りで吸収される。海外アナリストは「世界の生産量の4日分、湾岸からの輸出量の16日分にすぎない」と指摘した。
市場はこの評価を織り込んだ。11日の終値はWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)が87.25ドル(前日比+4.55%)、ブレント原油が91.98ドル(同+4.76%)。日本の輸入価格に最も連動するドバイ原油(プラッツ)は107.55ドルで、52週高値をつけた。備蓄放出の報道で一時81ドル台まで下落する場面もあったが、海峡での商業船攻撃継続が報じられると反発した。開戦前の70ドル前後と比べ、WTI・ブレントはなお25-30%高い水準にあり、ドバイ原油はブレントに対して15ドル超のプレミアムがついている。アジア向け中質サワー原油の供給が逼迫していることを示している。

▲原油価格の推移(3月11日)
海外報道によると、イランはホルムズ海峡への機雷敷設を始めたとみられる。複数の関係筋の情報として伝えられており、米議会の報告ではイランは6000発の機雷を保有しているとされる。海外の投資顧問会社アナリストは「機雷敷設で危機は新たな局面に入った」との見方を示した。
物流への影響は多方面に及んでいる。海峡は世界の原油輸送の20%、LNG(液化天然ガス)の20%が通過するチョークポイントであり、封鎖の長期化がサプライチェーンに影響を広げている。
喜望峰経由への迂回が常態化し、輸送日数は10-14日程度延びているとみられる。IEAのビロル事務局長は「世界のLNG供給が20%減少した」と述べ、アジアと欧州が残りの貨物を奪い合う状況が生まれていると指摘した。
日本への影響は大きい。中東からの原油調達は全輸入量の95%を占め、そのうちホルムズ海峡を経由する分が70%にのぼる。日本は254日分の備蓄を保有しているが、LNGの在庫は発電用で2-3週間分にとどまる。ただし日本のLNG輸入に占めるホルムズ経由の割合は6%程度で、中東全体を含めても11%にとどまるため、ホルムズ封鎖だけでLNGが即座に枯渇するわけではない。問題は、世界的なLNG争奪戦によるスポット価格の高騰が電力コストを押し上げることにある。

▲日本のエネルギー依存構造と備蓄
木原稔官房長官は11日の会見で、イランの機雷敷設報道について「重大な関心を持って情報収集を続けている」と述べた。安保法制の議論でホルムズ海峡への機雷敷設は存立危機事態の具体例とされてきたが、木原長官は「現在の状況が存立危機事態に該当するといった判断は行っていない」と明言した。9日には茂木敏充外務大臣がイラン外相と電話会談し、航行の自由を脅かす行為の即時停止を求めている。
邦船大手3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)はホルムズ海峡の通航を停止したままだ。石油化学大手もナフサ不足で減産を拡大している。
湾岸の精製能力も大幅に低下している。サウジアラビア、イラク、UAE、クウェートの各国で生産が減少し、精製品(軽油・ナフサ)の供給が滞っている。サウジアラビアは紅海側のヤンブー港からの輸出を拡大し、ペトロライン・パイプライン経由でアラビア半島を迂回するルートを稼働させているが、容量は限られる。
アジア各国は「自国優先」の姿勢を強めている。中国は石油製品の輸出を停止し、韓国は上限を設定した。海外報道によると、バングラデシュが石油備蓄施設に軍を配備し、インドは天然ガス・調理用ガスの管理を強化した。フランスではガソリンスタンドの不当な価格吊り上げに対する査察が行われている。
封鎖がいつ解除されるかは不透明だ。ドナルド・トランプ米大統領は「戦争はすぐに終わる」と繰り返し発言する一方、イランへの追加攻撃を示唆する投稿も続けている。フランスのマクロン大統領が封鎖解除のブループリントを提示したが、即時の効果は見込めない。
クプラーのホメイウン・ファラクシャヒ氏は備蓄放出について「海峡封鎖が45-50日続く場合を想定した規模だ」と分析した上で、「4月中旬を超えれば経済危機を防げない」と警告した。
今後の焦点は3つある。1つ目は米軍の護衛オペレーションが実現するかどうか。商業船の通航再開には軍事的な安全確保が前提になるが、機雷の存在がその難度を上げている。2つ目は備蓄放出の実効速度だ。日本は16日から放出を始めるが、国内の内航船やパイプラインの輸送能力がボトルネックになる可能性がある。3つ目はナフサ・軽油など精製品の不足がいつ国内の生産活動に波及するか。石化大手の減産はすでに始まっており、包装資材や樹脂原料への影響が今後数週間で表面化する見通しだ。
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