調査・データ全日本トラック協会の経営分析報告書(令和5年度決算版)をもとに、車両規模別の月次資金流出を試算した。結果は想定より深刻だ。足元の軽油178.4円で、平均値ベースでは50台以下は価格転嫁が3割進んでも赤字圏にとどまる。20台以下は危機前から赤字だった。20台以下は業界の事業者数の6割を占める。この層の出血を、ホルムズ危機が加速させている。(編集長・赤澤裕介)
まず前提を押さえる。全ト協が2451社の決算データを集計した令和5年度版の報告書で、車両規模別の営業損益率はこうなっている。
20台以下は危機前から本業で赤字だった。しかもこの規模帯が業界の多数派を占める。業界の過半数は、ホルムズ危機が起きる前からすでに本業で赤字だった。営業外収益(助成金、保険金など)で経常損益をかろうじて持ち上げている状態だ。この薄い緩衝材の上に、軽油の急騰が乗る。
軽油180円で何が起きるか
全ト協データの軽油費は令和5年度(2022年10月-24年8月)の決算実績であり、この期間の軽油全国平均は補助金込みで140-150円/L前後だった。ここから足元の178.4円(3月16日時点)、そして200円への上昇を想定して、月次の追加負担を試算する。

▲軽油180円・200円時の月次追加負担と損益インパクト(注:追加負担は現行軽油費に対する20%増(180円想定)、33%増(200円想定)で算出。価格転嫁ゼロの場合。月次営業損益は年間値の12分の1、クリックで拡大)
まず20台以下を見る。10台以下は現行ですでに月16万円の営業赤字だ。軽油180円でさらに月15万円が上乗せされ、月31万円の赤字になる。200円なら月41万円。年間に直すと492万円の赤字で、売上高6408万円の事業者にとっては致命的だ。11-20台も現行で月8万円の営業赤字を抱えている。軽油180円では月46万円、200円では月71万円の赤字に膨らむ。
次に21-50台。月13万円の黒字を辛うじて保っているが、軽油180円で月84万円の追加負担が発生し、月71万円の赤字に転落する。平均的な収益構造では、50台以下は180円で営業赤字に転落する。
51-100台でも、180円で月次黒字105万円に対して追加負担171万円。差し引き月66万円の赤字だ。101台以上ですら、月310万円の営業利益に対して追加負担385万円で、月75万円の赤字に沈む。
転嫁がなければ、軽油180円で50台以下は全て営業赤字だ。51台以上も利益の大半が吹き飛ぶ。足元の178.4円はほぼその水準にある。
上の試算は価格転嫁ゼロのケースだ。帝国データバンクと中小企業庁の調査ではエネルギーコストの転嫁率が30-35%。仮に3割転嫁できたとして再計算する。
3割転嫁では50台以下は止まらない。180円台はすでに「利益が削られる水準」ではなく、「平均値ベースで赤字に落ちる水準」だ。51台以上は180円時点でようやく収支が均衡するが、200円に到達すれば平均値ベースでは全規模が赤字に沈む。転嫁率を5割に上げても、20台以下は赤字から抜けられない。もともとの営業利益が赤字だからだ。
ここまでのシミュレーションは損益計算書の話だ。現場で問われているのは利益ではなくキャッシュだ。
燃料費は即日現金で出ていく。運賃は翌月末や翌々月末に入る。燃料サーチャージの交渉が成立するまでに3か月はかかる。この「3か月の空白」の間、追加コストは全額自社負担になる。その後に3割転嫁が実現したとしても、出血は止まらない。
では「あと何か月持つか」。手元資金を2つのケースで置いて試算する。全ト協データには現預金の内訳がないため、売上高の1か月分と0.5か月分を仮定した。読者は自社の数字を当てはめてほしい。
<前提>
– サーチャージ反映まで3か月。それまでは追加燃料費を全額自社負担
– 4か月目以降は追加分の3割を転嫁(帝国データバンク・中企庁調査の実績値)
– 既存の営業赤字(20台以下は月8-16万円)は継続
20台以下を、全ト協の区分に従って2つに分けて試算する。
■ 10台以下(月商534万円、手元資金534万円の場合)
手元資金が月商の半分(267万円)しかない場合は1年強。軽油が200円に上がれば、月商1か月分の手元資金でも15か月、半月分なら10か月で枯渇する。ただしいずれも転嫁が成立した場合に限る。
■ 11-20台(月商1374万円、手元資金1374万円の場合)
11-20台は月商ベースの手元資金があれば表面上は時間がある。だがこれは3か月で交渉が成立し、3割転嫁が実現した場合の数字にすぎない。手元資金が500万円しかなければ1年強。200円ケースで手元500万なら10か月だ。転嫁が成立しなければ、この数字はさらに縮む。
ここで見落としてはならないのは、上記の試算が「サーチャージ交渉が3か月で成立し、3割転嫁が実現した場合」だということだ。現実には交渉が成立しない事業者がいる。全ト協の景況感調査では「価格転嫁が十分に追いつかない」との指摘が続いている。転嫁ゼロのまま推移するケースでは、月次の資金流出は改善しない。10台以下で手元500万円、転嫁ゼロなら16か月で尽きる。
全ト協データのもう1つの読み方がある。20台以下で営業利益を計上できた事業者は半数にとどまる。10台以下は799社中384社で48%、11-20台は762社中386社で51%。裏返せば、20台以下の半数はすでに営業赤字だった。ホルムズ危機前の数字だ。ここに軽油180円が乗る。赤字幅が大きい事業者ほど、上の試算より早く資金が尽きる。
この記事の試算は「平均値」だ。自社の月商、手元現預金、軽油の調達価格、支払いサイトを当てはめれば、あと何か月持つかは自分で計算できる。月次の追加燃料負担と既存の営業損益を足し合わせ、手元資金を割る。その数字が、金融機関に相談すべきタイミングを決める。
178円は作られた価格、半年をこう組む
ここまでの試算は軽油178.4円を前提にしている。だがこの数字は素の市場価格ではない。政府の激変緩和措置(170円超を全額補助)と石油備蓄放出(民間15日分+国家1か月分、合計45日分)の2つで押さえ込んだ結果だ。本誌の試算では、補助なしなら軽油は308円に達する。178円で半年間の資金繰りを組むのは危険だ。
補助金の財源は厚くない。備蓄も放出を続ければ減る。ホルムズ海峡の通航が回復しなければ新規の原油輸入は細り続ける。現状の178円台は政策で押さえ込まれた価格であり、これを前提に半年の資金繰りを組むのは危うい。
半年の資金繰り計画は、補助金と備蓄がいつまで持つかを前提に3段階で組む。
シナリオAは現状維持であり、前段までの試算がそのまま当てはまる。50台以下は月次赤字が続き、手元資金が削られていく。
シナリオBは4-6月に起こりうる。補助金の基金が尽きた段階で、政府が170円の完全抑制を維持できなくなる局面だ。軽油200円なら、前段の試算で示した通り、10台以下で月41万円の営業赤字、手元500万円なら12か月で枯渇する。
シナリオCはホルムズ封鎖が長期化し、備蓄の残量が政治的に放出しにくい水準まで減った場合だ。本誌の試算では補助なしで軽油308円。この水準では50台以下どころか、101台以上の大手でも営業赤字が避けられない。3月3日付の本誌記事で報じた「97%が赤字圏」が現実化する。
半年の資金繰りで今すぐやるべきことは3つある。
(1)自社の月次資金流出を、シナリオBの軽油200円で再計算する。178円の現状値ではなく、補助縮小後の価格で組む。シナリオAで計画を立てると、補助が縮小した時点で修正が間に合わない。
(2)サーチャージ交渉を「補助前の実勢価格」ベースで始める。補助後の小売価格で計算すると、補助が縮小した瞬間にサーチャージの根拠が崩れる。本誌12日付で報じた通り、岡山県では補助前の実勢としてインタンク240円が提示された事例がある。サーチャージの算定基準は自社の実調達価格に置くべきだ。
(3)金融機関への相談は、資金が尽きる直前では遅い。審査と実行には時間がかかるため、シナリオBで12か月持つ計算でも、相談は今月中に始めるべきだ。金融庁が緊急要請を出した直後の今が、相談のハードルが最も低い時期だ。
◆ この記事をより深く読むために ◆
今回の試算の出発点となった金融庁の緊急要請と、帝国データバンクの「4社に1社が赤字転落」の試算を整理した記事がある。本記事は規模別に解像度を上げた続報にあたる。
「資金ショートが現実に、金融庁が緊急要請」(3月23日)
全ト協の経営分析データを使い、軽油300円の最悪想定で97%が赤字圏に入るシミュレーションは3日付の記事で掲載済みだ。今回の記事は180円という「いま目の前にある価格」にフォーカスした点が異なる。
「軽油300円最悪想定、運送97%が赤字圏に」(3月3日)
岡山県の運送会社がインタンク納入で1リットル240円を提示された事例を含む、現場レベルの軽油調達の実態はこちら。「情報格差が経営判断を分ける」という視点は、今回の規模別試算とも直結する。
「軽油急騰で試される運送経営、情報格差が明暗」(3月12日)
軽油200円超の世界で国内物流に何が起きるかを試算した記事。本誌独自の軽油価格シミュレーション計算式の初出でもある。
「軽油200円超が現実に、原油と円安の二重圧力」(3月9日)
本記事の後半で触れた「補助なしなら308円」の試算を含む、軽油価格と封鎖長期化の影響を整理した初期の記事はこちら。本誌独自の軽油価格シミュレーション計算式を使い、原油シナリオ別の軽油価格を試算している。
「軽油300円超も、封鎖長期化の衝撃」(3月3日)
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